『隔たる世界の2人』を観るべき理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.181

ジョーイ・バッドアス主演!タイムループ×人種差別の斬新な短編作品

ライター:ほりさげ

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!
今日紹介するのは、2020年公開の『隔たる世界の2人』(原題 : 「Two Distant Strangers」)だ。

『隔たる世界の2人』とは

人種問題とタイムループを掛け合わせることで、アメリカにおける黒人差別や警察暴力の根深い問題を巧みに表現した短編映像作品。2020年度アカデミー賞にて、最優秀短編実写映画賞を受賞。

※注意 : 今回は特にネタバレが多いことをご了承ください。これから作品を見る方は、一度鑑賞した上で記事に戻ってきても復習・補足として読めるように書いています。

あらすじ

舞台はニューヨーク。ワンナイトラブで泊まっていた女の子の家で目覚め、昨夜の余韻に耽りながら愛犬が待つ自宅に帰ろうとする黒人青年・カーター(ジョーイ・バッドアス)。ところが、路上で白人警官に理不尽に咎められ、抵抗する暇もなく締め殺されてしまう。……と思ったら、次の瞬間、なんと同じ部屋で目覚める。
悪い夢だと思ったが、同じ警官に殺され、目覚める現象が何度も続いてしまう。次第に自分だけが同じ日をタループしていることに気が付く。
何回も何十回も繰り返し試行錯誤ながら、なんとか警官から逃れる方法を模索するカーター。果たして彼は無事に愛犬が待つ家に帰れるのか……。

『隔たる世界の2人』を観るべき理由

①メタファーや伏線が
散りばめられた圧巻の30分!

今作の特徴はなんと言っても30分足らずの短編作品ということ。短いからこそキレが良く、実にテンポ良く展開されるので、「人種問題の映画とか見てみたいけど、長編の映画は苦手……」という方に強くおすすめしたい!

また、何気ない会話や背景に伏線やメタファーが隠されているところも見どころの1つ。1度見たことがある方も、2回、3回と見るうちに新しい発見があるはずだ。

Netflix限定配信なので、会員の方は今夜にでもサクッと見てほしい!

②2020年BLM運動の盛り上がりの
エネルギーを受けて生まれた作品

今作はタイムループというSF設定のおかげでエンタメ作品としても成り立っているものの、もちろん根底にあるのは黒人差別に対する糾弾だ。それが特に感じられるのが、カーターが1度目に殺されるシーン。

地面に押さえつけられ首を締め付けられた彼は、「I can’t breathe!(息ができない!)」と何度も訴える。このフレーズに聞き覚えがある方も多いはず。2020年5月に、ミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された際、最後に発したことで知られる言葉だ。R&BシンガーのH.E.Rが曲名に用いたように、その年に世界的に広まった「ブラック・ライブズ・マター(以下 : BLM運動)」(*)で重要なフレーズとして扱われたこのフレーズが、効果的にオマージュされている。

※ … 黒人への暴力や構造的な黒人差別の撤廃を求める運動。2013年頃にスタートし、その後世界的な運動に展開。

実際、監督を務めたトレイヴォン・フリーは、ジョージ・フロイドさんの事件の2ヶ月後に台本を書き上げ、そのままその年に公開された。つまり今作は2020年のBLM運動の盛り上がりのさなかで製作されたんだ。

【 H.E.R – I Can’t Breathe 】

この曲のリリースは、なんと事件からたった1ヶ月後!いかにこのフレーズが世界に衝撃を与えたかがうかがえる

③ブルックリン生まれの奇才
ジョーイ・バッドアスの名演!

ヒップホップコレクティブ「プロ・エラ」の中心人物として若手時代から圧倒的な人気を誇ってきたブルックリンの天才ラッパー、ジョーイ・バッドアス。「ウータン・クラン:アメリカン・サーガ」にも出演し、俳優としてのキャリアも着実に積んでいる彼は、なんと子ども時代にお芝居の勉強をしていたそう。

ハンサムで、ラップもイケてて、演技もできる超ハイスペックなバッドアスだけど、曲を通して、人種問題や黒人差別に対して批判を訴えかけるコンシャスなラッパーとしても知られている。
例えば、2017年にリリースしたアルバム『All-Amerikkkan Bada$$』収録の「Land of the Free」では、「KKK(*)はまだアメリカにいる(=まだまだ黒人差別は終わっていない)」というメッセージを、ポーカーの手札「フルハウス」に例えてスピットするなど、実にウィットに富んだ手法で表現している。

【 Joey Bada$$ – Land of the Free 】

※ … 南北戦争直後にアメリカ南部で組織された白人至上主義結社(Ku Klux Klan)。黒人やアジア人、ヒスパニック、ユダヤ人、その他移民などへの市民権に対して異を唱え、リンチやテロ活動も行った。

こうやって声を挙げてきた彼が今作の主演に抜擢されたことは、とても自然な流れと言えるだろう。

④エンディングこそが作品のコア!

エンディング曲に用いられているのは、Bruce Hornsby and the Range 「The Way It Is」

イントロを聴いてピンときた方も多い通り、2パック「Changes」の元ネタだ。

この「Changes」は、アメリカ社会における黒人の生きづらさや閉塞感を歌いながら、「俺たちが変えていくしかないんだ!……でも今は何も変わってないよな…」という力強さと迷いのせめぎ合いを感じさせる曲だ。少しだけ歌詞を見てみよう。

We gotta start makin’ changes
(俺らは変わらなくちゃいけない)

Learn to see me as a brother
(兄弟として見てくれよな)

Instead of two distant strangers
(見知らぬ人じゃなくてさ)

そう。最後の、“Two Distant Staranger”こそが今作のタイトル(原題)なんだ。これは偶然の一致ではないはず!オフィシャルでコメントされているわけではないが、今作のタイトルは「Changes」のリリックから引用したんじゃないだろうか?

⑤エンドロールは見逃し厳禁

そんなエンディングをバックに画面に流れるのは、過去に警察暴力によって命を落とした黒人の名前だ。

SF設定によるハラハラ感やジョーイ・バッドアスのクールな演技もあいまって、ある意味“エンターテイメント”として鑑賞できる今作だが、最後の最後でノンフィクションの「痛み」が並ぶ。
時折、殺害された際のシチュエーションも紹介されるが、そこには「玄関の鍵を変えていた」「公園で遊んでいた」「帰宅途中」など、日本で生まれ育った人間からすると、否、おそらく彼らアメリカに住む人々にとっても、本当に理解に苦しむ状況がいくつも出てくる。

日常生活を送っているだけで不当に命を奪われてきた黒人の恐怖感は、何度試しても咎められ、殺害されてしまうループにハマったカーターの絶望感そのままと言える。なかなかメンタルにくるものがあるが、最後の最後までしかと見届けたいところだ。

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音楽、ダンス、言葉、ファッション、髪型、ソウルフード……。日本に住む我々も、数々の素晴らしいブラックカルチャーを享受しているわけだけど、その美しく刺激的な部分だけでなく、その奥に横たわる暗い歴史や、今なお続く問題にも目を向けていきたい。
そして社会やコミュニティ、ひいては個人を「隔てているもの」を破壊し、結束していくことこそが、いろんな問題を解決する第一歩だと信じたい。

出展元 : Imdb

配信先 :  Netflix

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