『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を観るべき理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.176

伝説的レゲエアーティストの生き様と、知られざる“人間らしさ”に光を当てた伝記映画

ライター:ほりさげ

「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今日紹介するのは、『ボブ・マーリー:ONE LOVE』(2024)。

『ボブ・マーリー:ONE LOVE』とは?

ジャマイカを代表するレゲエアーティストとして、今もなお世界的な人気を誇るボブ・マーリーの生涯と、その知られざる一面をリアルに描いた伝記映画。監督は、ウィル・スミス主演『ドリームプラン』(2021)も手がけたレイナルド・マーカス・グリーン

あらすじ

圧倒的なカリスマ性と家族への愛情の深さで知られていたボブ・マーリーは、激化する二大政党の対立に巻き込まれ、自宅で銃撃を受ける。幸い命に別条はなかったものの、このままではレコーディングに専念することが難しいと判断して、ロンドンに渡り、そこで後に「20世紀最高のアルバム」と評価される『Exodus』を制作・発表する。ヨーロッパツアーののち、故郷の争いを音楽の力で抑えたいという一心でジャマイカに凱旋。キングストンで開催された「ワン・ラブ・ピース・コンサート」に出演して、熱狂の渦を生み出すことに…….。

子ども時代の回想シーンなども盛り込まれているものの、今作で描かれている期間は1976年~78年のおよそ2年ほど。数行のあらすじにしてしまうとあっけないけど、この期間にフォーカスしているからこそ、彼の挙動や活動の裏側、そして当時のジャマイカの状況をじっくり描くことに成功しているんだ。

『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を見るべき5つの理由

①本人の家族が制作に参加!

伝記映画の醍醐味の1つはなんといってもリアリティ。誰もが知る偉人を扱うとなればなおさらだ。
レイナルド監督は、ボブ・マーリーの完璧な伝記映画を作るにあたって、なんとボブの妻リタ、息子ジギー、そして娘のセデラに、プロデューサーとして参加してもらうことに。結果、彼が残した言葉や仕草、そしてまさに家族にしか見せなかった一面も忠実に再現されることになった。

なかでも、ライブシーンの再現度の高さと臨場感は見ものだ。髪を振り乱しながら踊り、目を瞑ってソウルフルに歌うボブのスタイルを、主演のキングズリー・ベン=アディルが忠実に再現している。
日本でもネーネーズやKojoe&Olive Oilはじめ、多くのアーティストがカバーしている名曲「No Woman, No Cry」を歌うシーンは、実際のライブに限りなく近い。ぜひ本編と下の映像を見比べてみて!

 

②「ラスタファリズム」とは?

映画の中で、ボブやその周りの人たちは、よく合言葉のように「ラスタファーライ」と唱えている。なんかかっこいい響きだけど、これ、どういう意味だろう?
実はこの映画、というかボブ・マーリーというアーティストは、「ラスタファリズム」という運動と密接に関係している。ここについての説明がごっそり抜けていることで、上映当初は「この映画、なんか難しい……」という声も多かったそう。なので、これから初めて観るあなたに向けて解説しておこう。

そもそもジャマイカには、先住民族であるタイノ族/アラワク族が暮らしていたんだけど、スペインによる統治(16世紀〜17世紀中ごろ)によって滅ぼされ、さらにイギリスによる植民地支配が始まってからは、そこに西アフリカの黒人が奴隷として持ち込まれたという悲しい歴史がある。つまり現代のジャマイカ人は、アフリカ系の黒人を中心として複合的な血を引いているんだ。そして1962年にようやく植民地支配からの独立を果たした後もなお、有色人種への人種差別が続いてきた。

アフリカ系の血を引く労働者階級や農民は、西洋人が信仰していたキリスト教を独自に解釈し、「いつか故郷に戻るんだ」というアフリカ回帰思想と黒人の解放を目指し、自然体、平和、結束を重視した新しい思想を生み出した。この独自の思想体系や、それに伴う運動のことを「ラスタファリズム」といい、それを信仰している人々のことを「ラスタ(もしくはラスタファリアン)」と呼ぶ。

