映画 『マルコムX』を観るべき5つの理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.40

スパイク・リー監督が描く、黒人解放運動の革命家マルコムXの強烈な生涯。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
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今回取り上げるのはスパイク・リー監督の『マルコムX』。アメリカ史に残る黒人解放運動のカリスマ指導者、マルコムXの幼少期から凶弾に倒れた39歳までを描いた伝記映画だ。

『マルコムX』ってどんな映画?

幼い頃に牧師である父を白人至上主義団体KKKに惨殺され、施設で育ったマルコムは、黒人ギャングの仲間となり悪事に手を染めていた。

しかし、窃盗の罪で収監された刑務所での出会いから、イスラム教の教えに目覚め、カリスマ的な黒人解放運動の指導者としての頭角を現していく。

黒人解放運動に人生を捧げたマルコムXの苦悩や葛藤が丁寧に描かれた傑作だ。

『マルコムX』を観るべき5つの理由

①キング牧師と肩を並べる重要人物

黒人解放運動の指導者といえば、キング牧師を思い浮かべる人も多いかもしれない。しかしキング牧師と同時代を生きたマルコムXも黒人解放運動を語る上では欠かせない存在だ。共に指導者としての影響力は絶大だったが、キング牧師の方がメジャーなのには、ふたりの思想の違いに理由があった。

というのも、キング牧師は非暴力を掲げて白人との融和を説く一方で、マルコムXは白人全員を悪魔とみなし、白人社会との完全な分離を望む過激派だったからだ。

劇中のマルコムXの演説に「他の無知な黒人牧師が言うように“もう一方の頬を差し出す”のは不可能だ」というセリフが出てくるように、彼はキング牧師に対して批判的だった。このセリフはイエスの「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出しなさい」と言う教えの元、非暴力抵抗を掲げているキング牧師に対する皮肉だ。

マルコムXは自己防衛の暴力は知性だとし、必要であれば暴力を辞さない姿勢をみせていた。そんな白人に対する過激な発言を繰り返し、危険人物とみなされていたマルコムXに、ある時転機が訪れる。それはイスラムの教えを深めるために赴いたメッカ巡礼での、白人巡礼者たちとの出会いだった。

巡礼の間、寝食を共にし白人巡礼者の慈愛の精神に触れたことで、白人全員を敵だという考えは間違いであり、肌の色は関係ないと気づいたのだ。その後は人種間平等を掲げ、だんだんと敵対していたキング牧師の思想に近づいていったんだ。

次第にお互いを認めはじめたふたりだったが、交わる前にマルコムXは凶弾を受けて39歳という若さで亡くなり、後にキング牧師も同じく39歳で暗殺されてしまう。黒人解放のために人々を先導し声をあげていた彼らが、手を取り合った未来を想像せずにはいられない。

②監督を熱望したスパイク・リーの意欲作

監督であるスパイク・リーは「黒人のために映画を作る」と公言している通り、アフリカ系アメリカ人がアメリカ社会で直面する人種問題に切り込んだ作品を作り続けている。

本作は間違いなくその筆頭だが、実はカナダ人であるノーマン・ジェイソンが監督することで映画化の話が進んでいた。それに対して原作である「マルコムX自伝」を学生時代に読み、絶対に自分の手で映画化すると決意していたスパイク・リーが猛反発。黒人が抱える複雑な心境は当事者が描くべきだとノーマンを説得し、見事監督の座を獲得したんだ。

スパイク・リーにとってのヒーローだったマルコムXに対する並々ならぬ想いを感じるよね。映画は3時間を越える大作となり、膨れ上がった制作費を自ら補填するほどこの作品に魂を捧げ、マルコムXという人物の生涯を描き切ったんだ。

③黒人俳優の活路を切り開いたデンゼル・ワシントン

マルコムXを演じたデンゼル・ワシントンは、黒人俳優の地位向上に貢献した重要な人物だ。黒人俳優といえばチンケな悪党の役かコメディ映画担当という時代においてそれまでのステレオタイプな「黒人らしい」役を引き受けることなく、シリアスから社会派まで様々な黒人の役を演じ、後世へのバトンを繋いでいった名役者だ。

特に本作はデンゼルの出世作であり代表作だ。役作りに1年かけて、イスラム教信者であったマルコムXに習い、豚肉を食べるのを辞めて断酒までした。聴衆の心を鷲掴みにするカリスマを見事に演じたデンゼルは、カットが鳴っても演説を続けていたらしい。それをスパイク・リーは、彼の中にマルコムの魂が入ったと表現したくらいだ。

プライベートでも警官と黒人ホームレス男性の一発触発の口論の仲裁に入ったことが話題になったりと、人間としても信頼できるデンゼル・ワシントンだからこそ、説得力のある演技になっているんだ。

 

④「X」からみる黒人奴隷制度の残酷さ

マルコムXの本名はマルコム・リトルだが、なぜ「X」と名付けたかの理由は、黒人奴隷制度にまで遡る。

アフリカ大陸から奴隷として連れてきた黒人に、白人たちは自分の性(もしくは呼びやすい名前)をつけた。だからアフリカ人たちは性を奪われたまま、白人の性を奴隷の焼印みたく子孫まで受け継いでいる。めちゃくちゃグロテスクだよね。

本来持っていたはずの姓を変えられ、歴史や文化から切り離されたとして、数学的に未知という意味を持つ「X」をマルコムは名付けている。

家系のルーツである苗字を奪われる黒人奴隷制度の残酷さを、Xは物語っているんだ。

⑤人種差別問題への立ち向かい方

映画のオープニングでマルコムの力強い演説とともに流れる映像は、1991年に起こった白人警察官による黒人であるロドニー・キング氏への暴行ビデオだ。

車のスピード違反容疑で車の停止を命じられたのち、無抵抗なキング氏に対して執拗な暴行を加えた警官4人を捉えた映像だ。キング氏は瀕死の重傷を負ったが、白人警官たちには無罪判決が下され、何百人もの犠牲を出した人種暴動「ロサンゼルス暴動」へと発展していったんだ。

劇中でも白人警官による黒人への横暴さが描かれているが、マルコムがこの世を去った1965年以降もその構図が変わることはない。

さらに2020年には、黒人であるジョージ・フロイド氏が白人警察官の拘束により死亡する事件が発生。これはBlack Lives Matter(黒人の命も大切だ)が全米的なデモ・暴動へと発展するきっかけとなった。

今もなお繰り返される人種差別問題の根深さは計り知れない。だけど、死ぬ瞬間まで演説を続けたマルコムXのように、絶えず声をあげ続けなければいけないことは確かだ。

 

画像出典元:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ

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