みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは映画『ビート -心を解き放て-』。ビートメイクの才能を秘めた少年と、かつての栄光にしがみつく男の成長物語だ。
『ビート -心を解き放て-』ってどんな映画?
アメリカ・イリノイ州シカゴのサウスサイドで暮らす高校生のオーガスト。彼はある事件から心を病んでしまい学校に行けず引きこもりになってしまう。姉の影響で始めたビートメイクに日々明け暮れていたが、ひょんなことから高校の警備員であり、元敏腕マネージャーのロメロに才能を見出され、オーガストの閉じていた音楽の世界は、外に向けて開かれていくことに。しかし、音楽業界の闇に翻弄されることになり…。
『ビート -心を解き放て-』を観るべき5つの理由
①治安最悪のシカゴのサウスサイドが舞台
主人公のオーガストが暮らすシカゴのサウスサイドは、犯罪発生率が高く18歳までに死んでしまう子どもも多い地域だ。オーガストの姉も、彼のある失態から銃撃の巻き添えになって死んでしまった。そんな人の生き死にが身近な特殊な環境であるシカゴからは、多くのヒップホップスターが生まれている。
カニエ・ウエストやコモンなどのレジェンドから、チーフ・キーフやチャンス・ザ・ラッパーなどの若手までいて、中でもチャンス・ザ・ラッパーはオーガストと制作環境が近い人物だ。オーガストと同じく高校生時代にヒップホップの楽曲制作にハマり、停学をきっかけに引きこもって楽曲を制作。インディーズとして活躍し、なんとグラミー賞まで獲得している。
シカゴという土地は、凄まじい音楽の才能を輩出していった。そんなシカゴでオーガストがどう才能を開花させていったのか。シカゴの特殊な環境でサバイブする若者の葛藤やエネルギーを感じることができる。
②トラウマの克服する音楽の力
この映画では、音楽が人に与える力も描かれている。オーガストは心の傷を負った少年で、ちょっとしたきっかけで発作が起こり、とても外出できる状態ではない。母親もそんな息子を守るために家から出ることを禁止しているため、オーガストは囚人のように家に閉じこもっていた。
音楽を聴くことで救われる人は大勢いるが、オーガストは音楽を作り出すことで救われていく。好きな女性のことを想って作った音楽を届けるために1年半ぶりに外にでたり、パーティに一緒に行くために夜の街にも出かけたりと、音楽が外に出る背中を押してくれたんだ。
オーガストの才能を見出したロメロも、また音楽によって救われる。彼は一緒に組んだアーティストにひどい仕打ちをしてしまった過去を持っており、ある意味オーガストを利用してまた音楽の世界に返り咲こうとしていた。だが、オーガストと交流する中で、このままではいけないと誠実に音楽と向き合うことになる。
この作品ではカタルシスを得られるような成功は描かれない。だけど、音楽によってちゃんと人と交われたり、外の世界と向き合えるようになった二人を通して、音楽の素晴らしさを感じることができるよ。
③ミュージックビデオ出身の監督が描く音楽業界のリアル
この映画の監督は、CMやミュージックビデオの監督として活躍していたクリス・ロビンソン。アリシア・キーズの「フォーリン」やジェイ・Zの「ロック・ボーイズ」などのミュージックビデオを手がけてきた映像作家だ。
長年音楽の世界に携わり、アーティストと一緒に仕事をしてきた監督の作品だからこそ、音楽業界のリアルが描かれている。音楽を作るアーティスト側の苦悩や、一筋縄ではいかないレーベルとの契約の実体などを垣間見ることができるよ。
さらにビートメイカーが主人公な映画なだけあって、音楽ももちろんかっこいい。本作で流れるオリジナル音楽はシカゴ出身の音楽プロデューサー、ヤング・チョップが制作を担当。他にもシカゴを拠点に活躍するアーティストの音楽が劇中に流れるから、気になる音楽があったらチェックしてみて!
④音楽の裏方であるビートメイカーにスポットライト
どんなラッパーも、ビートがないと曲を作ることができない。アーティストやラッパーなど表舞台に立つ人間にスポットライトを当てた映画は数多くあるが、この映画ではいわゆる裏方であるビートメイカーにスポットライトを当てている。
普段聴いているヒップホップのビートがどういうふうに作られているのか。知られざるビートの制作過程や、ビートメイカーの裏側を知ることができるよ。
もともと才能のあるオーガストは、ロメロにダメ出しを受けながら自分の感性を信じてサンプリングをしたり、恋する気持ちに任せて音楽を作ったりと、試行錯誤しながらオリジナルの音楽を追い求める。華やかな音楽の世界は、こういった泥臭い努力の積み重ねによって支えられているのかもしれない。
⑤個性豊かな役者たち
印象に強く残る登場人物たちも、この映画の魅力のひとつ。
主人公のオーガストを演じるのはカリル・エヴァレッジ。当時まだ本格的な映画出演が少なかった新人ながら、心に傷を追ったオーガストの繊細さを丁寧に演じている。
オーガストの才能を発掘したロメロを演じるのは、数々の映画でコメディリリーフとして活躍するアンソニー・アンダーソン。彼は映画『ハッスル&フロウ』でも主人公のラッパーとしての才能を信じる人物・キーを演じている。この映画はキーの後の人生でもあるのかも?と考えてみると、また違ったおもしろさが体験できるよ。
さらに、いけすかない音楽レーベルのプロデューサーを演じるのはポール・ウォルター・ハウザー。映画『ブラッククランズマン』でも最低なレイシストを演じていたが、本作でもクソ野郎の片鱗が見えていて、物語に良いスパイスを与えている。
またシカゴ出身のラッパーでシンガーソングライターのドリージーと、ラッパーのデイヴ・イーストも出演しているよ。
シカゴの音楽シーンとビートメイカーの裏側を知れる本作。気になる人はぜひチェックしてみてね。
画像出典元:Netflix