ボブ・マーリーは、このラスタファリズムの超熱心な実践者であり、曲を通して世界にラスタファリズムの思想を広めたキーパーソンだ。髪を切らず、「ドレッド・ロックス」というヘアスタイルにしていたのも、彼が皮膚の病気(メラノーマ)の手術を拒否して36歳という若さで亡くなったのも、「刃物を体に触れさせず、自然体でいるべき」というラスタファリの信念を貫いていたからこそ。
この「ラスタファリズム」という運動を理解したうえでこの作品を鑑賞してみると、ちょっとしたボブのセリフや曲のリリックも、腑に落ちることだろう。

ちなみに、ジャマイカ人みんながラスタなわけではない。2011年の国勢調査によれば、ラスタは人口の1%ほどで、普通のキリスト教がメジャーなんだそうだ。この映画を観ると、つい「ジャマイカ=ラスタ」というイメージを持ってしまうかもしれないけど、実はめちゃくちゃマイノリティな思想(生き方)だということも頭に入れておこう。

③伝説のアルバム『Exodus』の制作秘話

タイム誌が選ぶ「20世紀最高のアルバム」にも名前が挙がったほどの超有名なアルバムが、『Exodus』(*)。

※ … ちなみにラスタファリズムにおける「exodus(脱出)」とは、まさに抑圧された社会から抜け出し、故郷のアフリカ(エチオピア)に戻るぞ!という意味。

今作では、ボブが自分を取り巻く環境や自分の心情から曲のアイデアを次々と生み出し、それを同じくジャマイカ出身の伝説のレゲエバンド「ザ・ウェイラーズ」が形にしていく様子が描かれているんだけど、これが最高にかっこいい!映画鑑賞後は、確実にアルバムを1枚通して聴きたくなっているはずだ。

またボブ・マーリーはライブの際、直前までセットリストを決めない。ステージに上がってから一瞬考えた後、「~~だ!」と曲を伝えるボブと、間髪入れずに演奏をスタートするバンド&コーラス陣。その阿吽の呼吸と高いセッション感も、ジャマイカ内だけでなく世界中に熱狂的なファンを生み出したゆえんだろう。

④音楽の力で争いを止める

あらすじでも紹介したように、当時のジャマイカは2つの政党による武力衝突が激化して、一般市民も抗争に巻き込まれるほどカオスな状態だった。実際、1976年にボブ・マーリーが襲撃された理由も、「向こうの政党に肩入れしてるだろ!」という理不尽なものだったんだ。
しかし、それでも大衆の前に出て歌うことをやめなかったボブ。襲撃から2日後には、周りの猛反対を振り切ってライブを敢行。「撃たれたばかりの彼がどんなパフォーマンスを…!?」と注目されるなか、1曲目から人々の団結を訴える「War」を披露した。

【Bob Marley & The Wailers – War】

彼の強気な姿勢と大衆からの熱い支持が実を結び、1978年にキングストンのスタジアムで行われた、その名も「ワン・ラブ・ピース・コンサート」では、敵対していた2つの政党の代表をステージ上で握手させることに成功した!

「レゲエ=ピース」というイメージは一般的にも定着しているし、言葉にすれば簡単なものだけど、自分の命が狙われている状態でもジャマイカの為に平和を訴えた彼の覚悟は尋常ではない。

⑤人間臭さも映画のスパイスに

ラスタファリズムの「自然体」の概念を徹底したり、音楽の力で平和を訴えたりと、どこか神聖さすら感じさせるボブ・マーリーだけど、決して聖人君子というわけではないということも、たびたび描かれている。

例えば、妻・リタがいるのにも関わらず他の女性と体の関係を持ち、妊娠させ、挙げ句の果てにその子どもをリタに育てさせていた!それだけでなく、逆にリタが他の男性と親しげに話している様子を見て、猛烈に嫉妬して激昂する……。こんな人が自分の家族や友達にいたら、めっちゃ嫌だよね!

でも、そんなボブの人間臭さをあえて映し出すことで、この映画に奥行きが生まれているとも言える。ジャマイカ史上1番有名で音楽で世界を変えたボブ・マーリーでさえ、道を間違えたり、人を傷つけたりしてしまうんだ。完璧な人間など世界中に1人もいないことがわかるよね。


戦争で一般市民が命を落とすニュースが相次ぎ、日本でも緊張感が高まりつつある現代。そんな今こそ、ボブ・マーリーが生涯をかけて叫び続けた平和な世界のあり方、そしてその根底にあるラスタファリズムという思想について考えてみる良い機会じゃないだろうか。

そして、一緒に歌おう。ONE LOVE!

出展元 : Paramount Pictures

配信先 : Netflix

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