番外編 DJ Premier × 90’s BROOKLYN 特集|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.73

ヒップホップの歌詞からストリートで使える英語を学ぼう

ライター:TARO

今回紹介するスラング

番外編

DJ Premier × 90’s BROOKLYN 特集
紹介アーティスト
Jeru The Damaja, The Notorious B.I.G., Mos Def
番外編 DJ Premier × 90’s BROOKLYN 特集|ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン? Vol.73
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WHAT’S UP,  GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.73の今回は「DJ Premier × 90’s BROOKLYN 特集」。

DJ プレミアは元々ラッパーのGuru(グールー)とのデュオ “ Gang Starr “として90年代のヒップホップシーンを席巻したアーティスト。多くの著名アーティストの音源制作にも携わってきたヒップホップ音楽史における最も重要なプロデューサーの1人だ。

DJ Premierについて

1966年にヒューストン・テキサスで生まれたプレミアなんだけど、10代の頃にテキサスから移り住んだのがヒップホップの聖地の1つであるニューヨーク、ブルックリンだ。プレミアがブルックリンに移住したのは1970年代後半。まさにニューヨークでヒップホップ・カルチャーが誕生し、新時代のカルチャーとして盛り上がりつつあった時代だね。

地下鉄の駅や列車にはグラフィティが溢れ、街角ではDJがレコードをプレイし、B-BOY達が曲に合わせてブレイキンを踊る。プレミア少年はそんな新しいカルチャーの波を、まさにその中心地の一つだったブルックリンで感じながら育ったんだ。

ブルックリンでの青年時代を経て、自らもビートメイカーとして活動し始めたプレミアはグールーと共に“ Gang Starr “としてデビューし、その圧倒的ビートメイク力とサンプリング・センス、そしてスクラッチ・テクニックでシーンを席巻していくことになる。

ブルックリンのビートメイカーから世界的なプロデューサーとなっていったプレミアなんだけど、そんな彼が90年代に多くのプロデュースを手掛けたのが彼と同じくブルックリンで70~80年代のヒップホップ・カルチャーの影響を受けて育ってきたラッパー達だ。

今回はそんなDJ プレミアとブルックリン出身のラッパー達にフォーカスして曲を紹介していくぜ!

まず紹介するのはJeru The Damaja(ジェルー・ザ・ダマージャー)。

90年代のブルックリンを代表するMCであり、そのライミングセンス、リリシズムはまさに唯一無二。そんなジェルーの作品の中でもプレミアが制作に携わったデビュー・アルバム「The Sun Rises in the East(1994)」はヒップホップ・ミュージックの歴史における名盤の一つとされている。今回回はそんな「The Sun Rises in the East」からプレミア・プロデュースの1曲「You Can’t Stop the Prophet」を紹介。

①Jeru The Damaja「You Can’t Stop the Prophet(1994)」

I leap over lies in a single bound (who are you?). The Black Prophet. One day I got struck by Knowledge of Self. It gave me super-scientifical powers. Now I run through the ghetto. Battlin’ my archnemesis Mr. Ignorance. He’s been tryin’ to take me out since the days of my youth. He feared this day would come. I’m hot on his trail, but sometimes he slips away. Because he has an army, they always give me trouble. Mainly – Hatred, Jealousy and Envy, they attack me. They think they got me. But I use my super-science and I twist all three.
「束になった嘘をひとっ飛びで跳び超えていく。(お前は誰だ?)ブラック・プロフェットさ。ある日、私は ”知識” というものに出会った。それは私に超科学的な力をくれたんだ。今、私はゲトーを駆け抜ける。最大の敵、” ミスター・無知 ” と戦いながらね。私が若い頃から、彼は私を連れて行こうとしてきた。彼はこの日が来るのを恐れていたんだ。私は彼の足跡を追う。でも彼は時として、逃げおおせるんだ。なぜなら彼は軍隊を持っているからね。いつも私を面倒に巻き込む連中さ。主に、”憎悪”、”嫉妬” そして “ねたみ” のみなさんだ。奴らは私を攻撃してくるのさ。奴らは私を捕まえたと思ったみたいだ。しかし私は超科学を使って、この3人にかましてやったんだ。」

