【後編】地方には自分よりも上手いDJがいる。MCバトルのツアーDJの経験で得た、DJにとって大切なこととは?

MCバトルでもクラブでもDJをするDJ TIGUだからこそ実現できる、ヒップホップシーンの未来。

ライター:Lee

パーティーを通して人の心を強く揺さぶり続ける人達がいる。
彼らは何故、今の仕事を選んだのか?
このコーナーではパーティーというカルチャーに関わり続ける演出家たちの過去から現在まで続くキャリアを紐解いていきます。

第十一回は、クラブDJのみならず、MCバトルのツアーDJなどでも大活躍中のDJ TIGUさんのキャリアについてお送りします!前編に続き、今回は後編をお送りします。引き続きDJ SHUNSUKEとLeeがインタビューを行ってきました。

DJ TIGUを形づくったターニングポイント

SHUNSUKE:
今のDJ TIGUを形づくるきっかけになったターニングポイントがあれば聞きたいです。

TIGU:
大きいターニングポイントは多分あんまりないですね。自己分析すると、自分は大きいチャンスを手に入れて上にあがっていったというよりも、ひたすら地道にやってきた人だと思います。メインストリームだけじゃない、いろんなタイプの現場でひたすらDJをしてきたんですよね。

昔はCHARIとTATSUKIと一緒にレーベルを立ち上げたりもして、二人は本当にすごいところまでいってるし、すごく刺激をくれる大切な仲間です。俺も頑張ろうと思いつつ、自分は自分でやりたいことがあって、小さいことを積み重ねていくのが自分の性に合ってるんですよね。例えば、自分がオーガナイズしたマンスリーが17年目に突入してるんですけど、16年間毎月やってるんです。池袋のBEDってクラブで始まったイベントで先代のオーガナイザーが最初の1年だけいて、本当に慕ってた先輩DJなんですけど、その先輩から「TIGUが引き継がないと、このイベントはなくなるけどどうする?」って言われて。まだ19歳だったので頑張ってみようかなと、引き継ぎました。

BEDがなくなった後もClub Bar Familyで続けてるんですけど、そこではいろんな出会いがあって有名無名問わずいろんな仲間ができたりと、そういうのを大事にしています。世の中から見ると地味かもしれないけど、自分の支柱になってるイベントなんですよね。なのでHARLEMで毎週土曜日のお話をいただいたときも「第3土曜日だけは10代の頃から続けてるイベントあるんで、第3土曜以外でお願いします」と話をさせていただいて。HARLEMの方もすごく良い方なんで「頑張ってね」と応援してくれて嬉しかったです。

SHUNSUKE:
すごいね。

TIGU:
あとはMCバトルの仕事もいっぱいやってます。UMB(ULTIMATE MC BATTLE)っていうMCバトルコンテンツで47都道府県を周って、20代中盤の2年間のほとんどの週末を地方で過ごすような時期がありました。Abema Mixの立ち上げメンバーでDJやってた時期とドンピシャに重なったので、いろんな人に知ってもらうきっかけができてたんですよね。

自分の中ではそのタイミングで都内でガッツリDJをやれてたら、もっと違う人生を歩んでたかもと思うことも正直あるんですけど、今では良い経験だったと思えます。というのも、47都道府県それぞれの県のチャンピオンを決める企画なので、もちろんラッパーもいい人も集めるんですけど、DJもその地方の威信がかかってるから、土地を代表する人を呼んでくれるんです。ツアーのおかげで、そういう人にリンクすることができました。

47都道府県をめぐった、20代の修行時代

TIGU:
夜はその土地のクラブでDJを聴くんですけど、東海の名古屋から西に行くとめちゃくちゃテクニカルなDJが多いんです。自分もそれなりに頑張って練習して、ある程度の技術を持ってたんですけど、普通のクラブDJでめちゃくちゃ上手い人が超いるやん!となって。もっと練習しないとこの先々やられると焦りました。やっぱり「東京」から来てるから期待値も上がるし、相手もちゃんとプレーをかましてくる。だから地方に行く時は、強い奴に会いに行くみたいな感じだったんですよ。

特に自分はDJ SPINBADの系譜にいると思うので、同じスタイルで上手い人が怖いんですよ。都内のイベントでゲストアーティストに呼ばれるのと、地方でゲストアーティスト呼ばれたときの立ち位置というか、求められてることは全然違います。自分がその土地の一緒に出てる人たちに力の面で及んでないと、それは恥ずかしいことだし、次の仕事に繋がらないんじゃないかっていう危機感もありました。

ツアーのおかげで自分はまだ本当に上手くないないと思って、より高みを目指して練習できるようになったし、そういった危機感を20代中盤で感じられたのは自分の中でターニングポイントというか、なくてはならない時期だったと思います。

SHUNSUKE:
僕らの年代は30歳ぐらいで初めて地方から声がかかったりしてたから、TIGUが話したような感覚はもはやなくて、自分の武器はもうこれだから、これで踊ってもらえなかったらしょうがないっていう感覚に既になっちゃってて。これはよくないなって気づいて今までの自分をぶっ壊さなきゃって思ったのは35歳だっただから、DJを始めて既に15年ぐらい経った頃だった。だから若い頃に外の世界を知ったのも羨ましいな。

