パンチラインで観る映画『グリーンブック』|ストリートヘッズのバイブル Vol.27

粗暴なイタリア系ドライバーと天才黒人ピアニスト。人種も性格も異なるふたりが友情を築いていくロードムービー。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きならマストチェックの映画を、作中に登場するパンチラインを通して紹介していくよ!

今回取り上げるのは、アカデミー賞作品賞を受賞した『グリーンブック』。
まったく正反対のバックボーンを持つイタリア系ドライバーのトニーとアフリカ系アメリカ人の天才ピアニストのドンが、コンサートツアーのためにアメリカ南部を旅するという、事実に基づく物語だ。

1863年に奴隷解放宣言が出されたとは言え、黒人差別が色濃く残っていた1962年のアメリカ南部で、さまざまなアクシデントに見舞われながら友情を深めていく姿には、人種や育ってきた環境をとっぱらった人間同士の心の交流が描かれている。

そんな『グリーンブック』から、君のマインドをインスパイアする“パンチライン”を紹介していくよ!

『グリーンブック』ってどんな映画?

NYのナイトクラブの用心棒として働いていたイタリア系アメリカ人のトニーは、ナイトクラブの改装のために2ヶ月間職なしとなる。家族を養うために仕事を探していたトニーは、アフリカ系アメリカンの天才ピアニスト・ドンの南部コンサートツアーに同行するドライバー兼ボディガードとして雇われることに。

トニーはガサツで腕っ節も強く口も悪い一方で、貴族さながらの生活を送るドンは潔癖症で教養深く物静か。人種も性格もまったく異なるふたりが、黒人差別が色濃く残る1962年のアメリカ南部を旅しながら友情を深めていく。

『グリーンブック』のパンチライン

旅をするなかで何度も衝突しながらも、だんだんと打ち解けていくふたりの会話には、思わず笑ってしまうセリフがたくさん。
そんなふたりの掛け合いを中心に、パンチラインを3つ紹介するよ!

①「この仕事さ」

ふたりがはじめて出会ったのは、NYで最も有名なコンサートホールのひとつであるカーネギー・ホールの上階にあるドンの豪華な住まいだった。

ドライバーの面接として訪れたトニーは、週100ドルという破格な報酬を提示されるも、ドライバー以外にもドンの身の回りの世話もするように言われたため、「召使いにはならないし、俺を雇うなら週125ドルだ」とふっかける。一度は話が決裂したものの、トニーの用心棒としてのトラブル解決能力を見込んだドンは、トニーを言い値で雇うことに。

南部をめぐるうちに、徐々に打ち解けていくふたり。トニーの本名は「トニー・バレロンガ」というイタリア系の名前だが「トニー・リップ」という愛称を持っていた。なぜ「リップ」なのかと質問するドンに、小さい頃に街で一番デタラメがうまい子供だったからだと答えるトニー。

嘘つきと呼ばれて嫌じゃないのかと言うドンに対して、嘘じゃなくてあくまでデタラメだとトニーは主張する。人を口車に乗せて操るだけだと。それで得られるものがあるのかと呆れるドンに対して、トニーが応えたパンチラインがこちら。

Well, it got me this job.

この仕事さ

鮮やかすぎて、めちゃくちゃ笑った。
トニーをドライバーとして雇うことになったのは、彼の口車に乗せられたからだと気付いたドン。してやられたというドンのなんともいえない表情が最高だった。

実際にドンがトラブルに見舞われるたびに、トニーはその口達者さを活かして何度も彼を救うことになるから、「トニー・リップ」の名は伊達じゃなかったね。

②「交響曲の最後にカウベルを鳴らすのか?」

トニーは南部コンサートツアーにドライバーとして同行するために、2ヶ月間家を空けなければいけなかった。愛する妻のドロレスに手紙を書くようにお願いされたトニーは、文章を何度も書き直しながらも素直に手紙を書いていた。

その様子を見たドンが手紙の内容を訊ねたところ、旅の出来事を綴っただけのなんの変哲もない内容だった。何を伝えたいんだ?と問うドンに対して、トニーは妻がめちゃくちゃ恋しいことを伝えたいと答える。

だったら誰にも書けない文章でその想いを伝えるべきだと、ドンは詩的でロマンチックな文章を代弁しだす。その内容を書き終えたトニーが、「追伸:子供にキスを」を付け加えようとする。これはいつも、トニーが手紙の最後につけていた締めの一文だった。それに対して怪訝な表情を見せたドンが放ったパンチラインがこちら。

That’s like clanging a cowbell

at the end of Shostakovich’s Seventh.

It’s perfect, Tony.

交響曲の最後にカウベルを鳴らすのか?

完璧だ。

イカす〜!!
学がないトニーは「Dear」の綴りを間違えるほど。だけど妻に対する想いは本物で、それをトニーが見事に表現した。さらにトニーならではのチャーミングな締めの文章があってこそ、この手紙は完璧なものになったんだ。
この手紙には、妻のドロレスも思わず涙を流していた。

お互いに足りないところを補い、助け合いながら旅を続けるふたりは、次第に心を通わせていくようになる。

③「勇気が人の心を変える」

天才ピアニストとしてホワイトハウスでの演奏実績を持つドンだが、南部をめぐる先々で黒人差別を受けることになる。演奏会のゲストとして呼ばれたはずの屋敷のトイレを使うことを許されず、外のボロい便所小屋に案内されたり。気になるスーツを試着しようとしても断られたり。黒人が夜間に外出を禁止されている街を、車で移動しているだけで警察に止められたり。

それは「土地のしきたり」であり例外は認められないと、差別をしている意識がない白人たち。

ドンはいかなる差別にも屈することなく、毅然とした態度で対応していた。アメリカ北部だと正当に評価され差別を受けることもないドンが、なぜわざわざ理不尽な目にあってまで南部を旅しているのか、トニーは疑問だった。

2ヶ月にわたるツアーの最終日は格式高いレストランでの演奏だった。このレストランでも物置部屋みたいな控え室に案内されたが、これも最後だと我慢するドンとトニー。

演奏まで時間があったため、トニーは先にレストランで食事をとることに。そこに合流したのは、ドンの演奏メンバーであるオレグとジョージだった。オレグは粗暴なトニーをあまりよく思っていない態度をとっていたが、最終日だからと乾杯をかわす。

そして、なぜドンがわざわざ南部をめぐっているのかと、トニーが以前に抱いた疑問に答えることに。1956年に白人観客の前で初めて歌を歌った黒人のナット・キング・コールが、白人によって舞台から引きずり下ろして袋だたきにあった話を引き合いに出しながら、オレグが言ったパンチラインがこちら。

Because genius is not enough.

It takes courage to change people’s hearts.

才能だけでは十分じゃないんだ

勇気が人の心を変える

いくら不当な扱いを受けることになろうが、黒人が白人だらけの観客の前に立つ勇気が、無意識的に差別をしている人たちの心を変えると信じて、ドンは南部をめぐる決断をしたんだ。実際に、はじめは無意識に黒人に対して差別的な思いを持っていたトニーも、ドンと旅することで変わっていった。

このレストランでも、演奏のためにやってきたVIPなのに、食事を断られるという理不尽な扱いを受けたドン。ドンの想いを知ったトニーは、思いも寄らない決断を下すことになる。
その痛快なクライマックスは、ぜひ映画で確かめてほしい。

 

画像出典元:ユニバーサル・ピクチャーズ

配信先:Netflix