『Super Fly』を観るべき理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.159

時代を動かしたブラックスプロイテーションの金字塔

ライター:TARO

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回取り上げるのは1972年公開のクライム・ドラマ『Super Fly』!

『Super Fly』とは?

ハーレムのドラッグ・ディーラー、ヤングブラッド・プリースト。良い家、良い車、良い女… ドラッグをさばいた金で欲しいものをすべてを手に入れていたプリーストだったが、彼の真の望みは裏社会のしがらみに縛られずに生きる真の意味での“自由”だった。ドラッグディールから足を洗うことにしたプリーストは仕入れた大量のコカインを売りさばき、恋人と共にハーレムを出ることを決意するのだが…

①ブラックスプロイテーションの金字塔

世界の映画産業の中心地、アメリカ・ハリウッド。今では多様な人種・文化的背景を持つ人が映画作りに携わっているが、実はそれはここ数十年の話。元々1900年代前半までは白人が、白人の俳優を使って描いた、白人の物語ばかりが映画化されていた。マイノリティの人々は作中には登場しないか、もしくは今では考えられないような差別的な描写をされていたんだ。そんな中、1960年代の公民権運動を通して、黒人の権利向上の機運が高まり、次第に映画産業においても、黒人が中心となる映画作りが始まっていく。それが1970年代に盛り上がった“Blaxploitation(ブラックスプロイテーション)”というジャンルだ。

ブラックスプロイテーションには、白人主導の映画界で差別的に描かれてきた黒人の人々をカッコよく、人間らしく描くという思いも込められており、その代表作と言えるのがこの『Super Fly』なんだ。

②多くの人々の心を掴んだ
主人公のアウトローな生き様

『Super Fly』の主人公はドラッグ・ディーラー、Youngblood Priest(ヤングブラッド・プリースト)。ハーレムでコカインを売り捌き、誰もが羨む贅沢な生活を送っていたプリーストだが、いつどうなるかわからない売人稼業に嫌気がさし、足を洗うことを決意。そこから仲間の売人との揉め事や、プリーストを利用しようとする裏社会の黒幕とのトラブルに巻き込まれていく。

今となってはギャング映画のテンプレ的なストーリーかもしれないけれど、黒人が主人公の映画自体が少なかった時代に、このストーリーはかなり尖った設定。黒人をドラッグディーラー役に配置し、ヒーロー扱いすることに当時のブラック・コミュニティや人権団体からも批判が続出したのだけど、ふたを開けてみれば興行的には大ヒット。1970年代のブラックスプロイテーション作品の中でも最大級のヒットを記録したんだ。

③人種差別の現実を撮り続けた父と
映画で世に問うた息子

アラサー、アラフォーのヘッズは一度は聴いたことがあるだろうCommon の名盤『 Like Water for Chocolate(2000)』。そのジャケットに使われているある親子の写真を覚えている人も多いんじゃないかな?

Like Water for Chocolate

『Drinking Fountains, Mobile, Alabama, 1956』として知られるこの写真は、1956年にアラバマで撮影された写真で、黒人女性が「COLORED ONLY(有色人種専用)」と書かれた水飲み器で水を飲んでいる様子を写したもの。この写真を撮った写真家がアメリカの過酷な人種差別を撮り続けた写真家、ゴードン・パークス。そしてその息子こそがこの『Super Fly』の監督、ゴードン・パークス Jrなんだ。実はパークス自身、映画監督としての顔も持っており、ブラックスプロイテーション映画の代表的な作品である『Shaft(1971)』を手がけている。つまり親子2代に渡ってアメリカにおけるブラックの人々の過酷な現実とその生き様を世界に発信し続けたんだね。彼らの活動は後に登場するスパイク・リーにも大きな影響を与えており、この映画はアメリカのブラック・カルチャー史においてもとても重要な作品なんだ。

④カーティス・メイフィールドの
伝説的サウンドトラック

史上最も偉大なソウル・シンガーの一人、Curtis Mayfieldが担当したサウンドトラック『Super Fly』はまさに名盤。貧困の中で生きる人々を生活を歌い上げた「Little Child Runnin’ Wild」、ドラッグディーラーの人生の哀愁を描いた「Pusherman」など、コンシャスな歌詞と美しい歌声が一体となった唯一無二のソウル・ミュージックは必聴の価値ありだ。カーティスの楽曲はヒップホップシーンでも多くサンプリングされており、ヒップホップファンにももちろんオススメ。またカーティス自身映画の中で本人役でカメオ出演しているので、ぜひチェックしてみてね。

⑤舞台はハーレムからアトランタへ。
Futureがサントラを担当したリメイク版

実はこの『Super Fly』、2018年にはリメイク版がリリースされている。元々の舞台はニューヨークのハーレムだが、リメイク版ではアトランタを舞台にストーリーを再構成。サントラにはアトランタ出身のアーティストであるFutureやYoung Thugなどが参加し、楽曲を提供しているんだ。オリジナル版を観てから、改めてリメイク版をチェックして違いを楽しんでみるのも良いかもね。

画像出展元:Warner Bros. Pictures

配信先:Amazon Prime

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