パーティーを通して人の心を強く揺さぶり続ける人達がいる。
彼らは何故、今の仕事を選んだのか?
このコーナーではパーティーというカルチャーに関わり続ける演出家たちの過去から現在まで続くキャリアを紐解いていきます。
第十二回は、よりハイレベルなDJプレイを志し活動のステージを東京へと移したDJ K9さんのキャリアについてお送りします!今回も「DIG!かばんの中身」でもお馴染み、DJ SHUNSUKEとLeeがインタビューを行ってきました。
SHUNSUKE:
自己紹介をお願いします。
K9:
DJ K9です。静岡県島田市の出身で、年齢は今年30歳です。
DJを志したきっかけ
SHUNSUKE:
DJを志したきっかけを教えてください。
K9:
僕はもともと10代の時にラッパーになりたかったんすよ。ヒップホップを初めて知ったのが中3ぐらいで。
SHUNSUKE:
15年前ってことか。
K9:
2008年ですね。当時AK-69さんの『Ding Ding Dong』がめちゃくちゃ流行ってて、日本語ラップから入りました。AK-69さんに憧れてラッパーになりたくて、地元の友達と3人ぐらいでラップグループをやり始めたんですけど、リリックが全然書けないんですよ。でも、あとの2人はバンバンリリック書いてきて、しかも結構不良のやつらだからドープなリリックを書いてくるんですよ。それを見て「俺ラッパーじゃねえな」と思って笑
同じタイミングでクラブに出入りするようになったんですけど、やっぱりDJの人がめちゃめちゃかっこよく見えたんですよ。当時は地元でまわしてるDJもすげえ尖ってて、すごく輝いて見えたんですよね。「これだ!」と思って、まだ全然機材とか持ってなかったんですけど「もう俺DJになるわ」って決めました。
衝撃を受けた楽曲
SHUNSUKE:
DJを志してからもいろいろ音楽を聴いてきたと思うんですけど、すごく衝撃を受けた曲があれば聞きたいな。
K9:
当時は日本語ラップしか聞いてなかったんですけど、YouTubeでいろいろ曲を漁ってた時に、たまたまThe GameとLil Wayneの『My Life』のPVが流れてきて。ザ・アメリカのゲトーみたいなPVなんすけど、映画っぽくて「なんだこれ!」ってすごく衝撃を受けました。これがアメリカのヒップホップなのかと。英語がわからなかったんで歌詞を調べてみると、リリックに2Pacのことだったり、Biggie、Kanye West、あとCommonとDr. Dreも確か出てたっすね。名前からさらに調べて、USのヒップホップにどっぷり浸かっていきました。
SHUNSUKE:
曲との出会い方がすごく現代的だね。今の子たちはSpotifyとかで出会うのかもしれないけど。そこで出会った曲が『My Life』なのがすごいと思う。
K9:
そのPVでLil Wayneがアディダスのセットアップを着てるんですけど、当時僕も真似して真っ赤なアディダスのセットアップを着てましたね笑
30歳で上京を決めたK9のターニングポイント
SHUNSUKE:
DJとしてのターニングポイントはいくつもあると思うんだけど、やっぱり静岡でそれなりの立ち位置でしっかりお金をもらいながらDJをしてたのに、30歳で東京に出てきたのは大きな決断だったと思う。地方から東京に出ていってうまくいかなかった人たちを過去にも見てきたから、いろいろ心配もあったんだけど、どういうきっかけでそれだけ大きな決断をしたのかを聞きたいな。
K9:
正直なところ、このまま静岡で大きな変化もなくDJを続けていて良いのかな?っていう気持ちをずっと抱えてて。30歳になるタイミングで「絶対後悔するな」と思って決断しました。
僕がDJを始めたのは地元の隣町の本当にちっちゃいクラブでした。クラブのプロジェクターで『アウトサイダー』のDVDが流れてて、そこでオープンDJをやるような環境にいたんです。そこから静岡市のクラブに遊びに行って、「この人たちはしっかりクラブをやってるんだ」って人たちと出会って、階段を上がるように上を見ることができて。でも静岡市でもずっとやらせてもらってる中で、偉そうな言い方しちゃうんすけど、まだ自分自身に可能性を感じてたというか、まだまだ俺いけるなと思ってる部分もあって。今の環境にいても、もう上が見えない。次は東京しかないと思って上京したっすね。
そういう考え方を持てたのも、昔JAY-Zの『ロッカフェラ王朝を築いたヒップホップの帝王』の本を読んだ時に、「常に自分が成長できるような環境や場所に身を置け」みたいな言葉が書いてあったんすよ。その言葉が衝撃的で、ずっと自分の心の中に残ってて。
Lee:
それまで東京でDJをされたことはあったんですか?
