みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは映画『大統領の執事の涙』。実在したホワイトハウスの黒人執事をモデルにした物語だ。
『大統領の執事の涙』ってどんな映画?
アメリカ南部の綿花農園に奴隷として生まれた主人公セシルは「ハウス二ガー」を経て見習いからホテルの給仕を務め、その仕事ぶりを認められホワイトハウスの執事として仕えることに。
一方、セシルの息子ルイスはそんな父に反発して公民権運動に身を投じていく。キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争などアメリカ激動激動の時代を生きたセシルとその家族に待ち受ける運命とは…。
『大統領の執事の涙』を観るべき5つの理由
①実在のモデルを基にした物語
セシルのモデルとなった人物がいる。トルーマンからレーガンまでの戦後アメリカの8人の大統領に仕えたユージン・アレンだ。彼は歴代大統領たちと良好な関係を築き、家族のように慕われていた。
アメリカで初の黒人大統領であるオバマ大統領が当選した際に、ワシントン・ポスト紙に「オバマ当選を支えた、ある執事」の記事でアレンが掲載され、その記事からインスピレーションを受けたダニー・ストロングが脚本を執筆し『大統領の執事の涙』が作られることになったんだ。
オバマ大統領の大統領就任式にも特別招待されたアレンをモデルにし、史実とフィクションを織り交ぜたこの物語は、アメリカの歴史と黒人による基本的人権獲得のための闘争の歴史を知ることができるよ。
②アメリカ合衆国の歴史ここにあり
この映画を見れば、公民権運動の歴史を教科書的にまるっと知ることができる。これまでも公民権運動をテーマにする映画は数多くあったが、時系列で描く映画はなかったと、リー・ダニエルズ監督は語っている。
公民権運動の大きなきっかけとなった「エメット・ティル事件」(白人女性に口笛を吹いたことから、リンチされ目をえぐられ川に沈められた14歳の少年の事件)を皮切りに、白人席と非白人席で区切られていたレストランで黒人が白人席にあえて座る抗議活動「シット・イン運動」や、人種混合グループでバスを貸し切ってアメリカ南部を周り、白人専用席などの人種差別への抗議を行う「フリーダム・ライダーズ」など、公民権運動がどう展開していったかを知ることができる。
またホワイトハウスで歴代大統領たちがアメリカの人種問題にどう向き合ったかも見どころだ。人種統合された学校に黒人が通うことを知事が妨害しているアーカンソー州リトルロックに陸軍を派遣することを発表したアイゼンハワー大統領、公共の場で誰でも平等にサービスを受けることができる法案を発表したケネディ元大統領など、その決断に至った背景も描かれているよ。
③父と子の物語
この映画では、父セシルの視点と息子ルイスの視点のふたつが描かれている。セシルはホワイトハウスに仕える父を「白人にへつらう奴隷」だと反発し、公民権運動に傾倒していく。監督はそれぞれ反対の立場にいる父と子を描くことで、黒人や白人といった人種を超えた物語を描くことができたと語っている。
父セシルは忠実に大統領に仕える執事として、従来白人から“野蛮”とされていた黒人のイメージを覆した。また、白人の使用人よりも給料が4割低く、昇進ものぞめない黒人の使用人の待遇改善のために、事務主任に幾度となく抗議していた。さらに歴代大統領たちと良好な関係を築くことで、黒人に対する意識を変えることに貢献したことは言うまでもない。
ルイスは何度も逮捕されながらも、「シット・イン運動」や「フリーダム・ライダーズ」に参加。キング牧師とともに公民権運動の中枢を担い、ブラックパンサー党を経て議員にまでなった。
父セシルはホワイトハウスの内部から黒人の地位向上に務め、息子ルイスは外部から黒人のために戦った。置かれている立場、やっている行動はそれぞれ違うが、黒人のために戦っていたのは同じ。すれ違いばかりだったふたりが最終的にどうなるのかは、映画で見届けてほしい。
④映画を彩る豪華俳優陣
作中の50年間の間にさまざまな人物が登場する。短い出演時間でも名演が光る俳優が勢揃いだ。
主人公セシルを演じたのはフォレスト・ウィテカー。2022年のカンヌ国際映画祭では名誉パルム・ドール・ドヌール賞を受賞した実力派俳優だ。大統領に忠誠を誓ったひとりの男の人生を演じ切っている。
セシルの妻役は、アメリカの有名司会者であるオプラ・ウィンフリー。包容力と愛情たっぷりにセシルを支える妻を演じていた。他にも農園で働くセシルの母にマライア・キャリー、ホワイトハウスの同僚を世界的なギタリストとして名高いレニー・クラヴィッツが演じるなどするなど音楽界からも豪華ゲストが登場。
そして歴代大統領役にはアラン・リックマン、ロビン・ウィリアムズ、ジェームズ・マースデンなどが登場し、大統領たちの裏側を人間臭さをもって演じているよ。
⑤初の黒人大統領誕生までの黒人たちの戦い
もともと農園の奴隷だったセシルにとって、初の黒人大統領の誕生はまるで奇跡のような出来事だった。1950年代には、「ホワイトハウス」と名付けられた場所に黒人が大統領として就任するなんて、おそらく誰も考えていなかっただろう。
この映画を観ると「YES, WE CAN」をスローガンを掲げたオバマ大統領誕生が、黒人の歴史においてどれほど偉大なことだったか改めて感じることができる。
オバマ元大統領はこの映画を観て「ホワイトハウスで働く執事たちのことだけではなく、才能や実力がありながら人種差別のため憂き目にあいながらも、尊厳と不屈の精神で闘い続けてきたすべてのジェネレーションの人々のことを思い、涙が出た」と語っている。
アメリカの歴史と黒人たちの闘争の歴史をまるっと知ることができる本作。近代アメリカ史や人種差別問題について学びたい人には、入門編としてもオススメする。
画像出典元:アスミック・エース
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