インド版「8 Mile」!? インドのスラム発のラッパーを描いた映画『ガリーボーイ』とは?

インド・ヒップホップのリアルがここに!

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのは映画『ガリーボーイ』。インドのスラムで育った青年がラップスターになるまでを描いた物語だ。

『ガリーボーイ』ってどんな映画?

インド・ムンバイのスラム出身のムラドは貧しい家庭で育つ青年。親の願いもあり大学に通い、身分の違う富裕層の恋人とも密かに付き合っていたが、人を出身で判断するインドの厳格な階級社会に嫌気がさしていた。

ヒップホップが好きで自分の想いをリリックに書き溜めていたムラドだったが、ある日大学でMCシェールのライブを観たことをきっかけに、自分でもラップをはじめることに。瞬く間に人気と得てラップスターを目指すが、親の強い反対を受け…。

『ガリーボーイ』を観るべき5つの理由

①主人公のモデルはインドのストリートラッパー

主人公のムラドにはモデルがいる。インドのムンバイを拠点に活動するラッパーNaezy(ネイジー)だ。映画制作のきっかけは、ネイジーがiPadで撮影したMVを見たゾーヤー監督が、ネイジーのラップに夢中になったこと。監督曰く、ネイジーのラップは商業的なラップもどきではなく、リアルな言葉を歌う本物のヒップホップだと感じたそう。

Aafat! – Naezy

さらにネイジーのライブでMCシェールのモデルになるDivine(ディヴァン)とも出会い、ふたりの半生を基にした『ガリーボーイ』が誕生した。「ガリー」とはヒンディー語で「路地、小路」を表す言葉で、ディヴァンのクルーの名前が「ガリーギャング」だったことから影響を受けているんだとか。ストリートの路地裏から誕生したラッパー・ムラドのMCネームである「ガリーボーイ」は映画にぴったりのタイトルだよね。

②ラップ界の生きる伝説、Nasがプロデュース!?

映画のエグゼディブ・プロデューサーに名を連ねるのがアメリカのラッパー、Nas(ナズ)。ムンバイのラッパーたちに影響を受けたアーティストを尋ねたところ、みんなこぞってナズと2pacの名前が挙がったため、ナズにオファーをすることになったんだ。

主人公のモデルである、ネイジーそしてディヴァンにとってもナズは神様的な存在のラッパーであり、そんなナズと映画のプロモーションのために一緒に曲を作ることになるなんて夢みたいな話だよね。

NY se Mumbai- Nas feat. DIVINE, Naezy, Ranveer Singh

主人公のムラドもナズの大ファン。スラムツーリズムとしてムラドの家に見学にきた白人男性が着ていたナズのTシャツにムラドが反応したところ、白人男性が「この人はナズといってアメリカの偉大なラッパーで…」と話し始める。インドのスラムにいる人はナズを知らないと思ったからだ。それをムラドが遮ぎり『NY state of MInd』のリリックを捲し立てるシーンはめちゃイケてるよ。

③インドの階級社会から生まれたヒップホップ

インドは厳格な階級社会で、富裕層に生まれた子供は富裕層に、使用人の子供として生まれれば使用人になる運命で、そこから成り上がるのはめちゃくちゃ厳しい世界。自分ではどうしようもない抑圧された世界から解放されるために、ムラドはリリックに自分の気持ちを落とし込みラップで表現していく。

インドのスラムで育った人の経験を代弁しているリリックだからこそ、観るものの心を強く打ち、インドの人たちのことをよく知れる物語にもなっている。

ちなみにムラドが詩的センスが評価され有名になるきっかけになった曲『Doori』は、監督の父であるJaved Akhtarが書いた詩をディヴァンがリライトしたもの。

映画にはラッパー、ヒューマンビートボックス、作詞家、音楽プロデューサーなど大勢のアーティストも参加していて、いろんな人の力によって作り上げられているよ。

 

④強烈なインパクトを残す役者たち

本作の俳優はインド映画に欠かせない人物たちだ
ムラドを演じたランヴィール・シンはインドの大スター。本編のラップはすべて自分で歌いきり、ムラドの内省的な性格を繊細な演技で表現している。

ムラドの恋人であるサフィナ役にはアーリヤー・バット。大ヒット映画『RRR』でもヒロインを演じていたが、本作では真逆の性格であるエキセントリックなキャラクター。ムラドを一途に愛するあまり邪魔する女には暴力を振るい、親には平気で嘘をつく傍若無人っぷりを、チャーミングに演じている。

Divine本人も終盤のライブシーンのMCとして登場している。ムラドと握手を交わすシーンは感動ものだ。

⑤インドのヒップホップを世界に知らしめた映画

この映画は海外でも高い評価を受け、2019年公開のボリウッド映画興行成績第9位、海外興行成績第1位を記録した。さらに第92回アカデミー賞のアカデミー国際長編映画賞インド代表作品に選出されたんだ。

インドでもその影響は大きく、それまでインドの音楽シーンの主流を占めるのが映画音楽で、ヒップホップはアンダーグラウンドな音楽だった。監督は「ヒップホップも映画という場を用意すれば、広く受け入れられるのでは?」という想いもあったそうだが、映画に登場したアーティストたちの活動もあり、ヒップホップは映画音楽に続くほどの人気を誇るようになったんだとか

ちなみにラップの日本語字幕監修は、日本語ラップの先駆者の一人であるいとうせいこう氏が務めていて、日本語字幕でも韻を踏んでいるから要チェック!

インド・ヒップホップのリアルを知れる『ガリーボーイ』。観ればインドヒップホップをディグりたくなること間違いなしだ。

画像出典元:ツイン

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