パンチラインで観る映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』|ストリートヘッズのバイブル Vol.35

若きスパイク・リー監督が描く、いまなお色褪せないヒップホップ・ムービーの金字塔。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を作中に登場するセリフを通して紹介していくよ!

今回取り上げるのは、スパイク・リーが監督兼主演を務めた『ドゥ・ザ・ライト・シング』。
ブルックリンの街角でのある1日の出来事を通して、人種間対立や暴力のやるせなさをコミカルなユーモアを織り交ぜながら描いている映画だ。いま見てもイケてる30年前のストリートファッションも見逃せない。

そんな『ドゥ・ザ・ライト・シング』から、パンチの効いたセリフを紹介していくよ!

『ドゥ・ザ・ライト・シング』ってどんな映画?

猛暑を記録するブルックリンのある1日を描いた物語だ。ピザ屋を営むイタリア系アメリカ人のサル親子、配達員のムーキー、アル中の自称市長のダー・メイヤー、トラブルメーカーのバギン・アウト、大きなラジカセ(ブーンボックス)を響かせるラジオ・ラヒーム、スーパーを営む韓国人夫婦。この街には、アフリカン・アメリカンを中心にさまざまな人種が暮らしていた。

この日もいつもと同じメンツでのいつもと同じ1日のはずだった。だが、うだるような暑さの中、鬱憤が溜まった住民たちの間でさまざまな諍いが繰り広げられる。ついにはある事件をきっかけに住民たちのやり場のないエネルギーが爆発し、とんでもない悲劇を生んでしまう。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』の名言

①「客にイタリア系がいるか?」

イタリア系アメリカ人であるサルのピザ屋は、近所の住民にとっては馴染みの店。この日も店内はアフリカ系の若者たちで溢れかえっていた。そこにやってきたバギン・アウトも1日3回通うほどの常連だがサルとは仲が悪く、店内に飾られた写真にイタリア人スターしかいないことにイチャモンをつけ始める。

アフリカ系スターの写真こそ置くべきだと主張するが、サルは「俺の店だから、誰を飾ろうが俺の勝手だ」と相手にしない。サルの態度に怒ったバギン・アウトが言ったセリフがこちら。

Yeah, that might be fine, Sal,

but you own this.

Rarely do I see any American-Italians eating in here.

All I see is black folks.

So since we spend much money here,

we do have some say.

確かにここはあんたの店さ

だが客にイタリア系がいるか?

みな黒人の同胞たちだ

この店でたくさんの金を使ってる俺たちにも、

言い分はあるってわけだ。

無茶苦茶だ〜〜!
だけどバギン・アウトの主張も一理あるっちゃある。アフリカ系が多く住む街だからこそ、商売が成り立っている側面があるのは確かだ。イタリア人街でピザ屋を出したところで、競争は熾烈を極める。だけどサルが自分の店で何を飾ろうが、勝手なのもその通りなのが、この議論の難しいところ。

どちらも主張を曲げないまま、バギン・アウトは店を追い出される。怒った彼は街のみんなに、サルの店をボイコットしようと誘うけれど、「サルのピザが好きだから」と断られる。サルの店が愛されていることがわかる一方で、バギン・アウトがそれで諦めることもなく…。

 

②「てめえらもボードで流れ着いたくせに」

サルのピザ屋の目の前には、韓国人夫婦が営むスーパーがある。洒落た店構えで、そこそこ繁盛しているようだ。

1年前に移民としてこの街にやってきたくせに、もともと住むアフリカ系の人々よりも、いい場所に店を出していい暮らしをしているのを許せないと管をまくのは、道端でたむろする3人組のアフリカ系のオヤジたち。自分たちは人種を理由に差別されていると嘆き、いつか大きな店を出してやると息巻く。

そんな姿に呆れたひとりのオヤジが、残る二人に言ったセリフがこちら。

You got off the boat, too.

Hell, leave me alone. 

てめえらもボードで流れ着いたくせに

辛辣なひと言…!
しかし、同じく海を渡ってきた人種間でも格差が生まれてしまう、どうしようもない現実がある。

こういったさまざまな人種間の燻りが、いつの間にか燃え上がり、取り返しのつかない事態へと発展していくことになる。

③「みんな俺のピザを食って大きくなっていく」

客がいなくなった店内で、ひと時の休息をとるサルと息子のピノ。ピノはアフリカ系の人々たちの横暴さに辟易していて、店を売ってこの街から出ようと父に相談する。

だがサルは20年間、店の窓から人々の成長を見守ってきたと言う。そして続けてピノに対して言ったセリフがこちら。

I mean, for Christ sake, Pino,

they grew up on my food.

On my food.

Now, I’m very proud of that.

You may think it’s funny,

but I’m very proud of that.

みんな俺のピザを食って大きくなっていく

笑うかもしれんが、俺はそれを誇りに思う

サルのプライドがここにあり…!
アフリカ系の客と衝突するのも日常茶飯事なサルだけど、なんやかんや住人たちを愛し、住人たちから愛されていた。彼は彼なりの誇りを持って、黒人街で店を出していたのだ。

だがそんな想いもむなしく、20年間ともに生きてきた住民たちによって、この店は追い込まれてしまう。

同じ街で共存してしても、人種間の根深い対立心は簡単に消えることはない。そんなやるせなさが、この映画には描かれていた。

タイトルの『ドゥ・ザ・ライト・シング』は「人として正しいことをする」という意味だが、登場人物たちは、それぞれの「正しさ」をぶつけ合ったがゆえに、悲劇を生んでしまった。人として正しいことはなんなのか? それは相手の立場に立ってみてはじめて、導き出されるのかもしれない。

画像出典元:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ

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