みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは、若き日のスパイク・リーが監督兼主演を務めた『ドゥ・ザ・ライト・シング』。人種間対立や暴力のやるせなさを、ユーモアを織り交ぜながら描きだしている作品だ。
『ドゥ・ザ・ライト・シング』ってどんな映画?
アフリカ系アメリカ人を中心に、さまざまな人種が暮らしているブルックリン。うだるような猛暑のある日、ピザの配達人ムーキーを取り巻く人々の間でさまざまな諍いが繰り広げられていた。ついにはある事件をきっかけに、住民たちのやり場のないエネルギーが爆発してしまい…。
『ドゥ・ザ・ライト・シング』を観るべき5つの理由
①音楽からファッションまで!80年代ヒップホップのすべてが詰まった映画
ヒップホップ文化において音楽とファッションは最も重要な要素。この映画では80年代ヒップホップシーンの音楽とファッションが凝縮されている。
音楽で注目すべきは、映画のために作られた楽曲であるパブリック・エネミーの『ファイト・ザ・パワー』。タイトルは「権力と戦おう!」という意味であり、差別や偏見に苦しむアフリカ系アメリカ人たちを奮い立たせる内容を歌ったラップソングだ。
いまもその影響力は衰えることなく、2020年のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動でもアンセムとして歌われていたほど。映画の中でも何度も流れ、登場人物を鼓舞する曲として使われている。
さらに登場人物たちのファッションも見どころのひとつ。特に今でもヘッズには欠かせないアイテム、スニーカーの描写は秀逸だ。登場人物の一人、バギン・アウトが履いていたエアジョーダン4のスニーカーを汚され「おニューの靴を踏んづけて、タダで済むと思うなよ!」とブチ切れるシーンは印象的。エアジョーダン4は1989年当時発売されたばかりの新しいモデルで、たぶんおろしたばかりだった新品。そりゃ汚されたら怒るよね。
のちに映画の影響もあって、エアジョーダン4はプレミアがつくほど高騰したんだとか。今も色褪せない音楽とファッションが散りばめられた『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、ヒップホップを語るなら観るべき一本だ。
②スパイク・リーが投げかける複雑な人種間問題
ブルックリンの黒人街にも、アフリカ系アメリカ人を中心にプエルトリコ系、イタリア系、韓国系の人たちが共存している。みんなが仲良しかというとそうではなく、お互いに対して不満を抱えながら生活しており、争いの火種があちこちでくすぶっていた。
中でも移民の人たちのお店は何かとイチャモンをつけられる。イタリア系のサルが営むピザ屋は、20年以上も街の人たちに愛されてきたが、店内にはイタリア人スターの写真ばかりで黒人スターの写真がないことに不満を持つ人が現れたり。
韓国系の夫婦が営むマーケットは綺麗な店構えで繁盛しているため、それが気に食わないアフリカ系の人がいたり。「後からやってきたくせに、俺らやりもいい思いをしやがって」ってワケだ。そんな人種間の鬱憤が積もり積もって爆発し、映画のラストシーンの暴動につながっていったんだ。
本作が公開された後の1992年に起こった「ロサンゼル暴動」でも、黒人と白人の対立のみならず、韓国人マーケットが襲撃される痛ましい事件が起きた。なぜ人種間での争いが絶えないのか。その背景には貧困などの社会問題が潜んでいるはずだ。映画の中で繰り返される『ファイト・ザ・パワー』も「大きな権力と戦え!」と歌っている。本当に戦うべき相手は誰なのかを考えなければいけない。そのことを、『ドゥ・ザ・ライト・シング』は教えてくれる。
③『ドゥ・ザ・ライト・シング』が意味するもの
タイトルの『ドゥ・ザ・ライト・シング(原題:Do the right thing)』とは「正しいことをする」という意味。でも「正しいこと」ってなんだろう?
この映画に登場する人々は、みんなそれぞれの「正義」を持っている。黒人街のピザ屋の壁に黒人スターが飾られていないことに怒る人、子供にお酒のお使いを頼む老人を非難する人。時にその「正しさ」は相手を傷つける。だから人間の争いは絶えないんだ。
家族でもすべてを理解し合うことは難しい。だからこそ、大切なのは想像力なのかもしれない。なんでピザ屋はイタリア人スターだけ飾っているんだろう? なんであの老人は自分でお酒を買わないんだろう? 「正しさ」を押し付けるのではなく、お互いを思いやること。争いをなくすための投げかけが、タイトルには込められている。
④アフリカ系アメリカ人初の快挙達成
スパイク・リー監督は、長年アフリカ系アメリカ人のために映画を作ってきた。この映画は1986年ニューヨークのクイーンズで、ピザ屋に入ったアフリカ系アメリカ人の若者3人が「ここはお前たちの来る場所じゃない!」とイタリア系の若者に暴行を受け、店を飛び出したひとりの黒人が車に轢かれて死亡した「ハワードビーチ事件」をきっかけに作られた作品だ。
オリジナル脚本の本作は、アカデミー賞脚本賞にノミネート。アフリカ系アメリカ人としては史上初の快挙だった。しかしそれ以降、監督の作品がアカデミー賞にノミネートされることはなく、彼はずっと悔しい思いをしていたんだ。
しかし30年後の2019年、ついに黒人警察官が白人至上主義団体KKKに潜入捜査する『ブラック・クランズマン』で、念願のアカデミー賞の作品賞、脚色賞、監督賞を受賞。
オスカー受賞式でスパイク・リー監督は『ドゥ・ザ・ライト・シング』の登場人物と同じく、右手には「LOVE」、左手には「HATE」の指輪をつけて登場。受賞のスピーチは先祖を讃えながら「愛と憎しみの狭間で倫理的選択を、正しい事をしましょう」という言葉で締めくくられた。
監督が30年ものあいだ「ドゥ・ザ・ライト・シング」とは何かを問いかけながら、ずっと人種差別問題と向き合い続けていた事実に痺れるよね。
⑤まるで預言!? 30年後の事件とのシンクロ
さらに2020年、『ドゥ・ザ・ライト・シング』は再び注目を浴びることに。きっかけは白人警官の過剰な膀胱によって亡くなったジョージ・フロイト氏の事件だ。映画のラストシーンとシンクロしていることから、事件を預言した映画として取り上げられたんだ。
それは30年前と変わらず、現在もアメリカの人種差別問題が解決していないために起こった痛ましい事件だ。それだけこの映画が人種問題の本質を捉えているということでもある。
いつか本作を、そんな時代もあったなと振り返る時代が来るのか。そんな未来を作るためにできることは何かを考えるきっかけを与えてくれる映画だ。
本作は、ずっと人種差別問題を撮り続けているスパイク・リー監督が初めて人種差別問題と向き合った作品。監督の最高傑作とも名高い本作は、ヒップホップ好きならマスト・ウォッチだよ!
画像出典元:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ
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