wax|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.356

ヒップホップの歌詞からストリートで使える英語を学ぼう

ライター:TARO

今回紹介するスラング

wax

蝋(ろう)、ワックスをかける、レコード
紹介アーティスト
MF DOOM, Kendrick Lamar, Public Enemy
wax|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.356
他のスラングを辞書で見る

WHAT’S UP, GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」。Vol.356の今回取り上げる英語表現は「wax(ワックス)」。元々は「蝋燭(ろうそく)の原材料である、蝋(ろう)」を意味したり、「(車などに)ワックスをかける」という時に使われる言葉なんだけど、ヒップホップシーンでは「レコード」のスラングとしても使われてきた言葉。実はこれはレコードの発展の歴史が関係しており、元々蓄音機のシリンダーの主な材料がワックス(ろう)だったことに由来するんだ。今回はそんな様々な意味がある“wax”の使い方をレジェンド・ラッパーたちのリリックからチェックしていこう!

まずチェックするのは、MF DOOM(MF ドゥーム)の「Ballskin」!

MF DOOM「Ballskin(2009)」

As the wax spin, hacking axes in the wind
Pretend it’s just a pen, see if you can pencil ‘em in

レコードが回る、斧で風を切る
所詮ただペンだって装ってる、見てやるよ、お前が仮にでも書き加えれるかどうか

MF ドゥームならではの超絶にポエティックなリリック。
この場合の”wax” は後ろに「回る」という意味の“spin”が入ってることから、「レコード」の意味だね。まずここまでで音楽が流れている状態ってのはわかるけど、その後に出てくるのが、誰かの“斧は風を切っている(hacking axes in the wind)”というリリック。風を斧で切っても何も切ることはできない。つまり“斧で風を切る”は「意味がない、無意味な行動」のメタファーと捉えることができる。そして続く“Pretend it’s just a pen(所詮ただペンだって装ってる)”はドゥームの真骨頂と言えるライン。ラップ史の中で、特に文学、英詩としてのクオリティにおいては圧倒的な作品を生み出し続けたドゥームにとって、当然ペンは何よりも大切な、欠かせない道具だ。そんなドゥームにとっての“最強の武器”であるペンをただの筆記具だと思い込んでいる、もしくは言葉の力を信じようとしない人たちへの痛烈なディスがこの部分。“pencil them in(仮の予定を入れる、人や事柄を仮にリストに入れる)”で言っているのは、ドゥームを唸らせて彼の予定を空けさせる、つまり仮でも良いから君のために時間を作ってもらうレベルの文章やリリックを書いてみろよってわけだね。いやはや、さすがラップ史上最高峰の詩人、MF ドゥーム。半端ないっす。

続いて紹介するのはKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)、2000年代最高峰のラップアルバムとされる『DAMN.』収録の1曲「FEAR.」!

Kendrick Lamar「FEAR.(2017)」

Within fourteen tracks, carried out over wax
Wonderin’ if I’m livin’ through fear or livin’ through rap

この14の曲たち、ワックスに乗せて届けてる
恐怖の中で生きているのか、それともラップを通して生きているのか

”Within fourteen tracks(この14の曲たち)”で歌われているのは、『DAMN.』の収録曲、14曲のこと。彼が『DAMN.』というワックス、つまりレコードに乗せて人々に届けたのは、彼の“感情(feel)”であったり、”誇り(pride)”、そして“humble(謙虚さ)”など、ケンドリックという人間の内面から溢れるさまざまな感情や思いだ。“Wonderin’ if I’m livin’ through fear or livin’ through rap(恐怖の中で生きているのか、それともラップを通して生きているのか)”はまさに彼の内面を表現したリリックであり、ラップという文学をワックスに乗せて世界の人々をインスパイアし続けるケンドリックならではの一節だ。

「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.356のラストはPublic Enemy(パブリック・エネミー)の「Bring the Noise」!

Public Enemy「Bring the Noise(1987)」

5-0 said, “Freeze!”—and I got numb
Can I tell ‘em that I really never had a gun?
But it’s the wax that the Terminator X spun

ファイヴ・オーが『動くな!』って言ってきて、俺は固まっちまったぜ
本当に銃持ってねぇって言えるのか?
それはターミネーターXが回したワックスさ

”ファイヴ・オー”は警察を意味するスラング。警察に問い詰められたChuck D(チャック・D)は実際は銃は持ってないのだが、改めて「本当にそうか?」と自問自答してる。ただ彼は実は銃よりも力のあるものを持っている。それがパブリック・エネミーのDJであるターミネーターXが回すPEの破壊力抜群のワックス、つまりレコードってわけだね。

 

【歌詞出典元】Genius

*訳は全て意訳です。

こんなスラングも知ってる?

番外編

B-Boy Anthem特集
紹介アーティスト
Arthur Baker, The Jimmy Castor Bunch, RHYMESTER
番外編 B-Boy Anthem特集|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.77

dawg

仲の良い友達、仲間
紹介アーティスト
Offset, Lil Baby & Drake, Kanye West
dawg|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.72

rhyme

ライムする
紹介アーティスト
Gang Starr, The Notorious B.I.G., Wu-Tang Clan
rhyme|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.233
他のスラングを辞書で見る