番外編 ヒップホップ名盤特集『Madvillainy』|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.138

ヒップホップの歌詞からストリートで使える英語を学ぼう

ライター:TARO

今回紹介するスラング

番外編

ヒップホップ名盤特集『Madvillainy』
紹介アーティスト
Madlib, MF Doom
番外編 ヒップホップ名盤特集『Madvillainy』|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.138
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WHAT’S UP,  GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.133はヒップホップ名盤特集。今回取り上げるのは2000年代のアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンが産んだ傑作「Madvillainy」。

天才プロデューサー、Madlib(マッドリブ)のドープなビートと昨年惜しくもこの世を去ってしまったラッパー、MF Doom(MF ドゥーム)のリリカルなラップが組み合わさった1作だ。今回はそんな「Madvillainy」収録の3曲、「Accordion」、「Strange Ways」、「All Caps」をチェックするぜ!

まずはLAのビート職人、Daedelus(デイデラス)の「Experience」をサンプリングした「Accordion」のリリックをチェキ!

「Accordion」

In living, the true gods この暮らしの中で、真実の神は Giving y’all nothing but the lick like two broads お前らに何も与えちゃくれねぇよ。2人の女のリック以外はな。 Got more lyrics than the church got “Ooh, Lord”s オレの大量のリリック。教会の“おぉ、神よ”の数より多いぜ。 And he hold the mic and your attention like two swords そして彼はマイクとお前の注目を持つ。まるで2つの剣のように。 Either that or either one with two blades on it それか、2枚の刃がついたものの。どちらかだな。 Hey you, don’t touch the mic like it’s AIDS on it そこのお前、まるでエイズがついてるみたいにマイクに触んじゃねぇよ。 It’s like the end to the means まるでその手段のための目標みたいな感じ。 Fucked type of message that sends to the fiends 中毒者に送るクソみてぇメッセージ。 That’s why he bring his own needles だからあいつは自分の針を持ってくるんだ。 And get more cheese than Doritos, Cheetos or Fritos ドリトスやチートス、もしくはフリトスよりもチーズを持ってる。 Slip like Freudian まるでフロイトみたいにスリップ。 Your first and last step to playing yourself like accordion お前の最初と最後のステップは、お前をアコーディオンみたいに弾くのさ。

まずドゥームがラップするのは、“ the lick like two broads(2人の女のリック)”を与えてくれる “ the true gods(真実の神)”について。“lick”の基本の意味は「〜を舐める」、スラングでは「違法に簡単に金を稼ぐ仕事」といった意味を持つ。つまりマッドリブとMF ドゥームの楽曲は、2人の美女が男性をリックするみたいな快楽をリスナーに与えると同時に彼らにも金をもたらすものてことだね。そんなテクニカルなリリックを、教会で唱えられる神への賛美の言葉の種類よりも多く持っているドゥーム。彼はマイクとリスナーからの注目をがっちり掴み、その2つをまるで柄の両端に2枚の刃を持つ武器、双頭刃のように扱っている。なぜなら彼の切れ味鋭いリリックは、使い方を間違えると、自分自身を傷つけてしまうレベルで研ぎ澄まされているからなんだ。 そして“Hey you, don’t touch the mic like it’s AIDS on it(そこのお前、まるでエイズがついてるみたいにマイクに触んじゃねぇよ。)”の意味は、ドゥームが使ったマイクは“ill(病気、スラングでは病的にイケてるという意味)”な状態になるので、他のラッパーはまるでウイルスを避けるように、彼のマイクを触ることすらできないことだね。 イルなマイクを使ってドゥームがメッセージを送るのは、 “ the fiends(中毒者たち)”。中毒者たちが使うものといえば、薬物を摂取する際に使う注射針。そしてヒップホップシーンでは針といえばレコードの針のことだ。つまりここでの the fiends(中毒者たち)”が意味しているのは、ドラッグの中毒者とヒップホップの中毒者のダブルミーニング。自分の“針”を持ってきて、ドープなシットを“中毒者たち”に届けるぜてわけだ。 “And get more cheese than Doritos, Cheetos or Fritos(ドリトスやチートス、もしくはフリトスよりもチーズを持ってる。)”の部分の “ cheese(チーズ)” はスラングでお金を表す言葉。そしてドリトスやチートス、フリトスは全てチーズ味のスナック菓子だ。つまりドゥームはドリトスなどのチーズ味のスナックをまとめたよりも多くの金を稼いでいるということ。 そして“Slip like Freudian(まるでフロイトみたいにスリップ)”が意味するのは、心理学の用語である「フロイト的失言」のこと。フロイト的失言とは、心の奥底で思っていたことを思わず口を滑らせて言ってしまうことを意味するんだ。それってまるで脳が勝手に自分に発言させているような感じだよね。 そこから繋がるのが、締めのリリック“ Your first and last step to playing yourself like accordion(お前の最初と最後のステップは、お前をアコーディオンみたいに弾くのさ)”。ドゥームのドープな楽曲を聴けば、フロイト的失言と同じように、脳が勝手に君を動かして、ビートに乗らせるてわけ。それはまるでアコーディオン奏者に演奏されているアコーディオンみたいだぜてわけだ。

