みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは『DOPE ドープ!!』。ドープには「違法な薬物」「まぬけ」スラングで「素晴らしい」という意味があるが、そのすべてが込められている物語だ。
『DOPE ドープ!!』ってどんな映画?
90年代カルチャーとヒップホップが大好きなオタク高校生のマルコムは、治安が最悪なロサンゼルス・イングルウッド出身でありながらも勉強に励み、ハーバード大学進学を目指していた。友人のディギーとジブとバンドを組んだりと楽しく過ごすも、オタクの彼らは学校のヤンキー達のいじめから日々逃げ回っていた。
ある日、ひょんなことからドラッグディーラーのドムのパーティに参加したことをきっかけに、マルコムはドラッグをめぐるいざこざに巻き込まれてしまう。大量のドラッグを売り捌かないといけない窮地に立たされたマルコムは、ディギーとジブと一緒に奔走することに。
『DOPE ドープ!!』を観るべき5つの理由
①ファレル・ウィリアムスがプロデュース&楽曲制作に携わった音楽映画
90年代のヒップホップがひっきりなしに流れる本作は、世界的ヒットメーカーである音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスが制作総指揮として名を連ねている。
Nasやジェイ・Z、スヌープ・ドッグなどのヒップホップアーティストもプロデュースしているファレルは、劇中のマルコムたち三人組のロックバンド「Awreeoh(オレオ)」の楽曲制作も担当。等身大の彼らの気持ちを歌った曲たちは、俳優の歌唱力もあいまってめちゃくちゃ心に響いてくる。サントラも配信されているのでぜひチェックしてみてほしい。
劇中でシーンごとに流れるヒップホップの中でも、Black Sheep(ブラック・シープ)の「The Choice Is Yours(君が選べ)」は、本作を表すのにぴったりの曲だ。黒い羊(はみ出し者たち)が、つまはじきにもされるかもしれない異端な個性を、どう生かすべきかを歌っている。自分らしい生き方は、自分の選択でしか得ることはできないんだ。
②冴えないオタクだからこその生き方
ヒップホップやドラッグを扱った映画の主人公といえば、スラム出身で勉強はできないけどストリートでの生き方を心得てるイケてる奴というイメージを持つが、主人公のマルコムはそこから逸脱している存在だ。
スラム出身だが高校では真面目に勉強し、成績優秀でハーバード大学を目指している。黒人だがスポーツとは無縁のオタクで白人趣味をからかわれ、ヤンキー達からスニーカーのカツアゲにあったりといじめられている。白人趣味だということはマルコムたちも承知で、3人で組んだバンド名には、クリームを黒いクッキーでサンドしたお菓子「Awreeoh(オレオ)」を名付けている。白人かぶれの黒人への蔑称として用いられているお菓子の名前をあえてバンド名につけることで、それが俺たちのリアルだと開き直っているんだ。
ドラッグを売り捌かないといけないハプニングにも、オタクならではの強みを活かしてミッションを遂行していく様子は痛快。はみ出し者だからこそいろんな人や場所に関わることができ、そこで起こる出来事から教訓を学ぶことができるとマルコムは語る。自分の力でハプニングを乗り越えたことで、マルコムははみ出し者の自分を認めることができたんだ。
③偏見を生むステレオタイプに対する投げかけ
物語に出てくるキャラクターたちは、みんながイメージするステレオタイプで描かれることも多い。だが本作ではマルコムのキャラクターを筆頭に、ステレオタイプから少しずれたキャラクターが多く登場する。
金持ちのボンボンが、ルーツはゲットーであることを誇りに思っていたり、街で出会ったギャングがオタクのマルコムよりヒップホップに詳しかったり、ハーバード大卒の経営者がギャングの元締めだったり。キャラクターのギャップを見せることで、人間はひとつの属性だけで決まるものではなく、多様な面があるものだということを教えてくれるんだ。
成績優秀なマルコムはハーバード大学を目指しているが、物語の終盤に観客に対してドキッとする問いかけをする。「なぜハーバード志望か? 僕が白人でも同じ質問をする?」と。同じ黒人である教師さえもマルコムがハーバードを目指すことを傲慢だと言う世界で、自分は持っていないと思い込んでいる偏見に気づかせてくれる。
④Nワードに対する問いかけ
ヒップホップの歌詞にはNワード(ニガーといった黒人に対する蔑称)が頻出するが、その言葉をアフリカ系アメリカ人以外が使うことの是非を問う議論に明快な答えは出ていない。本作でもNワードの使い方について議論するシーンがある。
ドラッグを売り捌かないといけなくなったマルコムたちは、ドラッグに詳しい天才ハッカーの白人・ウィリアムを頼ることに。ウィリアムはかつてバンドキャンプを通して3人と出会いすぐに意気投合するが、彼らに「ニガー」と言った瞬間ディギーからビンタをくらったことがある。
ウィリアムは親愛を込めてNワードを使っているし、マルコムが自分に対してNワードを使うのに逆はなんでだめなんだと反論し、ジムもラテン系の黒人でアフリカ系ではないのだから、彼がNワードを使うのはおかしいと指摘。だが、ディギーはルールだからだめだと突っぱねる。(ジムは14%アフリカ系のルーツを持っているそうだ)
Nワードは奴隷制時代の黒人の蔑称として用いられていた単語だが、アフリカ系の人々の間では仲間という意味で使われることがある。ヒップホップでもよく登場するからうっかり使ってしまいがちだが、当事者以外がNワードを使うことの是非を改めて考えるきっかけをくれるシーンだ。
⑤俳優たちの出世作
映画祭でプレミアム上映された途端に、様々な配給会社が配給権争いを行った本作は、音楽はもちろんのこと俳優たちの演技も素晴らしい。
それもそのはずで、マルコムを演じたシャメイク・ムーアは本作をきっかけにNetfilix制作のヒップホップドラマ『ゲットダウン』の主演に抜擢。友人のジム役のトニー・レヴォロリは『スパイダーマン』新作シリーズで主人公のクラスメイトを演じ、ディギー役のカーシー・クレモンズは本作のDC映画『ザ・フラッシュ』(6月16日公開)では重要な役を演じている。まさに本作が出世作になったんだ。
ラッパーでリアーナのパートナーでもあるエイサップ・ロッキーも、ドラッグディーラーのドム役で本作で演技を初披露している。才能豊かな未来のスターたちが演じる、現在も色褪せない新しさを持つヒップホップムービーを、ぜひご覧あれ。
画像出典元:ビーズインターナショナル
配信先:Amazon Prime