もはやジョナサン・スイフトの「ガリバー旅行記」に匹敵するのではないかと思われるくらいの凄まじいクオリティの社会風刺リリック。

まず注目すべきは、束になった嘘をひとっ飛びで跳び越えていく男、” The Black Prophet(ブラック・プロフェット)”。「prophet」 は「預言者」という意味。つまりジェルー・ザ・ダマージャは預言者として人々を導く存在なわけだ。預言者であるジェルーは ”Knowledge(知識)” という武器を手にゲトーを駆け回り、人々を導こうとする。しかしそんな彼には ”archnemesis(最大の敵)” がいる。それはMr. Ignorance(ミスター・無知)” 。知性を邪魔する無知という存在だ。つまりゲトーの人々は 無知であることで、貧困から抜け出せず多くの困難を強いられているということを、知識と無知という概念を擬人化することによって説明しているんだね。

人々をゲトーの暮らしから抜け出させまいとする恐るべき敵、”ミスター・無知 ”。

そんな無知に対抗して、 知識を武器に戦おうとするジェルーの前に立ちはだかるのは、”Hatred(憎悪)”、”Jealousy(嫉妬)”、そして”Envy(ねたみ)” たちだ。

 ”無知”であることで起きる貧困や犯罪、そして様々なトラブルは隣人同士での憎しみや嫉妬を引き起こす。そしてそれらが新たな犯罪やトラブルを引き起こす原因になってしまう。しかしそんな負の連鎖を断ち切るのは、ジャルーが”知識”を得ることによって手にした、”super-scientifical powers(超科学的パワー)”なんだ。まさに知識を得る事こそが貧困から抜け出す鍵なんだというメッセージを込めたヒップホップ史上に残る傑作曲「You Can’t Stop the Prophet(お前に預言者は止められない)」。このリリックは始めから終わりまでで、1つの物語となっているので、ゲトーを駆け回る預言者、ブラック・プロフェットの物語の続きが気になる人は是非調べてみよう。

続いて紹介するのはブルックリンといえば、やはりこの人。

The Notorious B.I.G.(ザ・ノートリアス・B.I.G.)の名盤「Ready to Die 」からプレミア・プロデュースの「Unbelievable」!

②The Notorious B.I.G. 「Unbelievable(1994)」

Live from Bedford-Stuyvesant, the livest one. Representing BK to the fullest. Gats, I pull it. Bastards ducking when B.I.G. be bucking. Chickenheads be clucking, in my back room fucking. It ain’t nothing. They know B.I.G. be handling. With the MAC in the Ac’ door paneling. Bandaging MC’s, oxygen, they can’t breathe.
「ベッドフォード・スタイベサントに住んでる、最高に活きの良い奴の登場さ。がっつりレペゼンするぜ、BK。取り出す銃。B.I.G.が騒ぎ出したら、野郎どもは逃げ出すぜ。チキンヘッズたちはクラッキン。奥の部屋でヤリまくりさ。なんでもねぇよ。みんな知ってんだよ、B.I.G.ならハンドルしてくれるて。例の MAC は Acuraのドアにはめ込んでるぜ。MC連中、グルグル巻きさ。酸素、息もできやしねぇな。」

ビギーの地元、ブルックリンをレペゼンするリリック。

Representing BK to the fullest.「がっつりレペゼンするぜ、BK。」

で出てくる「BK」はBrooklynの短縮語だ。プレミアは音楽カルチャーサイト「COMPLEX」でのインタビューにて、ビギーとの仕事について、

「ビギーから電話がかかってきて、「トラックを作ってくれ。」て言われた時、最初は「今は時間がない、他に締め切りも抱えているし。」と言ったんだ。彼はこれから売れていくとこだったし、オレは彼が大好きだったんだけどね。ただ単純に時間なかったんだ。 

  -中略-

でもビギーが、 「Yo,プリム、頼むよ。予算はないんだけど。5,000ドルがオレの全財産だよ。」て言って来て、「マイメン、オレはもっと高いんだぜ。でもオレのお前のこと好きだから、お前のためにやることにするよ。今夜やろうぜ。」

てな感じで決まったと話しているね。

ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.73「DJ Premier × 90’s BROOKLYN 特集」のラストを飾るのは90年代最後の年に登場したブルックリン・レペゼンのリリシスト、Mos Def(モス・デフ:現 Yasiin Bey )のデビュー・アルバム「Black On Both Sides」からプレミア・プロデュースの「Mathematics」!

