DJ酒造、ラップ好き書道家、畳職人兼ラッパー、元レゲェ・アーティストの茶導師… あの日のヘッズが歩んできたヒップホップ・キャリアとは?

異色の経歴を持つ日本文化の職人たちの譲れない美学

ライター:TARO

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについてインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今回は番外編。これまでに取材したゲストの中から、ヒップホップ文化を愛する日本文化の職人さん、アーティストさんたちのエピソードを紹介します。明日からの人生に役立つお話が盛りだくさんです。

前回までの記事はこちら→ プロバスケットボール選手・遠藤 祐亮のヒップホップ・バスケ道とは?

「どん底の時にNORIKIYO『暁』が流れて、泣いてもーたんすよ」酒蔵・元坂新平

三重県の酒造・元坂酒造(げんさかしゅぞう)の7代目である元坂新平さん。ヒップホップ大好き少年だった元坂さんは高校卒業後、プロのDJを夢見て東京へ上京。しかし音楽で食べていくことはなかなか厳しく、地元に戻り、酒造を継ぐことに。

お父さんに教えてもらいながら酒造りに励んでいたのだけど、そんな元坂さんがどん底に突き落とされたのが、新型コロナウイルスの大流行。取引先の飲食店が全て休業になり、酒が全く売れなくなったんだ。倒産の危機に見舞われ、失意の中でなんとなく音楽を流していた元坂さんの耳に入ってきたのが、NORIKIYOの「暁」だ。

自信も全て失くして、日本酒終わったなぁと思ってた時に「何かまだまだやれるぞ」って思わせてくれたのが、NORIKIYO「暁」だったんだ。まさにヒップホップに救われた元坂さんはその後、酒蔵を立て直し、ヒップホップバイブスを詰め込んだ新作日本酒「KINO」を開発。現在は日本だけでなく、海外へ日本酒を広める活動にも力を入れているんだ。

記事はこちら→ヒップホップ好き酒蔵 / 元坂 新平を救ったラップ曲

「尖った作品を作りたい時はKaine dot Coを聴きますね」書道家/墨象家・古川司裕

東京を拠点に、書道家/墨象家として既存の書道家の枠にハマらないアート活動を行っている古川司裕さん。書道作品を作る際にはよく音楽を流すそうで、特に尖った作品を制作する時は、Kaine dot Coの「 Circulate feat. 釈迦坊主, Dogwoods (Prod. DJ UPPERCUT)」をよく聴くとのこと。

幼い頃から書道を習っていた古川さんなんだけど、昔はただお手本を綺麗に写すことにあまり本気になれなかったんだって。

そんな古川さんの転機となったのが、アートとしての書を確立した書道界のレジェンド、井上有一や比田井南谷の展覧会を見に行った時のこと。書の中の概念がガラっと変わって、文字に固執しなくてもいいし、もっと自由に表現して良いんだって気づいたんだ。

そこから書道に本気になった古川さんは独自のスタイルを確立。墨の濃淡で人型をとる-JINTAKU-や、体の動きを利用して書く-動書-を発表し、多くの企業とコラボするなど、まさにオリジナルな活動で書道のアートとしての可能性を広げているんだ。

記事はこちら→書道家/墨象家 古川司裕が書を書くときに聴くヒップホップ曲

「古ゴザの交換の時に聴くのはYZERR『Change』です」畳屋ラッパー・徳田直弘 a.k.a. MC TATAMI

福岡県朝倉市の117年続く老舗、徳田畳襖店の4代目後継者、徳田直弘さん。

平日は畳職人として働く傍ら、ラッパー、MC TATAMIとして畳と地元、朝倉市について広める活動を行っている。畳という素材にヒップホップのクリエイティビティを融合させたアート制作でも注目を集めているんだ。

そんな徳田さんは元々ミュージシャン志望。高校卒業後は音楽で生計を立てたいと思い、就職した会社を1年で退職、ミュージシャンを目指していたんだ。しかし上手くいかず落ち込んでいたところに、当時のスクールの先生から「歌う畳屋さんになって畳業界を盛り上げなさい」と言われたことで一念発起。畳職人とラッパーを両立させた畳屋ラッパー・MC TATAMIとして世の中に畳の良さを伝える活動を始めたんだ。

そんな徳田さんが仕事中に聴くのが、YZERR「Change」。お客さんのところから古い畳を仕事場に持って帰ってきて、最初に横についてる畳の縁(へり)、古ゴザの部分を剥がす時によく流しているんだって。