TIGU:
東京はDJ人口もめちゃくちゃ多いし仕事もたくさんあるから、気づきにくいところもあると思うんですよね。イベントに出始めると、ある程度自分が動く区画が決まってきちゃうから、その中での優劣になってしまうし。

地方は人数が少ないからかもしれないけど、イベントよりも練習に時間を割いてると思うんですよ。自分は相当練習に時間を注がないと実現できないことをやろうとしてるんですけど、多分それよりももっと多くの時間を割いてる人たちが地方にはいて。そうなると自分の持ち味で負けることがざらにあったし、そういうときは別のところから戦おうともするんですけど、やっぱり本音は自分の持ち味で勝ちたい気持ちがあって。一緒に夜を作るメンバーではあるんですけどね。

SHUNSUKE:
自分の色を出して、今日はみんなで勝ったけど僕がMVPですっていうね。

TIGU:
それなんです笑

LEE:
地道に続けてこれてるのは、なんでなんですか?

TIGU:
好きなことに忠実だからだと思います。出世欲もあるんですけど、それよりDJしたい欲がすごく優ってます。毎週土曜にHARLEMでやらせていただいてるのもとても嬉しいし、みんなも応援してくれるので。

これからのシーンに望むこと

SHUNSUKE:
これからの日本のシーンに願うことや望むことを教えてください。

TIGU:
クラブに限らず、みんなが音楽をもっと楽しめる世界になるといいですね。あと若い子の感性っておもしろいから、若い子と好きな音楽の話をいっぱいしたいな。結局自分は音楽の話をしたいんですよね。

自分の役割としては、MCバトルのことが好きな子にヒップホップをもっと好きになってもらうための導線でいたいです。MCバトルのお仕事もかなり前からやってて、かつクラブでも回してるので、そんな存在になれるかなと思いはじめてます。最近の若い子たちは高校生ラップ選手権とかで1回はMCバトルを通ってるので、HARLEMのトイレで「昔動画で見てました」とか「あのときのバトル前のDJが初めてのクラブのDJ体験でした」とか声をかけてくれます。

MCバトルのツアーDJはヒップホップに繋がる動線になれるはずなんで、DMで「あのバトルのビートなんですか?」っていう問い合わせにも、相当失礼な文面じゃない限り全部丁寧に答えています。好きな音楽を一緒に話せる人を増やしたいから、そういう役割を担っていきたいですね。

SHUNSUKE:
素晴らしいですね。TIGUが積み上げてきたものだから、誰でも簡単にできることじゃないと思う。

TIGU:
中堅層だからか、最近自分がやるべき役割をいろいろ考えるんですね、ちょうど上の世代と下の世代を繋げられる層だと思うので。

今やってる若いDJの良い例に自分がならないとと思うし、その子たちも「TIGUさんが駄目だったら俺らどうなるんだ」って思ってたりもするので。そう考えたときに、自分がやらないといけないことってめっちゃ大きいなと思うんです。自分は男気でガッみたいなタイプじゃないけど、DJはちゃんとやれるはずだから。お酒は弱いけど笑。

なのでちゃんと後輩が夢を見られるような結果をつかむっていうのが、自分のこれからやるべきことだと思いますね。そういう使命みたいなものが自分の中にいくつかあります。

SHUNSUKE:
もう本当に頑張ってほしいし、若い人たちの希望になってほしい。

プロフィール

  • DJ TIGU

    DJ TIGU

    15歳から地元静岡でDJを始め、現在東京を拠点として活動。 豊富な音楽知識を基盤にした、スクラッチやボディートリックを取り入れたテクニカルなスタイル。 何より、この世代で希少な「レコードDJの経験」を原点とするプレーから溢れ出る音楽愛こそが彼のDJの最大の持ち味である。 池袋bedに始まり15年の歴史を持つ渋谷familyの第三土曜”URAWAZA”を中心に、HARLEM土曜の"MONSTER"や、日本最大の90sパーティー”CLASSICS”など、1000人規模の大箱から音楽好きに愛される小箱まで、常に現場に根差した活動を続ける。 来日イベントで共演した海外アーティストの顔触れからは、彼の広い音楽性が伺える。 【DJ Jazzy Jeff, DJ Premier, Ty Dolla $ign, Fat Joe, M.O.P., Pete Rock & C.L. Smooth, De La Soul, IAMSU!, Smif-N-Wessun, Beatnuts, Nice&Smooth, Jeru The Damaja, Lord Finesse, O.C., Das Efx, Madlib, Beat Junkies, Ali Shaheed(A Tribe Called Quest), Dimitri From Paris, DJ Spinbad, DJ Craze, DJ Kast One, Kent Jones, Dave East, Vado, J.R. Writer…etc】 NHK等のTV番組、AbemaMix/WREPなどのWebメディア、UMB/戦極といったMCバトルのブレイクDJ、ライブDJなどナイトクラブ以外にも活動の幅を広げる一方で、半期毎にフリー配信するベストMIXなど製作も展開。 Mixcloud内で毎回ワールドチャートの上位を争う人気作となっている。 2016年よりBCDMG内に新設されたレーベル、"AIR WAVES MUSIC"に所属。

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