映画 『ザ・ファイブ・ブラッズ』を観るべき5つの理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.48

埋蔵金探しをめぐる黒人ベトナム帰還兵たちの戦争ドラマ。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
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今回取り上げるのは『ザ・ファイブ・ブラッズ』。アフリカ系アメリカ人視点のベトナム戦争を描いた作品で、奇しくも2020年のBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動の最中に公開されたスパイク・リー監督の最新作だ。

『ザ・ファイブ・ブラッズ』ってどんな映画?

 

ベトナム戦争帰還兵である4人の黒人元兵士たちは、戦死した隊長ノーマン(チャドウィック・ボーズマン)の遺骨をアメリカに持ち帰る名目で、数十年ぶりにベトナムの地に舞い戻ってきた。

しかし彼らの裏の目的は、戦時中に埋めた金塊を掘り起こすこと。秘密の計画を嗅ぎつけた現地のベトナム人や、偶然居合わせた慈善活動家のフランス人を巻き込んだ金塊争奪戦が勃発することに!?

 

『ザ・ファイブ・ブラッズ』を観るべき5つの理由

①ベトナム戦争における黒人兵士の複雑な立ち位置

ベトナム戦争当時、アメリカ人口で黒人が占める割合は11%なのに戦場に駆り出された黒人兵士へ32%だった。こんなにも黒人たちに負担が強いられた背景には、当時繰り広げられていた黒人の権利の保証を要求する公民権運動があったんだ。

黒人たちはアメリカで正当な権利を得るためにアメリカへの貢献としてベトナム戦争に前線に立っていたんだけど、白人なら当然持っている権利を、戦争に従軍するという大きな犠牲を払わないと得られないなんて、おかしな話だよね。

そんな戦時中に公民権運動の先駆者であり非暴力を掲げてベトナム戦争にも反対していたキング牧師が暗殺されてしまう。実在のラジオDJでありベトナム戦争時にアメリカ軍の軍営ラジオ放送でアナウンサーを務めた“ハノイ・ハンナ”ことチン・ティ・ゴは、劇中で米軍の黒人兵に向けて「キング牧師暗殺のデモでブラザーたちが殺されているのに、なぜベトナムで戦っているのか? 本当の敵は誰なんだ?」と、ラジオを通して語りかけている。

当たり前の権利のために多くの犠牲を払った戦争から半世紀以上経った今も、黒人に対する差別はなくなっていないことに、問題の深さを感じずにはいられない。

②戦争映画に対するスパイク・リー監督の想い

アメリカの戦争映画で黒人がほとんど不在なことに、スパイク・リー監督は憤りを感じていた。鬱憤が爆発したことで有名なのはクリント・イーストウッド監督との喧嘩だ。イーストウッドが監督した『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』の硫黄島二部作で、黒人兵士を1人も登場させなかったことについて、スパイク・リー監督は彼を非難したんだ。

実は本作も脚本の段階では白人が主人公だったそうだ。しかし脚本を気に入った監督が「多くの黒人がベトナム戦争で戦っていたのに、彼らを中心に描いた作品がほとんどないのはおかしい」と考えて、黒人を主人公に変更したという。長らく戦争映画でいないことにされていた黒人に光を当てようとする強い志を感じるよね。

ちなみにリー監督の制作会社「40 Acres & A Mule Filmworks」の「40エーカーとラバ1頭」は「破られた約束」の代名詞として有名な言葉だ。南北戦争後に奴隷解放される黒人に保証された約束で、農地の40 エーカー(16 ヘクタール)の土地と、くわ代わりにラバを1頭与えることで土地の耕作ができるというものだが、その約束が果たされることはなかった。アメリカの歴史において、ずっと報われずにいる黒人たちのために映画を撮り続けている監督の意志が刻みこまれている名前だ。

③黒人に対する多面的な視点

リー監督は黒人をステレオタイプとしてもただの被害者としても描かない。4人組のひとりであるポールはドナルド・トランプの支持者で「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に )」と描かれたトランプの赤い帽子をかぶる黒人だった。

ポールは黒人を守るために「移民は追い返して壁を作らないと」と差別的な発言をしたり、昔のことは水に流そうと酒を奢ってくれた元ベトコン(南ベトナム解放民族戦線の兵士)にも敵意むき出しな態度をとっている。

なぜ彼が黒人でありながら差別主義者であるトランプ支持者になっているのかというと、4人の中でも激しいPTSDに苦しみノーマンの死に囚われ続けていたことが大きい。誰も自分をわかってくれず助けてくれない孤独に堕ちていたポールに希望を与えてくれたのが、退役軍人を英雄とし、医療福祉改善の公約を掲げたトランプだったんだ。

ベトナム戦争の被害者という意識が強いポールだったが、ベトナムでは彼らが加害者だ。ベトナム戦争における最悪の悲劇であるソンミ村虐殺事件は、ただの農村をベトコンの村だと決めつけて、赤ん坊を含めたなんの罪もない村人たちを米軍が虐殺した事件だ。ポールたちとは無関係な事件であっても同じ「アメリカ人」としてベトナム人から非難を受ける。

黒人としての誇りを持ちながらアメリカ人として戦った誇りがポールを狂気へと追い立てていく。白人対黒人というストレートな対立として語れないベトナム戦争の複雑さが描かれている。

 

④マーヴィン・ゲイの名盤『What’s Going On』とのシンクロ

劇中ではソウルアーティストであるマーヴィン・ゲイのアルバム『What’s Going On』収録の楽曲がサウンドトラックとしていたるところに挿入されている。『What’s Going On』はマーヴィンがベトナム戦争帰還兵である弟からインスパイアされて制作したアルバムで、税金が貧困ではなく宇宙開発に使われていることや戦争からアメリカに戻った黒人兵士の混乱など、戦争の悲惨さやアメリカの社会問題などを歌っている。

登場人物たちがマーヴィンの曲を口ずさむシーンもいくつかあり、物語の終盤にベトナムの武装集団に囲まれたポールが彼らに向かって「神が我々に望むのは互いに愛を与え合うことだけ」と『God Is Love』を歌うシーンは胸を打たれる。金塊に一番執着していたポールが、ノーマンの呪縛から解き放たれた直後の出来事だった。

シーンと見事にマッチする登場人物たちの心情を表した音楽にもぜひ注目してほしい。

⑤ブラッズ(仲間)の意志は現在へと

本作のタイトルである「ザ・ファイブ・ブラッズ(原題:Da 5 Bloods)」はノーマンと仲間たち5人組のことだが、「ブラッズ」という言葉には血より濃い関係という意味が込められている。

戦死したノーマンは金塊を発見した時に黒人同胞のために使おうと仲間に呼びかけていたが、その意志を受け継ぐように金塊は「Black Lives Matter」を掲げる団体や、ベトナム戦地に残った地雷除去をするフランス人の団体「LAMB」に贈られることになった。人種を飛び越えて新しい未来を作ろうとする仲間たちによって、5人のフラッズたちの意志が受け継がれていく希望が描かれていた。

キング牧師は差別が残る限り、アメリカに真の自由はやってこないと説いていた。彼が亡くなり戦争が終わった後の現在も続く人種差別講義運動の流れを理解するためにも、この映画は必見だ。

 

画像出典元:Netflix

配信先:Netflix