映画 『AIR』を観るべき5つの理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.56

負け犬からの大逆転!ナイキの「エア・ジョーダン」誕生秘話!

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのはマッド・デイモン主演の『AIR』。バスケの神様、マイケル・ジョーダンがモデルであるナイキの「エア・ジョーダン」誕生の物語を描いた映画だ。スポーツだけではなく、様々なカルチャーに影響を与えているシューズの誕生には、ビジネスにおいて学ぶべきことがたくさん詰まっているよ。

『AIR』ってどんな映画?

1984年、ナイキは経営難に陥っていた。赤字を垂れ流すバスケットボール部門の立て直しをCEOに命じられたソニーは、無名の新人だったマイケル・ジョーダンに目をつける。社運をかけた賭けで、ジョーダンとの契約にこぎつけようと奮闘するが…

 

『AIR』を観るべき5つの理由

①ルールに逆らえ!マイケル・ジョーダンに全額ベット

主人公のソニーが、自分の直感を信じたからこそ、伝説のシューズ「エア・ジョーダン」は生まれた。

今でこそスポーツ界を牽引する「世界のナイキ」だが、実は当時「ナイキのシューズを履くなんてダサい」とされる低迷期。特にバスケ部門はコンバース、アディダスにつぐ三番手に甘んじていて、役員会から廃止の要請がたびたび出るほどだったんだ。

そんなバスケ部門の救世主として指名されたのが、全米高校オールスター戦を立ち上げた「バスケの師」ことソニー(マッド・デイモン)だった。彼はNBAの試合に出る前の無名の新人だったマイケル・ジョーダンのプレーに目をつけ、3人の選手と契約する会社の方針をとっぱらい、25万ドルの予算をジョーダンに全額ベットすることを決断。

しかしお金だけでは、アディダスやコンバースといった競合相手に敵わない。そこでソニーが出した大胆なアイデアが、ジョーダンにナイキのシューズを履いてもらうのではなく、彼をモデルにしたシューズを作ること。

前代未聞のアイデアに上層部からは大反対を受けるが、ソニーはとにかく行動を開始。自分の直感を信じての行動は、成功への道へと繋がっていたんだ。

②NBAの罰金制度が「エア・ジョーダン」誕生のきっかけ?

ナイキのデザイナー・ピーターとともにシューズのデザインに取り掛かったソニーたち。しかしその前には、NBAの規定が立ちはだかっていた。かっこよくするために赤を足したいが、NBAの試合で履くシューズは白の面積が51%以上でないと1試合につき5000ドルの罰金を課せられるのだ。

しかしその規定を逆手にとることで、宣伝効果が生まれるとソニーの上司が提案。派手なシューズでマイケル・ジョーダンが処罰を受けたとなると、ニュースにもなるしシューズも取り上げられる。こうして、赤と黒を大胆に配色した「エア・ジョーダン」が誕生したんだ。

ちなみに罰金はナイキが試合ごとに支払うことになるのだが、シューズは話題を呼び、絶大な宣伝効果を生み出すことに。ピンチをチャンスに変える発想の転換が、唯一無二のシューズを作り出したんだね。

③家族への根回しがビックチャンスへ

マイケル・ジョーダンへの全額ベットに反対されていたのには、そもそもジョーダンが「ナイキは履かない」と公言していたからだ。今では信じられないけど、プライベートではアディダスを履き試合ではコンバースを履くジョーダンに、ナイキが付け入る隙なんてどこにもなかったんだ。

そこでソニーがアプローチしたのがジョーダンの母親。彼の家庭は母親が仕切っていたからだ。代理エージェントの「母親に直接電話をするな」という忠告を受け、それならと直接実家に突撃。どれほどジョーダンが特別な選手かを母親とわかちあい、スポンサー契約のプレゼンの機会を得ることに成功する。

ビジネスでも自分の意志を通すのであれば、根回しは必要不可欠。そのための行動を惜しまないソニーだからこそ、ビッグチャンスを掴み取ることができたんだね。

 

④最後は自分の言葉で勝ち取る

一丸となって「エア・ジョーダン」のサンプルと資料を作り上げたソニーたち。しかし徹夜明けのためかみんなのタイミングが噛み合わずプレゼンはグダグダだ。そんな時に徐々にジョーダンの心が離れていると感じたソニーは、公民権運動の偉人、キング牧師を倣ったある行動にでる。

実はキング牧師の有名なスピーチ「私には夢がある(I Have a Dream)」は、スピーチの後半が原稿と全く違っている。スピーチの前半で、人々の心に届いてないと気づいたキング牧師が、後半からは原稿を捨てて、自分の言葉で語り始めたからだ。

その話を友人から聞いていたソニーは、プレゼンを一旦止めてジョーダン個人に向かって語り出した。それはナイキがどうこうというよりも、ジョーダンの未来についての話だった。ソニーが語りかけた言葉は彼の心を掴み、至高のシューズ「エア・ジョーダン」の誕生へと繋がっていく。ビジネスではなく、心からのリアルなコミュニケーションによって本物は生まれる。そんなことを教えてくれる名スピーチだ。

⑤前代未聞の決断が、スポーツ界を塗り変える

ナイキが生み出したのは、選手をモデルにしたシグネチャーシューズだけではない。その売り上げの一部を選手に還元するビジネスモデルも、「エア・ジョーダン」からはじまった。

きっかけはジョーダンの母親からの提案だった。ジョーダンのような特別な選手が履くことで、シューズははじめて意味を持つことになる。その貢献分の収益は得るべきだし、それがシューズを買う若者に勇気を与えるといった具合だ。

前例のない仕組みが経済に与える影響を懸念したソニーは抵抗。しかしCEOは「やるべきだ。彼を信じているんだろう?」と決断する。

結果、2003年にマイケル・ジョーダンが引退した後も「エア・ジョーダン」は人々に愛され続けるほどの人気に。さらにジョーダンは、彼のNBAでの全キャリアを通じて得た8670万ドルのほぼ倍にあたる、「1億5000万ドル」の利益を得ている。

選手生命が短いスポーツ界において、選手とその家族に貢献するビジネスモデルは、ナイキにも幸運をもたらした。エア・ジョーダンの売り上げによって、ナイキはシューズの王者として君臨することになったんだ。

ひとつのバスケシューズに込められたストーリーを知ることで、よりバスケもおもしろくなるかもしれない。8月25日からはFIBAバスケットボール・ワールドカップがはじめるから、予習として(!?)ぜひ『AIR』をみてみてね。

画像出典元:ワーナーブラザーズ

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