映画 『ボーイズ’ン・ザ・フッド』を観るべき5つの理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.45

黒人に生まれた若者のリアルを描いた元祖フッドムービー。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのは『ボーイズ’ン・ザ・フッド』。麻薬と銃が隣り合わせの街ロサンゼルス・サウスセントラルで生きる青年たちのリアルを描いた物語だ。

『ボーイズ’ン・ザ・フッド』ってどんな映画?

 

舞台は犯罪が横行する危険地区、ロサンゼルス・サウスセントラル。学校で問題を起こし、離れて暮らす父親に育てられることになった主人公のトレは、引っ越した先でアメフト選手を目指すリッキーとその兄であるヤンチャなダウボーイと友達になる。

厳格な父親のおかげで、堅実に服屋で働きながら大学進学を目指す青年になったトレは恋人にも恵まれ、親友のリッキーは大学からアメフト選手としてスカウトされるほどの選手になっていた。犯罪には手を染めず、将来のために真面目に暮らしていたトムだったが、ギャングになったダウボーイの抗争にリッキーと一緒に巻き込まれることに。

『ボーイズ’ン・ザ・フッド』を観るべき5つの理由

①あぶり出された黒人社会の問題

「アメリカの黒人男性の21人に1人が殺されて死ぬ。手を下すのは大半が同じ黒人の男性である」。

映画冒頭に流れるこのメッセージが、本作の問題提起だ。21人に1人という確率は、自分の身に降り掛からなくても、友人や知り合いに殺された奴か殺した奴がいるくらいの高さだ。黒人男性として生まれるだけで、死ぬ可能性がグッと高まってしまう現実があるんだ。

なぜ同じ人種同士が殺し合わなければいけないのか、それは環境によるところが大きい。貧困地区では生きるためにやむを得ず犯罪に手を染めてしまう人たちもおり、さらにその辛い現実から逃れるためにドラッグに溺れてしまうことがある。荒んだ環境の中では暴力やいがみあいは生まれやすく、やられる前にやらないと自分が殺されてしまう。隣人を殺すのではなく、そんな環境を生んでしまった社会を変えなければいけないが、それは簡単なことじゃない。

トムの父であるフューリアスがアメリカで一番犯罪率が高いコンプトン地区で住民に対して演説をするシーンがある。なぜ黒人の街には銃器店が多いのか? なぜドラッグディーラーは黒人が多いのか? 麻薬はどこからやってきたのか? 黒人同士が憎み合い殺し合ってしまう背景を読み解き、「真剣に未来を考えろ、ブラザー」とフューリアスは説いている。

彼は劇中で登場する黒人たちによく「ブラザー」という言葉をかけていた。自分を罵倒する黒人警察官にさえも。それは、自分達が仲間であることの呼びかけなんだ。

②父親が与える大きな影響

トムはもともと母親と暮らしていたが、同級生との喧嘩を繰り返したため父親に引き取られることに。そこには母親の、息子を「男」として育てるためには父親の存在が必要だという想いがあった。

父親のフューリアスは金融関係の仕事に就くインテリで、トムに犯罪や暴力に手を染めず、自分に誇りを持ちながら生きることの大切さを教えていた。トムはフューリアスが17歳の時にできた子供であることから、避妊の大切さや子供を育てる責任についてもことあるごとに説いていた。その甲斐があってトムは将来のために真面目に勉強し大学進学を目指す青年へと成長したんだ。

反対にトムの親友であるリッキーと兄のダウボーイに父親はいなかった。リッキーは高校生で子供を作り、ダウボーイはギャングの一員になり刑務所の常連だ。シングルトン監督はこの作品で、父親が子供に与える影響や子育てに対する絶対的な責任について描いているという。

子供達を負のスパイラルから抜け出させ、将来へとまっすぐのびる道を示してくれる存在の大切さを教えてくれ、自分達が次世代のために何ができるのかを考えるきっかけを与えようとしているんだ。

③負の連鎖を断つ難しさ

銃と隣り合わせのサウスセントラルの生活では、子供達は流れ弾に気をつけろと言われ、道端には死体が置き去りにされている。子供が犯罪に関わるきっかけが、いたるところに転がっているんだ。

ギャングになったダウボーイも子供の頃から盗みを働いていた。しかし、弟のリッキーの夢を応援していた心優しい兄貴でもある彼は、どうにかリッキーには真っ当に生きてほしいと願っていた。だが、彼の弟という理由でリッキーはギャングの抗争に巻き込まれて死んでしまう。

ダウボーイはきっちり報復をするが、物語の終盤で「キリのない殺し合いだ」と、暴力の応酬の虚しさを吐露していた。真面目なトムやリッキーでさえも不可抗力的に犯罪に巻き込まれてしまう環境の中で真っ当に生きることの難しさ、黒人として生まれたことの過酷さが、ダウボーイの言葉に凝縮されている。

 

④シングルトン監督のデビュー作にして大傑作

2019年に51歳という若さで急逝したジョン・シングルトン監督が、23歳の時にデビュー作として撮った半自伝的映画が本作だ。彼自身もロサンゼルスのゲットー地区出身であり父親の存在のおかげで大学に進学して映画監督になった経緯を持つ。

「黒人から奪われた尊厳を取り戻すため」「自分が育った地域で何が起こっているのかを伝えるため」にこの作品を撮ったという。よくある白人と黒人の対立ではなく黒人同士の問題を監督が描いたのは、それが監督自身のリアルだったからだ。

ギャングの抗争で弟を亡くしたダウボーイは、テレビは世界の暴力を報じるが弟が死んだことには触れないと嘆いていた。彼が住む地域はあまりにも当たり前に人が死ぬし、世界から切り離されている場所だ。実際にそんな街で育ったシングルトン監督だからこそ、描けたストーリーなんだ。

黒人社会のリアルを描いた本作で監督は当時史上最年少にして、アフリカ系アメリカ人はつのアカデミー賞監督賞にノミネートされた。フッドムービーの元祖として現在も様々な作品に影響を与えている。

⑤N.W.Aのアルバムから名付けられたタイトル

「ボーイズ’ン・ザ・フッド」というタイトルは、伝説のギャングスタラップグループのN.W.Aのファーストアルバムの曲から名付けられた。生まれ育った街のリアルや警察に対する批判を歌っている彼らと本作のテーマはリンクしている。

さらにN.W.Aのメンバーだったアイス・キューブが本作で俳優デビュー。ギャングとして犯罪を犯す一方で、弟想いでありギャング同士の暴力に虚しさを覚える繊細な役柄を見事に演じているんだ。

黒人が直面する社会問題を描き、後に誕生する作品にも大きな影響を与えたフッドムービーをぜひチェックしてほしい。

画像出典元:コロンビア ピクチャーズ

配信先:Netflix