パンチラインで見る映画『ゲット・アウト』|ストリートヘッズのバイブル Vol.19

黒人のとりまくリアルな状況を、ホラー映画としてあぶりだした傑作。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?

「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きならマストチェックの映画を、作中に登場するパンチラインを通して紹介していくよ!
今回取り上げるのは、ジョーダン・ピール監督の名を知らしめた『ゲット・アウト』。

黒人と白人の間にある、いまだに埋まらない溝をあぶりだし、本当の意味での共存とはなにかを問いかけている。脚本も担当したジョーダンピール監督は、黒人で初の快挙となるアカデミー賞脚本賞を受賞した。それもうなずけるほど、とにかく話がおもしろい。

今回は『ゲット・アウト』から、君のマインドをインスパイアする“パンチライン”を見ていくよ!

『ゲット・アウト』ってどんな映画?

黒人である主人公のクリスは、白人のガールフレンド、ローズ・アーミテージの実家を尋ねることに。自分が黒人であることを心配していたクリスだが、両親に暖かく迎えられる。でも、この家にいる人たちは、何かがおかしい。黒人使用人の張り付いた笑顔、パーティー来客者たちのクリスを値踏みするようなコミュニケーション。
だんだんと違和感を募らせていくクリスには、恐ろしい魔の手が迫っていた。

『ゲット・アウト』のパンチライン

クリスが滞在するアーミテージ家では不穏な展開がつづき、ハラハラどきどきが止まらない。その中で緊張を緩めてくれるのが、クリスの親友であるロッドが出てくるシーンだ。ロッドは、クリスが留守中に愛犬をまかせるほど信頼していて、離れている間にも電話で連絡をとりあっている存在だ。

アーミテージ家での居場所をどんどん失っていくクリスに対して、全力で味方になってくれるロッドの姿はめちゃくちゃ頼もしい。
そんなロッドがユーモアたっぷりに放つパンチラインを、3つ紹介していくよ!

①「次の9.11は老人がやるぞ」

黒人である自分が、白人である彼女ローズの家族に受け入れてもらえるかを心配するクリス。ローズは「父はオバマの支持者だから大丈夫」だと言うが、なかなか不安は消えない。
ローズと一緒に車で実家に向かっていく道中に、緊張を紛らわすためか仕事中のロッドに電話をかけるクリス。

ロッドは、9.11テロをきっかけに設立された組織TSA(アメリカ合衆国運輸保安庁)の職員として働いている。クリスからの電話に出たロッドは「クリス、聞いてくれ」と、開口一番に愚痴りだす。空港警備を担当していたロッドは、高齢者の身体検査をしたところ「老人はハイジャックしない」と、逆に指導されたという。それに憤っているロッドがかましたパンチラインがこちら。

The next 9/11 is gonna be on some geriatric shit.

次の9.11は老人がやるぞ

確かにありえなくない笑
とはいえ、任務をきちんとこなしていたのに怒られるなんて、おかど違いもいいところ。もしロッドが白人だったら?と考えてしまう。でも、それすらもユーモアをもって愚痴るロッドに、クリスも思わず笑ってしまう。さらには「白人女の家に行くな」との冗談もかます。

この後、クリスたちが乗る車は突然飛び出した鹿をはねてしまったため、警察を呼ぶことに。運転していたのはローズだったが、白人警察官はクリスにも身分証を出すように要求する。

その対応はおかしいと憤るローズだが、クリスは面倒を避けるように特に反抗もせずに対応しようとする。「黒人だから」の対応をされることがクリスにとっては日常であり、もはや諦めている様子が浮き彫りになっていた。

②「オレの人生を直すことなんてできねぇ」

アーミテージ家にやってきたクリスは脳神経外科医である父親ディーンと心理療法家である母親ミッシーに歓迎される。しかし、家にいる黒人使用人たちの様子はおかしいし、パーティーに来る白人たちの態度は違和感だらけだし、ミッシーには禁煙治療と称した催眠術をかけられる。

自分がおかしいのか、周りがおかしいのか、だんだん混乱していくクリスは、またロッドに電話をかける。ロッドから催眠術について突っ込まれると、それは禁煙治療だしローズの母親は心理療法家だとフォローするクリス。そんな寝惚けたことを言っているクリスにロッドが喝を入れたパンチラインがこちら。

I don’t care if the bitch is Iyanla Vanzant, okay?

もしその女がイヤンラ・ヴァンサントだろうが、関係ねぇよ

She can’t fix my motherfuckin’ life.

オレの人生を直すことなんてできねぇ

You ain’t gettin’ in my head.

頭には入ってこれねぇぜ

まったくその通り!!
いくらガールフレンドの母親であっても、無断で人の脳みそを覗くような真似をしてはいけない。しかもクリスは、催眠術によってトラウマを掘り起こされた。

セリフにでてくるイヤンラ・ヴァンサントは、アメリカの有名なスピリチュアル番組のパーソナリティで、彼女自身もスピリチュアルに精通している。例えそんなすごい人でも、人の人生をコントロールすることはできないと、ロッドはばっさりと斬っている。

電話でクリスの状況を聞いたロッドは、様子がおかしい黒人たちもその母親の催眠術をかけられてるんじゃないかと推理をする。結構良い線いってるし、頭も切れるなんて最高なやつだね。

③「行くなって言ったろ」

ついに本性をあらわしたアーミテージ家によって囚われたクリスだったが、命からがらアーミテージ家から逃げ出すことに成功した。(なんでクリスが囚われたかの衝撃の理由は、ぜひ映画を観てほしい。)だが、最後まで追ってきたローズと死闘を繰り広げることに。

しかし間一髪、パトカーに乗って助けにやってきたロッドによってクリスは無事救出される。ロッドはクリスと音信不通になったことを心配し、手がかりを必死に探していたのだ。衝撃のあまり助手席で放心しているクリスを心配したロッドが言ったパンチラインがこちら。

I mean, I told you

not to go in that house.

行くなって言ったろ

シリアスなシーンなのに、思わず吹き出してしまったセリフ。
最初に「ローズの家に行くな」って言った時は、クリスがこんな目にまであうとは思ってなかったはず。結局ロッドが正しいことを言ってたみたいになっているのがおもしろすぎる。そしてどんな時もユーモアを忘れないロッドに救われる。「よく見つけたな」と言うクリスに「この俺はTSA野郎だぞ。困難に立ち向かう、それが任務だ」とかっこいい台詞まで決めていた。

パトカーが来た時、クリスはローズに馬乗りになっていたから最悪の結末を想像しちゃったけど、パトカーからロッドが出てきた時の安心感といったら…!

実は、最初に監督が撮っていたのは、クリスがアーミテージ家殺人容疑で警察に捕まってしまうラストだったんだとか。それがアメリカのリアルだから。でも現実で警察官が黒人を射殺する事件が起きたり、トランプが大統領に当選してしまったりと、黒人をとりまく状況が悪化していたから、逆にハッピーエンドにしたんだって。

マジでクリスにはロッドがいてよかった。持つべきものは友達だね。

 

画像出典元:ユニバーサル・ピクチャーズ

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