③Mos Def 「Mathematics(1999)」

Yo, it’s 1 universal law, but 2 sides to every story. 3 strikes and you biddin’ for life, mandatory. 4 MCs murdered in the last 4 years. I ain’t trying to be the 5th when the millennium is here. Yo it’s 6 million ways to die, from the 7 deadly thrills. 8-year-olds getting found with 9mils. It’s 10 PM, where your seeds at? What’s the deal?
「第1に宇宙の法則だけど、みんなの話には2面性があるて話。3ストライクで一生ムショ暮らしさ。強制的にな。過去4年間で4MCが殺された。ミレニアムがもう目の前だってのに、オレは5番目にはなりたくねぇな。600万通りの死に方があるんだって。7つの半端ないスリルさ。8歳の子が見つかった。9ミリの弾丸と一緒にな。今は午後10時、お前のガキたちはどこにいんだよ?一体どうなってんだよ?」

ウルトラ・ハイスキルすぎるモス・デフのリリック。もうみなさんお気づきだと思うが、このリリックは曲のタイトルである ”Mathmatics(数学)” にかけた超高度な数え歌リリックなのだ。まず出てくるのは、

「第1に宇宙の法則だけど、みんなの話には2面性があるて話。3ストライクで一生ムショ暮らしさ。強制的にな。」

のパート。

アメリカのいくつかの州では「three-strikes law(三振即 アウト法)」というものがあり、過去に二度有罪判決を受けた者が三度目の罪を犯すと罪の重さは関係なく、終身刑などの重い刑が科せられる事があるんだ。モス・デフはこのことをテーマにして、それが倫理的に正しいことなのかリスナーに訴えかけているんだ。                                  

「過去4年間で4MCが殺された。ミレニアムがもう目の前だってのに、オレは5番目にはなりたくねぇな。」

ここでは1999年までの4年間で起きたラッパーの殺人事件を取り上げている。

実はこの1996年~1999年の4年間は著名ラッパーに関する痛ましい事件が多く起きており、96年には2Pac(2パック)が、そして97年にはビギー、98年にはヒューストンのラッパー、Fat Pat(ファット・パット)、99年にはニューヨークでBig L (ビッグ・L)が殺害されている。毎年のように痛ましい事件が続く中、自分は絶対生き残ってやるというモス・デフの強いメッセージが込められているんだ。

「600万通りの死に方があるんだって。7つの半端ないスリルさ。8歳の子が見つかった。9ミリの弾丸と一緒にな。今は午後10時、お前のガキたちはどこにいんだよ?一体どうなってんだよ?」

このパートでは1996年にリリースされたジャマイカのレゲェ・シンガー、Cutty Ranks (カッティ・ランクス)のアルバム「6 Million Ways to Die」を引用。「7つの半端ないスリルさ。」とはキリスト教のカトリック教会における「七つの大罪」を言い変えた表現。「七つの大罪」は人間が犯す罪の根源とされる「傲慢」、「嫉妬」、「色欲」など七つの感情や欲望のことで、モス・デフそういった感情、欲望は同時に ”thrills(スリル)” 、つまりゾクゾクするような興奮を伴ものであるということを言っているんだ。

そして「8歳の子が見つかった。9ミリの弾丸と一緒にな。」で歌われているように、ゲトーでは小さい子どもでも銃撃事件に巻き込まれてしまう。だから午後10時にはしっかり子どもが家にいるか確認しようてこと。多岐に渡る引用と、メッセージ性、そして言葉のチョイスなど、まさにヒップホップのリリックにおける全ての要素を最高レベルで表現したリリック。さすがヒップホップ・ミュージック史上、最も偉大なリリシストの1人とされるラッパー、モス・デフだぜ。

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