K9:
東京の仲の良い先輩がオーガナイズしていたIBEX TOKYOのパーティに出ていました。やっぱり東京のDJは上手いじゃないすか。すげえなと思って。コロナのタイミングで先輩たちが第一線の現場から退いたのもあって、正直もうその感覚は静岡にはなかったんで。
SHUNSUKE:
俺たちはここで引退するっていう先輩たちもいたんだ。
K9:
そうですね。みんな引退しちゃってて、気づいたら自分がある程度上の地位になってて。
Lee:
静岡で築き上げた地位を捨てる怖さはなかったんですか?
K9:
全然なかったっすね。僕は思い立ったらすぐに行動しちゃうタイプなんすよ。今まで自分が築き上げてきたものを捨てる怖さは全くなかったっすね。むしろ東京に行くワクワクの気持ちの方が強くて。
SHUNSUKE:
やっぱりDJで何かを起こそうという人はそういう人が多い気がするけどね。MESMERIZEもまさにそうで、福岡のトップDJの1人だったし、上京する時に何とも思わなかったのか聞いたら「いや、新しい人たちと新しいことやる方がワクワクする、どっちかを選ぶならワクワクする方じゃないですか」って言ってた。
K9:
本当にそうですね。
大切なのは、謙虚な心と周りへの感謝
SHUNSUKE:
もし上京を考えてる人に、何かメッセージみたいなのがあればお願いします。
K9:
自分は本当に環境と人に恵まれてると思います。静岡にいる時に仲良くしていただいてた方たちに、今ブッキングいただいてる部分がすごく大きいんで。人との繋がりを一番大事にしていきたいなと思ってます。
人への感謝を絶対に忘れちゃ駄目だし、ずっと謙虚であることをすごく意識してます。そういう積み重ねなんすかね。僕は周りの方たちに、すごく助けてもらってるなっていう気持ちですね。
Lee:
静岡であっても、東京であっても、そこは変わらず大切に。
K9:
やっぱり静岡の先輩たちから教わったことが今に生きてますね。先輩たちもすごく応援してくれて「お前いけよ!」ってケツを叩いてくれる方はすごく多いっすね。
SHUNSUKE:
いい場所で育ったのかもしれないね。
K9:
そうっすね。先輩方に「K9です!」って突っ込んでいったのが良かったのかもしんないすね。最初はめちゃめちゃ怒られましたけど笑
本当に浜松でも御殿場でも、すごく良くしてくれる先輩方が多いっすね。
SHUNSUKE:
ちゃんとしてることをプレーで見せられたのもあるかもしれないよ。いいプレーをし続けてきたから、かわいがられたり応援されたんじゃないかな。
K9:
本当に周りの方々には感謝しかないっすね。
これからのシーンに望むこと
SHUNSUKE:
最後に今のシーンに願うことや望むことがあれば教えてください。
K9:
めちゃくちゃ難しいっすよね。静岡にいるときに思ってたことと、東京に来て思うことはまるっきり違うので。
SHUNSUKE:
そうなんだ。
K9:
やっぱり静岡にいたときはクラブに有名なラッパーが来ないと、全然人が入らないイベントがめちゃくちゃあって。逆にDJだけで人が入ってるイベントは、たぶん今ひとつもないんですよ。だから静岡にいるときは、DJだけのイベントにもお客さんが来るようになればいいなと思ってたんですけど、逆に東京はDJだけでも入ってるイメージがあるんすよ。
でも東京は外国人の方がすごい多いんで、日本の若い子が外国人をお手本にもっとクラブの良い遊び方を覚えていくと、もっとおもしろいシーンになるんじゃないかなとは思います。そういう遊び方もずっと続くとも限らないじゃないすか。
SHUNSUKE:
そうね。流行が変わるかもしれないし。
K9:
例えば外国のお客さんが来なくなっても、それを見てた子たちが次の若い子たちに遊び方を教えられるようなシーンになったらいいと思うんすけどね。
SHUNSUKE:
やっぱりカルチャーとして残すためには外国人頼みというよりも、日本人がクラブの楽しみ方を覚えないと変わらない。クールな外国人のような遊び方を覚えるにはクールな外国人が多く来る場所に行かないと学べない部分もあるのかなと思う。そういうところで育った子はやっぱりカッコイイ遊び方をするイメージもあるよね。
K9:
それはめっちゃ思うっすね。
SHUNSUKE:
既に日本でもそういう場所は多くないにしろ存在はしていると思うんだけど、それがスタンダードになるように現場にいるDJがみんな少しだけ意識すると数年後には大きく変わるかもしれないよね。K9にはそういう面白さやカッコよさというのを多くの人に伝えて、シーンを引っ張るDJになってもらえたらと思ってます。