番外編 2000年代名盤特集『Common – Like Water For Chocolate』|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.149

ヒップホップの歌詞からストリートで使える英語を学ぼう

ライター:TARO

今回紹介するスラング

番外編

2000年代名盤特集『Common - Like Water For Chocolate』
紹介アーティスト
Common
番外編 2000年代名盤特集『Common – Like Water For Chocolate』|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.149
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WHAT’S UP,  GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.150の今回は2000年代名盤特集。今回取り上げるのはUSヒップホップを代表するリリシスト、Common(コモン)の「Like Water For Chocolate」。

2000年3月にリリースされた「Like Water For Chocolate」は、Jay Dilla(J ディラ)や D’Angelo(ディアンジェロ)、DJ Premier(DJ プレミア)など当時のシーンを代表するアーティストたちが参加して作り上げたサウンドと、コモンのリリシズムが組み合わさったコンシャス・ヒップホップの最高傑作だ。 タイトルの「Like Water For Chocolate」は1992年公開のメキシコ映画「Like Water For Chocolate(邦題:赤い薔薇ソースの伝説)」から取ったもの。“Like Water For Chocolate”は直訳すると「チョコレート用の水のように」という意味で、南米ではホットチョコーレートを作る際にお湯を使うことからできた「沸点に達した人や物事」を表す慣用句だ。 実はこのアルバムのジャケットには“Like Water For Chocolate”という言葉にかけて、コモンのメッセージが込められていると言われている。 ジャケットに使われているのは、1956年にアラバマで撮影された写真で、黒人女性が「COLORED ONLY(有色人種専用)」と書かれた水飲み器で水を飲んでいる様子を写したもの。ヘッズの間では、コモンはこの写真を使うことで、“Water”を水飲み器に、“Chocolate”を黒人に例え、黒人専用の水飲み器のような理不尽が未だに多く社会に残っているという現実を、“ 沸点に達した怒り ” とともに伝えてるんじゃないかと言われてるんだ。

そんな「Like Water For Chocolate」からまず紹介するのは、「Dooinit」!

「Dooinit」

That jiggy shit is over, the war is on
あのジギーなシットはおしまい。戦争の始まりだ
I only want to be a soldier, I’m holding on, to a culture
オレは戦士になりたいだけ。カルチャーを掴んで離さない
Focused like Gordon Parks when it’s sorta dark
暗闇でのピントの合わせ方なら、まるゴードン・パークス
For niggas that’s flooded with ice, my thought’s the ark
冷たいアイスの洪水で溢れかえってる連中にとってオレの思考は方舟さ

“ That jiggy shit is over, the war is on(あのジギーなシットはおしまい。戦争の始まりだ)”の一節で出てくる “ jiggy(ジギー)”は「イケてる、スタイリッシュな、ノリノリで騒ぎまくる」といった意味のスラング。コモンは、ジギーな感じのヒップホップではなく、よりコンシャスなラップを発信していくぜて言ってるわけだ。 そして次の一節で出てくる “Gordon Parks(ゴードン・パークス)”とはアメリカに生きる黒人たちのありのままの生活を撮影し、そこにある根深い人種差別や不平等、貧困の現実を写真というツールを通して多くの人に伝え続けた黒人の写真家、ゴードン・パークス(1912-2006)のこと。 実はこの「Like Water For Chocolate」のジャケットの写真である、水飲み器の写真もパークスの作品だ。“Focused like Gordon Parks when it’s sorta dark(暗闇でのピントの合わせ方なら、まるゴードン・パークス)”とは、先が見えない暗闇の時期であっても、しっかりと今何が問題なのかを理解し、そこに焦点をあてていこうという意味だ。 そしてヒップホップ・カルチャーにおいて、彼が問題だと考えているのは、商業主義的になってしまったラップ・シーンのこと。“アイス(高価なジュエリー)” をたくさん身につけて、金を持っていることをアピールするようなラッパーは、コモンからすれば、カルチャーの本質を理解していないように見える。そしてそんなラッパーたちにとって、コモンの思考は、商業主義的な考え方から脱却させてくれる神聖なる教えのようなもの。それはまるで旧約聖書の中で、 “ flood(洪水)” から、地上の動物たちを救い出した“ the ark(ノアの方舟)” のようてわけだね。

続いてチェックするのは、「The Light」!

「The Light」

It’s important we communicate
オレたちにとって気持ちを通わせるのてとても大事だよな
And tune the fate of this union to the right pitch
この結びつきの運命をチューニングして、正しいピッチに合わせよう
I never call you my bitch or even my boo
君のことをオレのビッチとか、ブーだなんて決して呼ばないよ
There’s so much in a name and so much more in you
あの名前にはもった大事なものが込められてるし、たくさんの思いが君にあるから

なんてロマンチックなんだ…。 よくヒップホップシーンでは、自分の彼女のことをmy bitch(オレのビッチ)とか、my boo(オレの女)などと言うけど、コモンはそういった呼び方はしない。 なぜなら人の名前には多くの想いが込められているものだし、コモンは彼女のことを本当に愛しているから、そういった呼び方はしないんだ。そしてそんな愛する彼女に言うのは、“ tune the fate of this union to the right pitch(この結びつきの運命をチューニングして、正しいピッチに合わせよう)” と言う最高に甘すぎるパンチライン。 くぅぅ、コモン、男前過ぎるぜ。

「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 、2000年代名盤特集「Like Water For Chocolate」のラストを飾るのは、DJ プレミアがプロデュースした「The 6th Sense」!

「The 6th Sense ft. Bilal」

I’d be lying if I said I didn’t want millions
金が欲しくないって言ったら嘘になるな
More than money saved, I wanna save children
でも金を貯めるより、子供たちを救いたい
Dealing with alcoholism and afrocentricity
アルコール中毒とアフロセントリシティを扱う
A complex man drawn off of simplicity
シンプリシティから吐き出された複雑な男
Reality is frisking me
現実がオレを刺激する
This industry will make you lose intensity
この業界はお前に激しさを失わせる
The Common Sense in me remembers the basement
オレの中のコモン・センスは地下室を思い出させる
I’m Morpheus in this hip-hop Matrix, exposing fake shit
オレはこのヒップホップ・マトリックスのモーフィアス、フェイクを暴く

「活動家としても知られるコモンがラップで稼いだお金を運用して取り組んでいるのがアフリカン・アメリカンの子供たちの将来のための支援活動。彼が立ち上げた子供の支援団体である“Common Ground Foundation”では、主にシカゴの貧困家庭の子供たちのための教育支援プログラムを提供しているんだ。 歌詞の中で出てくる “コモン・センス”は「社会人が持つべき概念や考え方」を指す言葉であり、コモンの初期のラッパー・ネームだ。そして“the basement(地下室)” は彼が20代前半に住んでいたアパートのこと。つまりコモン・センスという言葉は、彼をキャリア当初の気持ちに立ち返らせるということだね。 ラッパーとして常に社会的弱者の人々の立場に立、アフリカン・アメリカンの人々に対する差別や不平等について歌ってきたコモン。 そんなコモンのヒップホップ・シーンにおける存在は、まるで映画「マトリックス」で主人公ネオを導くメンターであるモーフィアスのようであり、業界にはびこるフェイクを暴くてわけだね。

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