映画『シティ・オブ・ゴッド』を観るべき5つの理由|ストリートのヘッズのバイブル Vol.4

ブラジルで最も危険なスラムを描いた映画に込められた要素とは?

ライター:TARO

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回取り上げるのはブラジルの貧困街に生きる子供達を描き、世界に衝撃を与えた映画『シティ・オブ・ゴッド(2002)』。ヒップホップのリリックでもよく出てくる “ゲットー”を描いた映画の中でも最もリアルな映画の一つだ。今回はヘッズのMUST WATCH映画『シティ・オブ・ゴッド』を見るべき理由を5つ取り上げて解説していくよ!

『シティ・オブ・ゴッド』とはどんな映画?

ブラジル・リオデジャネイロのスラム、 “シティ・オブ・ゴッド”が舞台。
強盗や殺人が毎日のように起き、子供が平気で銃を手に取り、殺し合う街で生きるブスカペは写真家になることを夢見る青年だ。ある日、彼は街を仕切るリル・ゼのギャング団と警察の衝突に鉢合わせる。「逃げたら、殺される。逃げなくても、殺される 」
子供の頃から覚えてきたその言葉と共にブスカペの脳裏に蘇るのは“神の街”での記憶。
家族、犯罪、ドラッグ、抗争、そして甘酸っぱい恋。彼が見てきたのは毎日のように誰かが殺される地獄のような街で必死に生きぬく人々の姿だった。

『シティ・オブ・ゴッド』を観るべき5つの理由

①実話に基づいた話

『シティ・オブ・ゴッド』はリオ・デジャネイロに実在するスラム、Cidade de Deus(ポルトガル語で「神の街」)で生まれ育った作家パウロ・リンスが自身の経験を元に書いた小説『Cidade de Deus』が原作の映画。

映画の中で描かれる子供が銃を持って殺し合うというストーリーは彼が実際に1960年代から1980年代のCidade de Deusで経験した実話に基づいているんだ。

②出演俳優のほぼ全員が実際にブラジルのスラム、ファベーラ出身の人々

この映画がすごいのはなんと出演俳優のほとんどが実際にブラジルのスラム、ファベーラ出身だということ。現地オーデションで選んだファベーラ出身の素人約200人に演技訓練を施し、アドリブ主体の演技を撮影したんだ。

だからこそこの映画のリアリティはもはや異常。他の映画にはない圧倒的な人間の熱気を感じる作品になっているんだ。映画に出演した人々の中にはこの映画がきっかけで俳優としてのキャリアを切り開いた人もいて、彼らの10年後を追った「シティ・オブ・ゴッド:10年後」では出演した人々のその後が描かれているよ。

③映画史に残るカメラワーク

監督のフェルナンド・メイレレスはブラジル・サンパウロ出身で、元々CMディレクターとして名を知られた人物。

だからこそ『シティ・オブ・ゴッド』は映像的にも非常に見応えのある演出が施されている。特に圧巻は映画冒頭のシーン。

包丁が研がれるアップのショットが映し出された後、場面は鶏を捌いて食す場面に。そこから逃げ出す1匹の鶏、それを追いかける少年たちという流れでカメラは展開していく。ここで観客はまず一つの、決定的な異常さに気づく。鶏を追いかけている小学生くらいの子供たちは皆手に銃を持っているのだ。

アップテンポなラテン調のサントラに乗せて、カメラはファベーラの狭い小道を逃げ回る鶏の目線と、銃をぶっ放しながら鶏を追いかける少年たちの目線を交互に映し出す。ここで観客はファベーラが一体どんな場所なのかを早々に理解することになる。

ここは少なくとも自分たちの常識は一切通じない場所で、これから自分たちはその世界を垣間見ることになるのだということに。この冒頭のシーケンスでのカメラアングルの変え方や対象の暗示的な見せ方は映画史に残るカメラワークとしていまだに映画ファンの間で語り継がれているんだ。

④主人公ブスカペのナレーション

映画全体のナレーションを務めるのが、主人公のブスカペ。映画はゲットーの中で堅実に生きようとするブスカペの冷静な視点で語られていく。そして彼の語りこそが観客がこの映画の大きなポイントになっている。子供が銃で簡単に人を殺す異常な世界において、ブスカペの視点があるからこそ、観客は彼の気持ちに共感し、映画の世界に入り込むことができるんだ。

⑤ブスカペの青春映画としての側面

『シティ・オブ・ゴッド』で描かれているのは銃や抗争といったゲットーの過酷な現実だ。ただこの映画がただのギャング映画ではないのは、主人公ブスカペの青春模様や繊細な感情もしっかり描いているという点。

憧れの女子への淡い恋、地元の連れとの友情、そして夢と現実とのギャップから生まれる葛藤。それはゲットーに生まれた人でなくても、きっと誰もが人生の中で感じたことがある感情や経験のはずだ。つまりブスカペはこの映画の語り手であると同時に、僕たち自身の投影にもなっているんだ。

物語の後半でブスカペは写真家になる道を志し、街を出ることを決意する。あまりにも理不尽すぎる環境の中を生き抜き、新しい目標を持って生きていくことを決めたブスカペというどこにでもいる青年の生き様を描いているからこそ、僕たちはこの映画は観終わった後に、大きな衝撃と共に前に進むための勇気をもらうことができるんだ。

まとめ

ゲットーという場所を限りなくリアルに描いた『シティ・オブ・ゴッド』。この映画からは僕たちがラップ・ミュージックからもらっているエネルギーや勇気と同じようなものをもらうことができる。まだ観たことがないヒップホップ好きにはぜひチェックしてほしい映画だ。

画像出典元:Globo Films

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