続いては「Strange Ways」をチェキ!

「Strange Ways」」

Wreak havoc, beep beep it’s mad traffic 大混乱をもたらす、ブー、ブー、これは狂気じみた渋滞。 Sleek and lavish people speaking leaking to the maverick お洒落で派手なあいつらは、異端者への密告について話してる。 He see as just another felony drug arrest 彼からすれば、またいつもの重罪人。ドラッグでの逮捕。 Any day could be the one he pick the wrong thug to test いつだってそうなる可能性はあるさ。間違ったサグを捕まえてテストさせる。 Slug through the vest, shot in the street ストリートでの銃撃、弾丸は防弾チョッキを突き抜ける。 For pulling heat on a father whose baby’s gotta eat 食わなきゃならない赤子がいる父親を狙ったからさ。 And when they get hungry, it ain’t shit funny 腹が減ってる時、何も面白くねぇだろ。 Paid to interfere with how a brother get his money ブラザーの稼ぎ方に口出しして給料貰ってる。 Now, who’s the real thugs, killers and gangsters? 今じゃ誰がリアルなサグで、ギャングスタかわからねぇよ。 Set the revolution, let the things bust and thank us 革命を起こすぜ。いろんな事をぶっ飛ばして、オレたちに感謝しな。 When the smoke clear, you can see the sky again 煙が晴れたとき、また空が見えるはずさ。 There will be the chopped off heads of Leviathan そこにはぶった斬られたリヴァイアサンの首があるんだ。

ここで歌われているのはMF ドゥームが見るアメリカのゲトーの現実。 まずゲトーの中で havoc(大混乱)をもたらし、mad traffic(狂気じみた渋滞)を引き起こすsleek and lavish(お洒落で派手な)人々とはドラッグディーラーのこと。ディーラーが話しているのは maverick(異端者)の密告、つまり警察へのタレコミについてだ。 そしてそんな売人たちを逮捕する “彼” は警察のこと。警察にとってはドラッグの逮捕は日常茶飯事のことで丁寧に裏付けをとったりすることもない。だから時には間違った犯人を捕まえてしまうこともあるし、捕まえた人間に子供がいるかなんて気にしない。そんな警察はストリートの住人から反感を買い、銃撃を受けることも。ドラッグディーラーも犯罪は犯すけれど、警察だって拘束時の暴行など犯罪行為を犯している。もはやどちらがギャングかわからないよね。 だからドゥームは革命を起こす。戦いの後、smoke(煙)が晴れた時に見えるのは青空。そしてそこにあるのはリヴァイアサンの首。リヴァイアサンは旧約聖書に登場する海のモンスターであり、イギリスの哲学者、トマス・ホップズが書いた政治哲学書のタイトルだ。ホップズは人間というのは「自然権(自己保存権)」を持っており、お互いに闘争する生き物であるため、コントロールする機関とて国家権力が必要だと唱えた。そして国家権力が人々を統制するためには、強大な力を持ち、人々が畏怖するような存在にならなければならないとしてその存在を聖書に登場するモンスターであるリヴァイアサンに例えたんだ。つまりリヴァイアサンとは国家権力の象徴であり、その首をぶった斬るということは、権力をぶっ潰すということを意味しているんだ。

「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 ヒップホップ名盤特集「Madvillainy」のラストを飾るのは「All Caps」!

