NY発のストリートカルチャーの融合!? ヘッズなら必ず観るべき映画『All the Streets Are Silent』とは?

ヒップホップとスケートボード。ふたつのカルチャーが融合した90年代NYを目撃せよ!

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのは映画『All the Streets Are Silent』。1987年から1997年のNYを舞台にヒップホップとスケートふたつのカルチャーの融合を記録した、ストリートカルチャー史に残るドキュメンタリーだ。

『All the Streets Are Silent』ってどんな映画?

1980年代後半のニューヨークでは、アンデイ・ウォーホルやバスキアたちのアートの時代が終焉を迎え、ヒップホップとスケートボードというふたつのカルチャーが頭角を現してきていた。

当初、黒人の「ヒップホップ」、白人の「スケートボード」というイメージによって、ふたつが交わることは稀だったのだが、ヒップホップを流すナイトクラブ「Club Mars」のオープンとともに、スケーターとラッパーたちが次第に交わっていくことに。

マーズでの多種多様な交流の場をきっかけに、スケートブランドの「ズーヨーク」や「シュプリーム」も立ち上がる。さらにスケーターのリアルを捉えた映画『KIDS/キッズ』も制作され、大ヒット。ヒップホップとスケートが融合したNYのストリートカルチャーがメインストリームへと拡大していくことになるが…。

『All the Streets Are Silent』を観るべき5つの理由

①ヒップホップとスケートボードの融合

映画がはじまる1987年当時のニューヨークでは、ヒップホップとスケートボードが二大巨頭のカルチャーとして流行していたが、黒人が大半を占めるヒップホップの世界でスケートボードは「白人の遊び」とされ、認められていなかった。

スケーターの中には黒人もいて、ヒップホップ音楽が日常的に聴かれていたにもかかわらずだ。そんなふたつのカルチャーがどんなふうに交わり、NYのストリートカルチャーとして作り上げられたのかを、デ・ラ・ソウルやウータン・クラン、そしてナズやノートリアス・B.I.G.など、80年代〜90年代初頭のヒップホップ黄金時代も振り返りながら、この映画では教えてくれるよ。

不良と言われて街の人たちに疎まれていたスケーターの少年たちが作り上げたストリートカルチャーは、今は世界中に影響を及ぼしている。90年代を生きたさまざまな証言者や、当時の映像を交えた映画からは、そんな彼らが生きたリアルなNYを知ることができる。

②ヒップホップとスケーターを繋げた「Club Mars」の功績

ヒップホップとスケートボードが融合する大きなきっかけになったのが、1988年12月31日にオープンした「Club Mars」だ。そんな伝説的なクラブの創業メンバーの一人がユウキ・ワタナベ。なんと日本人だったんだ。

彼は東京で「NYでクラブをやらないか?」と誘われて、フロアごとにテーマを変えるコンセプトに惹かれてClub Marsのプロデューサーに。DJをブッキングしたりプロモーターを雇ったりしながらパーティーを盛り上げていく。

当時のニューヨークのナイトクラブでは「怒りの音楽だ」とヒップホップは拒否され、有名クラブで流れるのはハウスだけだったけど、プロモーターとして雇われたスケーターのイーライ・ゲスナーがヒップホップを流すことにこだわり、いつしかマーズはヒップホップを流すクラブとして有名になっていったんだ。

「どんな音楽でもかける」パーティが主流となり、ラッパーからスケーターまで多種多様な人物が集まることになり、ヒップホップとスケートボードのカルチャーが交わるきっかけを作っていくことになる。

③ストリートの本質はどこにあるのか?

「Club Mars」から派生したのが、「ズーヨーク」や「シュプリーム」といった、スケーターブランドの誕生だ。スケーターたちのたむろ場になっていた小さなお店から始まったブランドが、数十年後には激しいアイテム争奪戦が繰り広げられる巨大ブランドになるなんて、誰も想像してなかったはず。

ブランドが有名になればなるほど、スケーターでなくてもファッションとして楽しむ人が出てくる。かつては「ポーザー(見かけだけ)」として蔑まれる対象だったが、今はデザインがかっこいいからとファッションだけ真似るのは普通になっているよね。

スケートボードが市民権を得たからこそ誕生したスケートパークも、監督であるジェレミー・エルキンから言わせれば単なる「檻」だという。商業的に成功したからこそ大衆に迎え入れられたストリートカルチャーだが、ストリートの本質の部分はどこにいったのか?という問題提起も映画では行われているんだ。

 

④スケーターのバイブル『Mixtape』と『KIDS/キッズ』の誕生

映画ではストリートカルチャーを語る上で外せない映像作品も取り上げられている。

ひとつが1995年公開の映画『KIDS/キッズ』。スケーターをよく撮っていた監督のラリー・クラークが脚本のハーモニー・コリンと出会い、スケーターたちの映画を作ることに。NYのストリートにいた人たちに声をかけ『KIDS/キッズ』が誕生した。

ズーヨークの看板ライダーだったハロルド・ハンターも出演し、社会現象を起こすほどの大ヒットを記録。若者のセックスやドラッグを扱った教訓めいたテーマだったにもかかわらず、ストリートカルチャーに憧れた若者たちがNYに集うことに。同時に出演者自身の取り巻く環境が劇的に変わり、翻弄されていく姿も描かれているよ。

そしてもうひとつがこの映画でも象徴的に扱われた、1997年にズーヨークが制作したストリートビデオ『Zoo York Mixtape』だ。このビデオはスケーターの映像とラッパーのフリースタイル映像をミックスした斬新なビデオで、ヒップホップとスケートボードの融合を改めて世界に知らしめたものになった。

 

映像作品によってさらにふたつのカルチャーは強く結びつき、NY発のストリートカルチャーとして爆発的に世界に広がっていったんだ。

⑤豪華証言者たちが多数出演

この映画は当時のNYのストリートでのリアルな映像と、渦中にいた人たちの証言によって作られている。

豪華証言者にはキッド・カプリやRun-D.M.CのD.M.C.などの世界的なラッパーやDJたち、『KIDS/キッズ』にも出演した俳優のロザリオ・ドーソンやレオ・フィッツパトリック、Supremeブルックリン店店長でプロスケーターのジェファーソン・パンが出演。当時の映像にはまだ無名だったジェイ・Z、メソッド・マン、バスタ・ライムスたちの姿もあるよ。

映画音楽には90年代ヒップホップ界を代表するプロデューサーのラージ・プロフェッサーがオリジナル楽曲を提供し、ナレーションはズーヨークの設立者の一人であるイーライ・ゲスナーが務めている。

監督は関係者から集めた1万本にも及ぶ映像すべてに目を通し、証言者へのインタビューと当時の映像によって作品を作り上げていった。凄まじい熱量だよね。

今や巨大産業となり、世界中に影響を及ぼしているストリートカルチャーの歴史を知ることができる本作。ストリートカルチャーを語る上ではマストチェックの作品だよ!

画像出典元:REGENTS

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