記事はこちら→畳屋ラッパー / 徳田直弘 a.k.a. MC TATAMIが『畳を作る時に聴くラップ』

「自分には生きてる価値があるのかなて思ってて。立ち上がる力をくれたのはBes『明日の風』でした」茶導師・梅原宗直

元レゲェ・アーティストという異色の経歴の茶導師、梅原宗直さん。

現在は和歌山県・高野山で国内の観光客とインバウンド向けに茶道体験を行なっている梅原さんだけど、元々は30歳まで建築関係の会社でサラリーマンとして働いていたんだって。30歳でお茶の世界の素晴らしさを知り、真剣にやりたいと思った梅原さんはなんと会社を退職。アルバイトをかけもちしながら、茶道を本気でやり始めたんだ。

しかしなかなかうまく行かず、2年間はまったく芽が出ない日々に。なかなか世間に認められないことで梅原さんは自分には生きてる価値があるのかってところまで追い込まれてたんだけど、そんな梅原さんにもう一度立ち上がる勇気をくれたのがBES「明日の風」だ。

歌い出しの「俺は生きてる価値がある こけてもまた立ち上がる」という歌詞に勇気をもらった梅原さんは高野山に飛び込み営業に行き、さまざまなトラブルを乗り越えて、高野山で茶道体験を行うことを認められる。そして徐々に茶導師として認められていった梅原さんは現在は海外にも活動の幅を広げており、タイやシンガポールなど東南アジアでの茶席体験も行っているんだ。

記事はこちら→ 茶導師・梅原宗直「自分を救ってくれたラップソング」

 

ヒップホップを愛する日本文化の担い手たちの人生をより深く知りたい人はぜひ記事のリンクをチェックしてみてね!

プロフィール

  • 元坂新平(げんさか・しんぺい)

    元坂新平(げんさか・しんぺい)

    三重県の酒蔵「元坂酒造」7代目。専務取締役。 高校卒業後に上京し、都内のクラブでDJとして活動した後、地元に戻り父である「元坂酒造」6代目・元坂 新 (げんさか・あらた)から酒造りを学ぶ。現在は三重県の土着品種「伊勢錦」と地元の宮川の水で作られた「“HOOD(地元)"を醸す酒」を作ることに力を入れており、昨年には「全ての産業は農に帰する」というテーマの元に作られた「新ブランド「KINO/帰農」をリリースした

  • 古川司裕(ふるかわ・しゆう)

    古川司裕(ふるかわ・しゆう)

    8歳から書道を始め、21歳で毛筆・硬筆師範を取得。 比田井南谷に影響を受け、書や絵画の枠にとらわれない美的表現を追及。 【書は線による表現】という信念の書風で、言語を通さないモノの捉え方を研究している。 墨の濃淡で人型をとる-JINTAKU-や、体の動きを利用して書く-動書-を発表し、書の可能性を追求。 また商品ロゴや題字制作、各企業とのコラボなど、活動は多岐に渡る。 2019年以降国内外出展にも精力的に参加。

  • 徳田直弘(とくだ・なおひろ)

    徳田直弘(とくだ・なおひろ)

    福岡県朝倉市の117年続く老舗、徳田畳襖店の4代目後継者、国家資格 1級畳製作技能士。平日は畳職人として働く傍ら、ラッパー、MC TATAMIとして畳と地元、朝倉市について広める活動を行う。畳という素材にヒップホップのクリエイティビティを融合させたアート制作でも注目を集めており、その活動は音楽に留まらず、アパレルやアートにまで及ぶ。2022年は博多阪急で個展を開催し、アート19作品を売約した。

  • 梅原宗直(うめはら・そうちょく)

    梅原宗直(うめはら・そうちょく)

    茶導師。世界遺産である高野山を拠点に国内外で活動している。 大学卒業後、横浜でレゲエDJとして活動した後、茶道の道へ。2009年には武家点前流派最⾼位免状「皆伝」を取得。その後は全国各地で茶席を担当する。 2018年には高野山真⾔宗総本⼭⾦剛峯寺の奥殿にて、 ⾼野⼭参与会員限定での茶席 を⼀個⼈にて初担当。奥ノ院にて⽇々執り⾏われる「⽣⾝供(しょうじんぐ)」の抹茶を 奉納・給仕監修する。 現在は高野山にてカフェ「和真庵 」を営む傍ら、海外にも活動の幅を広げており、タイやシンガポールなど東南アジアでの茶席体験も行っている。