いつかDJとしてオリンピックや世界陸上に凱旋したい!オリンピック金メダリスト・野口みずきの終わらない夢

怪我に苦しんだ時期に救ってくれたのはマンハッタンレコードの......

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今回のゲストは、アテネ五輪・女子マラソン金メダリストの野口みずきさん。最終回では、金メダルを獲得した後の陸上人生に迫ります。現役ラストと決めて臨んだレースで野口さんが見た光景とは。そしてヒップホップヘッズとして最も推しているラップソングとは!

前回の記事はこちら → 金メダルの裏側にはヒップホップあり。アテネ五輪・女子マラソンを制した野口みずきの脳内で流れたパーティアンセム

賞金がかかったレースにも挑戦!
五輪後も続いたストイックな生活

レペゼン :
2003年のアテネ五輪・女子マラソンでの金メダルは、日本中が本当に沸きました。注目が集まると、やはり生活もいろいろと変わりましたか?

野口みずき :
ガラッと変わりましたね。朝、練習で走ってる時に、シャコタンの車が「ファンファン!」ってめっちゃクラクションを鳴らしてきて、「僕ファンっす!音楽好きなんですよね!?湘南乃風の自分の好きなやつを入れてきたんで、聴いてください!」とか言って、CDを渡されたこともありました笑

レペゼン :
すごいファンですね……笑

野口みずき :
あとはコンビニに行っても、陳列棚の向こうの隙間から見られたりすることもありましたね。 最初はそういうのを見られたいっていうタイプだったんですけど、注目されすぎちゃうと、だんだん怖いと感じることも増えました。

レペゼン :
そうですよね。いろんなお仕事が来て、収入も上がったりするんですか?

野口みずき :
陸上の先輩である高橋尚子さんや有森裕子さんはCMに出たりされていて、今の陸上選手にとっての道しるべになってくれましたし、「ああなるべきだな」って思っています。でも、その当時は監督たちが「陸上で金稼ぎするのは……」っていうタイプだったんですよ。CMとかバラエティ番組の出演オファーもいっぱいあったんですけど、全部断って「練習練習!」みたいな生活でした笑
私自身も「私なんかが出て商品が売れるわけない」と思ってたので。

レペゼン :
有名になってもセルアウトしない姿勢、めっちゃBガールですね!笑

野口みずき :
でも金メダルを獲った後、いろんな国の大会から声がかかって、賞金がかかったレースにも呼ばれるようにもなっていきましたね。

レペゼン :
あくまでご自身の走りでメイクマネーしていったとは!かっこ良過ぎます。

北京五輪直前の悲劇と
マスコミからの目

レペゼン :
その少し後、大きな怪我を経験されたんですよね。

野口みずき :
はい。アテネで金メダルを獲って、翌年に日本記録(2時間19分12秒)をマークして、さらに2年後の北京五輪の選考レースでも優勝できました。そこまでは良かったんですが、その後は怪我に苦しみました。 北京五輪(2008年)は代表に選ばれたものの、大会直前に肉離れになって欠場してしまったんです。

レペゼン :
それは悔しい……。

野口みずき :
悔しかったですし、寮の周りにマスコミが何十社も来て張り込まれたのも怖かったですね。
当時、京都が拠点だったんですが、監督が対処法を考えてくれて、マスコミが来る前に、陸上部のワゴンの床に私が寝そべって、外から見えないようにして京都駅のホテルまで移動して。そこから、人よりも牛の数の方が多いような北海道の田舎の町に飛んで、雲隠れしていました笑

レペゼン :
マスコミから逃れるためにそこまでされたんですね!

野口みずき :
それくらいすごかったんですよ。怪我をしてから3ヶ月くらい経った頃に、「さすがにもう誰もいないだろう」と思って、朝練に行くために寮を出たら、近くに停まっていたタクシーから記者とカメラマンがババーってやってきて「今の調子はどうですか!?」って聞かれるという。だから走れなかった悔しさやしんどさもありますけど、そういうマスコミに張られるっていう状況がきつかったですね。

レペゼン :
しんどいですね。

野口みずき :
でも、てっぺんを見てからどん底を見るという経験も、それはそれで今、子どもたちに話すうえではすごく良かったのかなと思っています。

レペゼン :
いやあ、改めて野口さんの芯の強さを感じます。
そういう時期、ヒップホップから励まされたり力をもらったりすることはありましたか?

野口みずき :
特定の曲ではないんですが、マンハッタンレコードから出ていたミックスCDを聴いて、とても救われましたね。いろんな曲がいっぱい詰まっていて、繋ぎもかっこよくて。後輩が「元気出してください!」って言って貸してくれたんですが、初めて聴いて「すごい!」ってなりました。

レペゼン :
お聞きしていると、野口さんの人生のいろんな場面に音楽がありますね。

野口みずき :
そうですね。幼い時からもう聴いてて、だからもう隣に音楽がある人生でしたし、良かった時も悪かった時も音楽を聴いて過ごしてきたので、本当に音楽がないとやっていけないですね。

