映画「8 Mile」を見るべき5つの理由|ストリートのヘッズのバイブル

フリースタイルラップとヒップホップドリームを世界に伝えたヒップホップ映画の金字塔

ライター:TARO

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きならマストチェックの映画を紹介していくよ!今回取り上げるのは2000年代最大のラップスター、Eminem(エミネム)の主演『8 Mile(2002)』。ご存知ヒップホップ界のスーパー・スター、エミネムの自伝的映画であり、フリースタイル・ラップバトルというものを世界に知らしめた映画だ。今回は『8 Mile』を観るべき理由を5つ取り上げるよ!

『8 Mile』てどんな映画?

舞台は1995年のデトロイト。都市と郊外の間に走る道路である“8マイルロード”は、そのまま中産階級の白人と貧困層のアフリカ・アメリカンが住む境界線となっていた。

そんな街で暮らすラッパーの“B・ラビット”(エミネム)は無職でアル中の母と幼い妹の3人でトレイラー・ハウスに暮らしていた。
彼は昼間は自動車のプレス工場で働き、夜はヒップホップ・クラブ“シェルター”で行われるラップ・バトルでの優勝を目指しているラッパーだ。
才能がありながら、なかなかその実力を発揮出来ないB・ラビットは、果たしてラップバトルに勝ってヒップホップ・ドリームを掴むことができるのか?

『8 Mile』を観るべき5つの理由

①世界で最も知られるラップ・アイコン、エミネムの主演映画

ヒップホップ・ミュージックについて詳しくない人でも、ラッパーと言えばエミネムを思い浮かべる人は多いはず。まさにラップ音楽のアイコンとして今も幅広い世代から支持を受けるエミネムは1999年にDr.Dre(ドクター・ドレー)のプロデュースによるアルバム『The Slim Shady LP』でメジャー・デビューすると、白人、金髪というヒップホップ業界において異色のルックス、そして論争を呼ぶ過激な歌詞と圧倒的なライミングスキルで、
ヒップホップという枠組みを超え、世界中で爆発的な人気を巻き起こしたアーティストだ。『The Eminem Show 』は2002年に世界で最も売れたアルバムとなったんだ。

そんな時代の象徴だったエミネムが主演俳優として出演したのが2002年に公開された彼の半自伝的映画、『8 Mile』だ。時代を席巻していたラップスターが一体どんな人生を送ってきたのか?当時のヘッズが夢中になったエミネムのサクセスストーリーはラップファンならずとも必見の価値ありだ。

②世界に衝撃を与えたフリースタイルラップバトル文化

『8 Mile』で描かれるテーマの中でも、特に人々に衝撃を与えたのがフリースタイル・ラップバトルの文化。クラブのステージ上でラッパーがビートに合わせ、即興でラップを繰り出し、オーディエンスがその優劣を決めるというカルチャーをこの映画を通して知ったという人も多いはずだ。

ラップの起源は諸説あるが、フリースタイルバトルはその一つ。その歴史は奴隷貿易時代に遡る。もともと奴隷としてアフリカから連れてこられた人々の中でも、身体的に障害があったり、病気を持っていた人々は12人で1セットで売られていた。本当にひどすぎる話だけど、その12人は奴隷として輸送される中で、少しでも気分を紛らわすためにお互いを即興でディスりあうゲームをしていたとされる。それがフリースタイルラップの起源とされる「Dozens(英語で12の意味)」と呼ばれる習慣だ。

そしてそれがやがてヒップホップのラップ文化として定着し、フリースタイルラップ・バトルの文化になっていったとされているんだ。

今や日本でも大きなムーヴメントになったフリースタイルラップ・バトルの文化のルーツを学ぶためにも、マスト・チェックな映画であること間違いなしだ。

③ラップバトルで名をなしたエミネムの脅威のライミング

あまりに爆発的に売れたため、どうしてもメインストリーム寄りのラッパーと見られがちのエミネムだが、実は真逆。元々デトロイトのアンダーグラウンド・ラップバトルシーンで技術を高めてきた叩き上げであるエミネムは猛者がひしめくUSラップシーンの中でも、紛れもなくトップクラスのライミングスキルを持つラッパーだ。

そして彼を他のラッパーと全く異なる地位にいたらしめているのも、そのラップバトルで培われた「強固なバトルライム」だ。

ラップバトルに出場するいわゆる“バトルラッパー”には対戦相手を屈服させ、観客やジャッジを沸かせるロジックの通し方と攻撃性、適切な語彙選びとライミングが求められる。エミネムはこの点、全米屈指のバトルライムの使い手であり、1997年にロサンゼルスで開催されたラップ・オリンピックで2位を獲得する実力者でもあった。

ちなみにそのラップ・オリンピックを観戦に来ていたレコード会社のインターンがエミネムから受け取ったデモテープが最終的にドクター・ドレーの手に渡る。

そのラップに衝撃を受けたドレーが「すぐにこいつを見つけてこい」と言い、その後プロデュースに至ることになったんだ。

ドレーを一発で惚れさせたエミネムのラップスキルが映画を通して体感できるのが『8 Mile』なんだ。

④ヒップホップ黄金時代、90年代のクラシックソングがサントラ

ヒップホップ映画の楽しみの一つと言えば、やっぱりそのサウンドトラック。
物語の舞台が90年代ということもあり、ヒップホップ黄金時代と言われる時代のクラシックソングを多く使われているのもヘッズなら楽しめるポイントだ。特にクライマックスのラップバトルシーンで、バトル用のビートとして使われているトラックは全て90年代の名曲たち。Onyx 「Last Dayz」、Showbiz & A.Z.「Next Level」、そしてファイナルのラップバトルで流れる Mobb Deep「Shook Ones Pt. II」など90年代のヒップホップ好きなら、アガること間違いなしの曲たちだ。特にラストのバトルで、エミネム演じるB
・ラビットが対戦相手のパパ・ドックに対して「Shook Ones Pt. II」のリリックからサンプリングした

“This guy don’t wanna battle, he’s shook
‘Cause ain’t no such things as halfway crooks”

こいつはバトルなんてしたく無いのさ、ビビってるぜ
なぜなら半分ギャングスタなんて、ありえねぇんだよ

というパンチラインをかますシーンは激アツ。
“crooks”は「犯罪者、ギャング」といった意味がある単語で、ギャングには“halfway crooks(半分ギャング)”なんていう半端者はいらねぇんだよっというワナビー・ギャングスタ達に向けた痛烈なディス・リリックなんだ。ギャングスタキャラで売っていた対戦相手のパパ・ドックは実は裕福な家庭に生まれ、私立学校に通ってるくせに、ギャングスタぶってる痛いやつだということをバラされたパパ・ドックはもはや立っているのがやっとの状態。マイクを渡されても、全く言葉が出てこずに、ステージを降りることになるんだ。

⑤底辺でもがいていた人間が成し遂げたヒップホップドリーム

見どころが多い『8 Mile』だけど、なによりこの映画が伝えているのは、ヒップホップ・ドリーム。無職でアル中の母と幼い妹の3人でトレイラー・ハウスに暮らし、昼間は自動車のプレス工場で働いていた底辺の男、B・ラビットがラップというスキルで、自分の存在を証明しにいく姿は、観る者の心を勇気づける。そしてそのストーリーは実際にどん底の状態から世界のトップスターに成り上がったエミネム自身のストーリーであり、明日を生きる力を与えてくれる最高のヒップホップ・ムービーとなっている。まだ観たことがないという人はぜひチェックしてみてね!

画像出典元:Universal Pictures

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