みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは映画『凶気の桜』。ナショナリズムに傾倒していく反米保守の青年たちを描いた、ヒキタクニオ原作の同名小説を映画化した問題作だ。
『凶気の桜』ってどんな映画?
舞台は渋谷。若きナショナリストとして、山口、市川、小菅は「ネオ・トージョー」を結成し「渋谷のゴミを掃除」することを目的に日々渋谷で不良狩りをしていた。派手に暴れる彼らに目をつけたのが右翼系暴力団の青修同盟。ある日ドラッグを捌いているクラブを襲撃したところ、暴力団同士の抗争に巻き込まれることになり…。
『凶気の桜』を観るべき5つの理由
①窪塚洋介が原作に惚れ込んで映画化
この映画はヒキタクニオの小説『凶気の桜』を原作に映画化された作品だ。主演を務めた窪塚洋介が原作に惚れ込み、監督の薗田賢次に話を持ち込んで映画化された。
窪塚は前年に映画『GO』の主演を務めていて、この作品では日本社会で暮らす在日韓国人として葛藤する高校生を演じていた。反対に『凶気の桜』では反米保守のナショナリストを演じ、相反する役柄を演じることに対しての批判も受けていたようだ。しかし『GO』での役作りから自身の日本人としてのルーツや立場を考えることになり、『凶気の桜』に共感したそう。
一見すると反対な役柄を演じているが、窪塚のなかでは繋がっているふたつの作品を対比して観てみてもおもしろいよ。
②主題歌とか挿入歌に日本語ヒップホップを起用
主題歌を歌うのはK Dub Shine。曲名と映画タイトルと同じく『凶気の桜』。「血で血を洗う 狂ったヤツら/いくらやられても 不死身の悪魔/魂売り渡した 日本のヤクザ/季節外れに咲く 凶気の桜」と、映画のストーリーを引き継ぎながらひたすら韻を踏み続けるラップは、映画の世界観とめちゃくちゃマッチしている。
K Dub Shineは音楽監督も務め、挿入歌でもキングギドラ、童子-Tなどの曲を使用。音楽と映像とリンクした演出によって映画のかっこよさを引き立てているよ。
③過激思想が生まれる背景
アメリカナイズされた日本に危機感を覚え、「暴力こそ正義」を掲げて日々渋谷を浄化するネオ・トージョー。排他的な思想は過激で、多様性を認めようとする現代から見ると、その姿は異様に映る。
ひとつの思想に傾倒していけば、それ以外の考え方を受け付けなくなり、過激な行動に走ってしまうのは、映画の中のネオ・トージョーを観れば一目瞭然だ。
それでも愛国を掲げてナショナリズムに傾倒していくしかなかった彼らを、抑圧していた社会もあるはず。行き場のない感情が恐ろしい傾倒思想に傾き、果てには悪い大人たちに利用されて桜のように散ってしまう儚さを映画では描いて、日本という国や社会について考えるきっかけを与えてくれる。
④MV出身監督の斬新な映像演出
『凶気の桜』は20年以上前に作られた映画だが、その映像表現はいま観ても斬新。監督はキングギドラのMVなども多数手がける薗田賢次。MVやタイトルバックなどの作品を多く手がけてきた映像作家で、『凶気の桜』は彼の初監督映画だ。
映画とは違う畑の出身のため、奇抜なアングルや音楽が一体になった映像演出など、引きのある映像表現が存分に生かされているよ。
⑤存在感MAXの役者たち
登場人物は少ないが、ひとりひとりの存在感が強いのが『凶気の桜』。主演の窪塚洋介はもちろんのこと、ネオ・トージョーのメンバーである、“市川”を演じたRIKIYA(川口力哉)と“小菅”を演じた須藤元気は、闇社会に翻弄される青年の心境の変化を緻密に演じている。
ネオ・トージョーを闇社会に巻き込んでいく右翼暴力団「青修連合」の面々も最高だ。原田芳雄や本田博太郎が好演する中でも、特に「消し屋」を演じる江口洋介の存在感は圧倒的。子供じみた思想を掲げて暴力をふるうネオ・トージョーとは対照的に、お金で動く非情な殺し屋をクールに演じていた。
抑圧された若者を斬新な映像とヒップホップを交えて描いた『凶気の桜』。邦画の中でもマストチェックだよ!
画像出典元:東映
配信先:U-NEXT