現役最後のフルマラソン。
笑顔と涙で飾った有終の美

レペゼン :
その後もずっと大きな大会での挑戦を続けられましたよね。その姿も本当にかっこよかったです。

野口みずき :
ありがとうございます。最後はやっぱり「オリンピックで終わったらかっこいいな」と思っていたんですが、ずっと怪我の影響でまともに走れなかったんですよ。長距離のベテランあるあるで、片方の足がうまく機能しなくなる「膝の抜け抜け病」みたいな症状になってしまって。
でも一度その状態から抜け出せて、名古屋ウィメンズマラソン2013(*)で日本人3位になって、モスクワ世界陸上の選手に選ばれたんですよ。でもそこが最後でしたね。2016年のリオデジャネイロ五輪を目指したものの奇跡は起こらず、そこで引退を決意しました。現役最後の大会である「名古屋ウィメンズマラソン2016」では、23位という結果でした。

※ … 愛知県名古屋市で開催された女性限定の国際公認フルマラソン大会。トップアスリートから一般ランナーまで約15,000人が参加。

レペゼン :
最後まで挑戦する野口さんの姿は、他の陸上選手だけでなく、多くの世代に勇気を与えたと思います。
現役ラストの試合はどんな思い出がありますか?

野口みずき :
不思議な世界でした笑
走ってる途中、もうトップ集団からだいぶ離れてしまったんです。だけど一般のランナーの方も一緒に走っているから、折り返しの時とかにすれ違うんですけど、みんな私に向かって「ありがとう!」とか、すごく良い言葉をかけてくるんですよ。そして金メダリストで日本記録保持者ということで、テレビ局も私にサイドカーをつけるんですね。そこで撮ってくれているカメラマンが泣き笑いして撮ってくれているっていうのがチラッと見えた時に、「ああ、もうなんという……」みたいな笑

レペゼン :
本当に日本中が応援していましたもんね。

野口みずき :
それから最後まで見てくれたコーチとマネージャーとの会話も思い出深いです。コーチはいつも走る前にスタートする前にアドバイスしてくれるんですけど、最後だって分かってるからアドバイスもできずに泣いちゃったんですね。マネージャーは「コーチ!泣くところじゃないですよ今は!」って言って必死に耐えていたんです。でも逆にゴール付近になったら、今度はコーチが笑顔で私を迎えてくれて、マネージャーがボロボロ号泣するという笑

レペゼン :
それくらい周りの方々もいろんな感情になっていたんですね!

野口みずき :
そうですね。現役の中で1番悪い結果だったけど、1番記憶に残るレースでしたね。かっこ悪いかもしれないけど、目の前の景色はすごく良かったし、「こういうのも私らしいかな」みたいなって思っています笑
最後まで陸上選手として全うできましたしね。

レペゼン :
本当に素晴らしいです。その野口さんの姿に影響を受けて陸上を始めたという選手もきっと多いでしょうね。

自分を表す1曲はNasの
「N.Y. State of Mind」

レペゼン :
どんな時も音楽が近くにあった野口さんですが、ヒップホップから得られたものはなんでしょう?

野口みずき :
ギャングスタラップのアーティストは、貧しいところからはい上がるという人が多いじゃないですか。私の家も貧しい方だったと思うんですが、陸上を通してどんどん上に上がってこれた。おこがましいかもしれないですけど、そこがヒップホップのマインドに共感できるところなんです。だからこそ好きなのかもしれないですね。

レペゼン :
ご自身の境遇と重なるものがあるんですね。
では最後に、野口みずきさんを表す、まさにご自身をレペゼンするようなラップソングを教えていただけますか?

野口みずき :
どうしよう!いっぱいありすぎるんですよ笑
でも、Nas(ナズ)の「N.Y. State of Mind」ですかね。あのテンポ感とか、あの「ターンターンタンタンタン」っていうイントロが大好きで、ずっと聴き続けている1曲です。

【 Nas – N.Y. State of Mind 】

レペゼン :
まさに苦しい立場から成り上ってきたラッパーですしね。
では最後に、今後挑戦したいことを教えてください。

野口みずき :
私もう昔から本当に好奇心旺盛で、いろんなことをやりたいタイプなので、これからもいろいろやると思います。何かに挑戦するのって、いくつになっても全然いいじゃないですか。
そうだ!DJとしての夢もあって、ゆくゆくは世界陸上とかオリンピックで回したいなと思っています!

レペゼン :
おお!DJとして大会にカムバックできたら最高ですね。大舞台で「N.Y. State of Mind」が流れることを楽しみにしています!笑
というわけで、今回は野口さんの陸上選手としてのキャリアからヒップホップへの思い入れ、さらに両者の共通点など、貴重なお話をお聞きできました。本当にありがとうございました!

野口みずき :
ありがとうございました!

プロフィール

  • 野口みずき

    野口みずき

    三重県出身の元陸上競技選手。2004年アテネオリンピック女子マラソン金メダリスト。2005年のベルリンマラソンで樹立した2時間19分12秒の日本記録は、その後19年間にわたり破られることのないタイムに。小柄な体躯から生み出すダイナミックなストライドで世界の頂点を極めた。ヒップホップ好きとしても知られ、練習前や試合前の集中を高める場面ではラップソングを好んで愛聴するほど。現役引退後も、解説者/アドバイザーとして日本各地で幅広く活躍中。

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