「All Caps」

Sometimes he rhyme quick, sometimes he rhyme slow 彼は時にクイックに、時にスローにライム。 Or vice versa, whip up a slice of nice verse pie もしくは逆に、手早く作る素敵なヴァースのパイ。 Hit it on the first try, villain: the worst guy 一発で当てる、それがヴィラン、最悪の野郎さ。 Spot hot tracks like spot a pair of fat asses ホットなトラックを見つける、まるでファットなケツを見つけるみたいに。 Shots of the scotch from out of square shot glasses スコッチのショット、四角のショットグラス。 And he won’t stop ‘til he got the masses あいつは止まらねぇよ。大衆が耳を貸すまで。 And show ‘em what they know not through flows of hot molasses そして見せつける、連中が知ってるのはホットな糖蜜のフローじゃないてことを。 Do it like the robot to headspin to boogaloo まるでロボットダンス、ヘッドスピン、ブガルーみたいに。 Took a few minutes to convince the average bug-a-boo 数分だけをくれ。平均レベルのバグ・ア・ブーを納得させるためにな。 It’s ugly, like look at you, it’s a damn shame 醜いもんだよな。まるでお前を見てる感じ。クソみてぇに恥ずかしいぜ。 Just remember ALL CAPS when you spell the man name “ ALL CAPS ”を思い出しな。この男の名をスペルする時にはな。

Nice & Smoothの名曲「Sometimes I Rhyme Slow」をサンプリングした一節がかっこいいこのヴァース。天才リリシストMFドゥームにとってはライムを料理するのはお手の物。 スピードの緩急は自由自在だし、時には手早く“ヴァースのパイ ”を作っちゃう。アップルパイやチェリーパイ、そしてかぼちゃを使ったパンプキンパイなど様々な食材を組み合わせて作るパイのように、ドゥームも多様な引用や言葉を用いて最高の“ヴァースのパイ”を作る事ができるてこと。そしてパイといえば、やはり思い起こされるのがパイ投げ。彼がドープなフローに乗せて投げた“ヴァースのパイ”はリスナーたちに“Hit it on the first try(一発で当たる)”てわけだ。 そして女の子の“fat asses(ファットなケツ)を追いかけるみたいに “ hot tracks(ホットなトラック)”を探すドゥームは、スコッチを飲んで小休止。でも決して彼は止まらない。彼がリスナーに届け続けるフローは“hot molasses(ホットな糖蜜)”のように滑らかであり、ロボットダンスやヘッドスピン、そしてブガルーといったオールドスクールのダンスに漂うストリートの匂いがぷんぷんするもの。そんなフローを操る彼にとっては、人のラップに色々口出ししたがる“ the average bug-a-boo(平均レベルのバグ・ア・ブー。バグ・ア・ブーはスラングで「しつこいやつ、ごちゃごちゃうるさいやつ」という意味)” を説得するのも数分あれば問題ない。 そして締めのリリック、“Just remember ALL CAPS when you spell the man name(ALL CAPS ”を思い出しな。この男の名をスペルする時にはな。)”はドゥームの名前を書くときには、この曲「ALL CAPS」を思い出しなということ。“ caps”とは、capital letters(大文字)の略語。つまり「ALL CAPS」とは「全て大文字」という意味だ。MF DOOMのアーティスト表記は全て大文字。そう、彼のアーティスト名を書くときは、“ALL CAPS” で書かないといけないという事なんだ。

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