みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは、ロングラン上映中の『RRR』。「友情」「努力」「勝利」が凝縮された王道ストーリーだが、ヒップホップ要素も散りばめられている映画だ。
『RRR』ってどんな映画?
舞台は1920年のイギリス植民地時代のインド。イギリス軍にさらわれた村の少女を取り戻すために立ち上がったビーム。故郷のために大志を抱き、イギリス警察となったラーマ。ふたりの男はひょんなことからお互いの素性を知らない出会い、アツい友情を育んでいく。敵対する関係のふたりがお互いの正体を知った時、守るのは友情か?使命か?
『RRR』を観るべき5つの理由
①史上空前のヒット作『RRR』は監督の妄想から生まれた!?
日本においてインド映画では異例の興行収入10億円を突破した大ヒット作『RRR』。主人公のラーマとビームは、どちらも実在の人物で、インド独立運動の革命家だ。実際にふたりが出会った事実はないけれど、ふたりとも20歳すぎに故郷を出たあとに「空白の2〜3年」があったそう。もしもその時代にふたりが出会っていたら?というラージャマウリ監督の妄想から、この物語は誕生した。
実は監督がその妄想をするきっかけになったのがタランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』。「もしもヒトラーが自殺ではなく殺されていたら?」という歴史のifを描いたこの作品を観て、歴史的事実にこだわらなくても、フィクションならではのおもしろい物語を作れることに気づいたと、監督は語っている。
歴史改変要素と、インドで語り継がれる叙事詩の物語を掛け合わせることで、新たな物語を生み出しているんだ。
②インド映画十八番のダンスで西洋主義へ怒りの一撃!
インド映画といえば、やっぱりダンスだよね。物語の3分の1以上は踊っていると言われているほど、インド映画でダンスシーンは欠かせない存在だ。『RRR』では比較的ダンスシーンは少ないが、その分凄まじいインパクトを与えている場面がある。
それがビームとラーマが「ナートュ」というダンスを踊るシーン。ある日イギリス人たちが主催する社交パーティーに招待されたビーム。しかし、社交ダンスをうまく踊れなかったビームは、イギリス人たちに「褐色の虫けらに、芸術のなんたるかがわかるのか!」と馬鹿にされてしまう。怒ったビームがイギリス人たちを見返すために、ラーマと共に踊り始めたのがインド音楽のビートを乗せた「ナートゥ」というダンスだ。
凄まじい足さばきでキレッキレのダンスを息ぴったりに踊るビームとラーマにつられ、優雅な社交パーティーの会場は、誰が最後まで生き残るかの超絶ダンスバトルへと姿を変える。フォーマルな衣装に身をつつんだイギリス人たちも、砂埃を舞い上がらせて無我夢中でダンスを踊ることに。
イギリス貴族だらけのアウェイな会場が、一瞬にしてインドダンスの狂乱に飲み込まれていくシーンはまさに圧巻。ちなみにダンス名である「ナートゥ」はインド古来の言葉テルグ語で「その土地由来の」という意味。イギリスという大帝国への抵抗として、インドらしさを爆発させるシーンは、まさにこの映画を象徴しているんだ。
多言語、多宗教を抱える国のインドでは、みんなが楽しめるダンスシーンは重要な存在でもある。インドの映画館では観客が一緒になって踊るのも当たり前。カタルシスも兼ね添えたこのシーンを観れば、一緒に踊りたくなること間違いなしだ。
③地元をレペゼンする男たちの熱いブロマンス
家族と同じくらい出身地と友達を大切にするビームとラーマ。彼らはそれぞれの村のリーダーで、ビームの使命はイギリス政府にさらわれた村の娘を奪還すること、そしてラーマの使命はイギリス政府の警官となり、独立闘争に必要な武器を集め秘密裏に村へ送ることだった。ひょんなことから、ふたりはお互いの素性を知らずに出会い意気投合。唯一無二の友情を育んでいき、友達以上の強い絆で結ばれていった。
しかしビームはイギリス政府に戦いを挑む側、そしてラーマは警察側の人間。イギリス政府を憎む気持ちは同じだが、立場は完全に敵対する関係だったんだ。物語の中盤、お互いの正体に気づいた二人は、村のために使命をまっとうすべきか、友情を守るべきか、判断を迫られていくのだけど、そこでのアツい友情とドラマがたまらない。
一緒に体を鍛えたり、草原を走ったり、恋愛相談までする関係になっていたふたり。かけがえのない存在になった親友と使命を天秤にかける時に、心を砕きながらも自分の信じる道を進んでいく場面は、涙が溢れて前が見えない。
そして物語の後半、本当の敵であるイギリス政府と力を合わせて戦うことを選んだふたりの胸アツな友情ストーリーは、観るもののバイブスをブチ上げしてくれること間違いなし。
ちなみにビーム演じるN・T・ラーマ・ラオ・Jrとラーマを演じるラーム・チャランは、インド映画界のスーパースター。もともとふたりが友人同士だったのも、キャスティングの決め手になったんだとか。
ふたりが一体となってからのアクションシーンのギアは一気にブチ上がる。肉体の限界に挑戦したという、迫力あるアクションもぜひ楽しんで!
④インドの神話をベースにした物語
『RRR』は誰もが楽しめるスペクタクル映画だが、その根っこにはインド神話が張られている。ベースになるのは、古代インドの二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』。このふたつはインド神話の中でも特に人気で、これらを題材にしたエンタメ作品が数多く作られている。
『ラーマーヤナ』は、魔王にさらわれたシータ妃をラーマ王子が救う物語。これは『スーパーマリオ』の題材になったとも言われている。一方で『マハーバーラタ』は神の息子である五人の王子たちと、従兄弟たちとの王位継承争いの物語。大戦争のシーンはアクション映画超大作さながらの迫力満点の戦いが繰り広げられていて、その壮大さはRRRにも存分に受け継がれている。
主人公のふたりは実在の革命家でありながら、植民地政策で虐げられてきた民を救う、神話に登場する英雄そのもの。「あったかもしれない歴史」であるとともに、それぞれの神話の英雄が手をとって敵を倒す、新たな神話が創造されてもいるんだ。
あくまでインドの神話や歴史をもとに作られた映画だが、長らく愛されてきた普遍的な物語と血湧き肉躍るアクションシーンがあわさって、世界に通用する作品へと昇華しているのがすごいところ。『RRR』をきっかけに、インド神話についてディグってみるのも、おもしろいかもしれないね。
⑤世界のインド映画へ!
ラージャマウリ監督の前作、『バーフバリ』も日本でロングラン上映されるほどの大ヒットを記録したが、『RRR』は全米でも初登場3位を記録するほど絶賛の嵐。
さらにダンスシーンで使用された楽曲『ナートゥ・ナートュ』は、第80回ゴールデングローブ賞ではアジア映画、インド映画ではじめて主題歌賞を受賞。さらに第95回アカデミー賞では歌曲賞を受賞する快挙を達成。
映画好きならチェックしていたインド映画が、一気に世界のメインストリームへと躍り出たんだ。
インドの伝統を踏襲しながらも、3時間の長尺を退屈ひとつせず楽しめるエンタメ超大作の『RRR』。2023年8月現在もまだ上映している映画館もあるから、ぜひ大画面で迫力を楽しんでほしい!
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