映画 『パティ・ケイク$』を観るべき5つの理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.47

ラップで成功を掴みとる、マイノリティ白人女性のサクセスストーリー。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのは『パティ・ケイク$』。多くのインディペンデント映画の名作を世に送り出しているサンダンス映画祭で、激しい配給権争奪戦が繰り広げられた映画だ。

『パティ・ケイク$』ってどんな映画?

舞台はアメリカのニュージャージー州。酒浸りの母と車椅子の祖母と暮らす23歳のパティは、日々ラップの歌詞を書き溜めラッパーとしての成功を夢見ていた。母親に認められず周囲からもバカにされるパティだったが、親友のジュディとライブハウスで出会ったバスタードとともにバンドを結成して活動をはじめることに。

『パティ・ケイク$』を観るべき5つの理由

①白人で女でダンボが主人公

ラップで成功を目指す映画の主人公といえば、恵まれない環境にいる黒人男性を想像するが、この物語の主人公はなんと白人の女の子。と言っても、彼女が恵まれない環境にいることは間違いない。母親と祖母の三人で暮らし、ろくに働かず男を連れ込んでは呑んだくれている母親の代わりに祖母の介護をしながらバイトを掛け持ちして働いている、いわゆる ”ホワイト・トラッシュ(貧困層の白人)”だ。しかも街の輩から「ダンボ!」と笑われるほど大きい体の持ち主でもある。

黒人が主役の音楽で、男性が幅を利かせていて、可愛くてスタイルがよい女の子しか相手にされないようなヒップホップの世界では、ある意味非の打ち所のないマイノリティ属性だ。しかし彼女は「私はサイコーにいい女!」と自分に言い聞かせ、どん底にいる自分を奮い立たせるためにラップをしている。

パティが夢に向かって諦めずに突き進んでいく姿に、誰もが勇気をもらえること間違いなしだ。

②諦めないことの大切さ

夢を叶えることは簡単じゃない。パティは神と崇めるラッパーO-Zにパーティーの給仕の仕事中に出会う幸運に恵まれ、彼の前でラップを披露してデモCDを手渡すも、コテンパンにこき下ろされてしまう。さらにその仕事をクビになり、夢を見たことを後悔してバンドを投げ出してしまう。

しかし、捨てる神あれば拾う神あり。同じく仕事中にラジオ番組のMCを務めているDJ・フレンチ・ティップスに渡したデモCDを彼女が気に入り、ラップコンテストのファイナリストに選ばれる。ちなみにDJフレンチ・ティップスを演じているのはフィメールラッパーの道を切り開いたパイオニアであるMC Lyte(MCライト)。彼女をきっかけにパティがチャンスを掴むのも熱い演出だ。

どん底にいる時は、何をしてもうまくいかずにすべてを投げ出したくなってしまうが、行動した分だけチャンスのタネは巻かれている。諦めずに夢に向かって行動し続けることの大切さを教えてくれるよ。

③親との確執を溶かす音楽の力

パティは祖母のナナとはラップを披露するほど仲が良いが、母親のバーブとは折り合いが悪い。稼げない美容師をしているバーブはパティが働くバーに来てお酒をせびっては酔い潰れるタチの悪い酔っ払いだ。そんな母親だけど、彼女の歌声だけはパティも認めていた。

実はバーブも若い頃に音楽をしていたが、成功寸前に結婚と妊娠をしたために夢を諦めるしかなかった過去を持つ。その後悔がずっとバーブにつきまとっていて、どうにもならない現実から逃げるために酒に溺れてはパティにもきつく当たっていたんだ。

バーブが娘のラップをバカにするのは、音楽の夢を追っているパティに対しての嫉妬もあるけど、自分のようになって欲しくない想いもあるからだ。そんな親子を和解させたのも、また音楽だった。ラップコンテストで、パティはバーブが若かりし頃に出した曲をアレンジした新曲を披露したんだ。パティの気持ちを受け取ったバーブは、夢を諦められず燻っていた気持ちを解放させて、パティを素直に応援できるようになった。

パティと共に成長するバーブの変化も、この映画の見所のひとつなんだ。

 

④劇中曲はすべて監督が制作

本作を手がけたのは、ジェレミー・ギャスパー監督。ミュージックビデオやCM作品を主に作っていた彼は、今作が長編デビュー作だ。脚本も監督が書いているが、なんとパティが劇中で歌う曲もすべて彼が制作しているという多才っぷり。9歳の時にはじめてRun-DMCの曲を聞いたことをきっかけにヒップホップと出会い、それ以来自分でもラップをしたりとヒップホップにのめり込んでいったそうだ。

祖母の介護をしながら、家計を支えるために仕事の掛け持ちをしているパティの設定も、監督の経験に基づいている。彼も大学生の時に同居していた祖父母の介護をしながら、寂れたライブバーで食い扶持を稼いでいた。劇中曲には監督が書き溜めていた歌詞も使われていて、彼の実体験が物語にも曲にもふんだんに盛り込まれているんだ。

「パティは自分の妹のような存在」と語る監督は、パティと同じく小さな町で燻っている人にこの映画が届くことを願っていると話しているよ。

⑤即興で誕生したのは、異色のバンドメンバー

ラップで有名になろうと、曲制作のために動き出したパティとジュディ。ある日パティが祖母のナナを連れて祖父の墓参りをしていると、ライブハウスでメタル音楽を演奏していたパスタードと再会する。ひょんなことからバスタードの秘密の音楽スタジオを発見した彼女は、ジュディを呼んで彼のスタジオで曲を制作することに。

バスタードが作っていたメタル音楽のビート部分をうまく利用し、即興でラップを乗せていくパティとジュディ。帰りたそうにするナナも巻き込み、タバコでしゃがれた彼女のハスキーボイスをスパイスとしてうまく使って誕生した曲が「PBNJ」(パティ、バスタード、ナナ、ジュディの頭文字)だった。

 

こうして偶然が重なり結成されたバンドPBNJは、白人のパティ、インド系アメリカ人のジュディ、メタル音楽をやる黒人のバスタード、車椅子の老人ナナという異色のメンバーで結成された。一見するとチグハグなメンバーだが、それぞれの個性がスパークすることで、ひとつの音楽を生み出している。才能や表現に社会的な立場は関係ないんだ。

ヒップホップ界において弱者のパティたちが観客を沸かせるパフォーマンスは爽快だ。特に超絶キュートなパティの魅力にどっぷりハマってほしい。その他にもヒップホップが題材の映画だけに多くのラッパーも出演しているから、チェックしてみてね!

 

画像出典元:サーチライト・ピクチャーズ

配信先:Amazonprime

 

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