ストリートスナップの先駆者!ファッションに人生を捧げた男に迫った『ビル・カニンガム&ニューヨーク』とは?

50年間NYのストリートでファッションを撮り続けた、ビルのファッションと仕事の哲学が詰まった傑作!

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのは映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』。NYのストリートでファッションスナップを撮り続けている、84歳のファッションフォトグラファーを追ったドキュメンタリー映画だ。

『ビル・カニンガム&ニューヨーク』ってどんな映画?

ニューヨーク・タイムズ紙の人気コラム「ON THE STREET」と「EVENING HOURS」を長年担当するフォトグラファーのビル・カニンガム。彼はストリートファッションスナップの先駆け的存在で、50年以上もニューヨークの街角でファッションを撮り続けてきた。本作では、ファッションに人生を捧げたビルの謎に包まれた私生活に迫る中で、彼のファッションにおける哲学が鮮明に映し出される。

『ビル・カニンガム&ニューヨーク』を観るべき5つの理由

①ファッションに人生を捧げた男

ビルは生活の全てをファッションに全振りしているほど、ファッションを愛した男だ。毎日NYのストリートでファッションを撮り続け、夜は社交パーティーをハシゴする生活を50年以上続けていた。

ブランドから提供された華麗な服を着る有名人にはおもしろみを感じないビルは、自腹の服を着ている女性のリアルなファッションが大好物。「街が語りかけてくるのを待つ」という彼は、「写真を撮らせて」なんて言わずに、瞬時に自分の琴線に触れるスタイルを見極めて、目の前を通りがかった瞬間にシャッターを切る。矢を射るようなスピードで被写体を捉える姿はハンターさながらだ。

ファッションに対する審美眼は本物で、彼が発信したファッションは半年後のトレンドになるし、パリコレのショーでは模倣をすぐに見抜く。彼が撮り溜めたストリートのファッションは、ファッション史においても重要な役割を果たしている。

さらにファッションへの愛とリスペクトを守るためなら、生活を犠牲にすることも厭わない。ビルのために創刊されたといわれる雑誌『DETAILS』では、毎号100ページほどファッションフォトを掲載していたが、原稿料は一切受け取らなかった。お金をもらうと、自分の好きなことを表現できないからだ。

純粋な気持ちでビルはファッションに向き合っていたからこそ、彼が写すファッションスナップは生き生きとリアルだった。84歳でも目をキラキラさせながらファッションを撮っている彼の姿には、勇気をもらえること間違いなしだ。

②仕事における徹底したポリシー

ビルに写真を撮られることがニューヨーカーのステータスとなり、米ヴォーグ誌編集長でファッション界の女王であるアナ・ウィンターに「彼のために毎日服を選んでいる」と言わしめるほどの信頼を得たいるのは、彼の仕事に対するポリシーがあってこそだ。

彼が写真を撮るか撮らないかは、あくまでファッション次第。どんなに有名人でも彼のおめがねに敵わないファッションであれば撮られることはない。長い付き合いであるアナ・ウィンターにも決して媚びることなく、ストリートの人たちと同じ対応をする徹底ぶりだ。

さらにニューヨーク・タイムズ紙の「EVENING HOURS」で社交パーティーを取材するビルは、公平性を保つために会場では水一杯も口にしない。それは自分の仕事に嘘をつかないためにも大切なことだ。

そんなポリシーを決して曲げないことが、彼の唯一無二の仕事を作り上げている。ビルの仕事に対する姿勢から学ぶことは大きい。

③ドキュメンタリー制作期間は10年!?

ニコニコと実に楽しそうにファッションスナップを撮っているビルはチャーミングで話しやすそうだと思いきや、実はとても気難しい人。リチャード・プレス監督がビルのドキュメンタリーを撮りたいという交渉になんと8年もかかったそう。そこから2年間の撮影と編集を経て作品が完成したんだ。

撮影がはじまってもなかなか撮らせてくれないビル。どうしたものかと考えた監督は、彼がファッションを撮るときの姿勢を参考にした。ビルは撮影のスケジュールなんて立てない。毎日街に繰り出して、その場限りのファッションショーに挑むがごとく、街ゆく被写体の一瞬を狩にいく。監督は彼を見習って最小限のクルーでビルが行く先々に出没しながら、撮影できるチャンスを1年間探っていった。

ビルの仕事をリスペクトし同じステージにたったからこそ、親しい人も知らなかったビルのプライベートにまで踏み込むことができたんだ。「恋愛はしたことがあるのか?」「あなたにとっての信仰とは何か?」という彼の内側に踏み込んだインタビューは必見だよ。

 

④仕事において大切なことを教えてくれる、ビルの名言

作品で語られるビルの言葉には、心にメモした名言がたくさんある。中でも人生の指針となるような言葉を3つ紹介する。

「最高のファッションショーは常にストリートにある。じっと待ってなどいられない」

「誰でもセンスはある。勇気がないだけなんだ」

「金に触れるな。触れたら最後。自由より価値があるものなんてないよ」

自分の好きに向かって行動する大切さ、自分の神聖な領域を守るための教えが詰まっている。

⑤死後も影響を与え続ける伝説ファッションフォトグラファー

2016年6月25日に脳梗塞により87歳で亡くなったビル。彼は最後まで、ニューヨークの街角で道ゆく人たちのファッションを撮り続けた。そんな彼の功績を讃えられて、ビルがいつもファッションを撮っていたNYマンハッタンの57丁目と5番街が交わる角が「ビル・カニンガム・コーナー」と命名されることに。約6000人が市長に署名を届けたことで実現したんだ。いかに彼が愛されていたかがわかるよね。

そしてビルの死後に発見された彼のファッション哲学が詰まった原稿は、のちに自叙伝『Fashion Climbing』として出版され、カメラマンやファッション関係者のバイブルのひとつとして影響を与え続けている。

ファッションへの愛と哲学が詰まった本作は、人生において大切なことを教えてくれるよ。

画像出典元:スターサンズ