WHAT’S UP, GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.184の今回は2000年代名盤特集。取り上げるのはNY・ブルックリンを代表するレジェンドMC、Masta Ace(マスタ・エース)が2004年にリリースした『A Long Hot Summer』。
メロウでソウルフル、そしてどこか温かみを感じるサンプリングベースのビートにマスタ・エースのいぶし銀のフローとブルックリンのストリートの風景を切り取った情緒溢れるリリックが乗った2004年を代表する1枚だ。
そんな『A Long Hot Summer』からまず紹介するのは、ブルックリンに生きるアフリカン・アメリカンの人々が直面する現実歌った「Big City」。
「Big City」
A man got sentenced to a year
1年の刑を言い渡された男
And when he get out, it’s another street career
あいつが出るとき、また新たなストリートキャリアが始まる
It’s a vicious cycle
悪循環さ
For every kid who ball in the park and wish he Michael
公園でバスケをして、マイケルになりたいと願うすべての子供のために
Listen the world don’t like you,
聞きな、世界はお前のことを好きじゃない
but You better keep it moving, you better keep improving
でもお前はそれを動かし続けて、改善し続けるんだ
貧困が原因で犯罪に走ってしまう人が多いブルックリンのアフリカン・アメリカンの人々の社会。逮捕されて刑期を終えて出てきても、再び貧困から犯罪に走ってしまう。
そんな悪循環を止めたいと願うマスタ・エースは、公園でバスケをする、マイケル・ジョーダンに憧れている子供たちに語りかける。世界は楽な場所じゃない。 でも、それでもそれを変えようと一人一人が動き続けることが大事だと。 ニューヨークという“Big City”で懸命に生きる人々へのマスタ・エースの熱いメッセージが込められた名曲だ。
「Good Ol’ Love」
I’m keepin’ it poppin’, the streets watchin’
かまし続ける。ストリートが見てる
I’m keepin’ ‘em locked and the beat knockin’
ロックし続ける。ビートは鳴り続けてる
Hear me comin’ with this song that I brung in
オレがこの歌と共にやってくるのを聞きな
Daddy-O told me this when I was still a young’un
オレがまだ若い頃に、ダディー・Oが教えてくれた
“Ain’t nothin’ like hip hop music “
ヒップホップ・ミュージックみたいなものてのは他にはないんだ
That’s why we choose it and the world just can’t refuse it”
だからオレ達はこれを選んだし、世界はこれを拒否できないんだ。”てことをな
80年代にCraig G(クレイグ・G)、Kool G Rap(クール・G・ラップ)、Big Daddy Kane(ビッグ・ダディ・ケイン)らとJuice crewとしデビューして以来、シーンの中で確固たるプロップスを築き続けてきたマスター・エースだからこその説得力のあるリリック。
“I’m keepin’ it poppin’, the streets watchin’(かまし続ける。ストリートが見てる)”の部分にあるように、ストリートの硬派なヘッズを納得させるドープな音楽を作り続けてきた彼が若い頃に影響を受けたのが、 Mary J. Blige(メアリー・J・ブライジ)、 Queen Latifah(クイーン・ラティファ)などのプロデュースで知られるプロデューサー、Daddy-O (ダディー・O)。ダディーが言った”Ain’t nothin’ like hip hop music That’s why we choose it and the world just can’t refuse it(ヒップホップ・ミュージックみたいなものてのは他にはないんだ。だからオレ達はこれを選んだし、世界はこれを拒否できないんだ。)”はまさにヒップホップカルチャーを象徴する言葉だ。
2000年代名盤特集『A Long Hot Summer』のラストを飾るのは、ソーダとせっけんに関連するワードを使ってエースのシーンにおけるサバイブの仕方を語った「Soda and Soap」!
「Soda and Soap」
I wonder how long I’ll be in this biz
オレはこのビジネスにこの後どれくらいいるのかな
‘Cause it’s not all cheer like you think it is
お前が思っているみたいに、楽しいことだけじゃないんだよ
There’s a whole lot to gain but a lot to lose
得るものはたくさんあるけど、失うものもたくさんあるんだぜ
Just ask any rapper who paid dues
やるべきことやってきたラッパーに聞いてみな
Everybody now and then bound to struggle
みんな苦労してんだぜ
I just grab my wife and we lay and snuggle
オレは妻を抱き寄せ、横になって寄り添う
We talk about the ivory coast how one day
そして“アイボリー・コースト”について話すんだ
We gonna sail on the tide and get whisked away
オレ達は潮に乗って出航し、解き放たれる
Look up at the stars ‘til the crack of dawn
夜明けまで星を見上げて
Hold up I never leave your side for long
ちょっと待てよ、オレはお前の側を長く離れることは絶対ないぜ
But for now I keep on making you bounce
今のところ、お前をバウンスさせ続けてるぜ
And make sure something in my checking accounts
そして預金口座に何があるか確かめな
Grab my cell phone and then start to dial
ケータイを掴んで発信するダイヤル
Take a look at my life and start to smile
オレの人生を見て、スタートするスマイル
It’s funny how the game make you change your tone
面白いよな。このゲームが変える、お前のトーン
‘Cause the joy of my life is the microphone
オレの人生の喜びはマイクロフォン
So I straighten up my act and keep doin’ my thing
だからオレは自分の行動を正して、オレ自身のことをやり続ける
Gettin’ the green, nah mean, getting it clean
グリーンを手に入れるぜ、わかるだろ、クリーンにやるんだよ
「Soda and Soap」の2ヴァース目のリリック。 1ヴァース目で“soda(ソーダ)”に関連するワードを使ってラップしたエースが2ヴァース目で歌うのはラップ・ゲームの中で生き抜くことの大変さ。そもそもみんなが思ってるほど楽しいことばかりじゃないし、苦労も多い。ただ疲れた時に頼りになるのはやっぱり家族。だからエースは奥さんとともにチルタイム。
I just grab my wife and we lay and snuggle
オレは妻を抱き寄せ、横になって寄り添う
We talk about the ivory coast how one day
そして“アイボリー・コースト”について話すんだ
We gonna sail on the tide and get whisked away
オレ達は潮に乗って出航し、解き放たれる
Look up at the stars ‘til the crack of dawn
夜明けまで星を見上げて
Hold up I never leave your side for long
ちょっと待てよ、オレはお前の側を長く離れることは絶対ないぜ
But for now I keep on making you bounce
今のところ、お前をバウンスさせ続けてるぜ
という感じで、奥さんと語りあいリラックスしてる。ただ実はこのヴァースにはエースならではの言葉遊びが隠されている。
まず“snuggle(寄り添う)”はアメリカで人気の柔軟剤の商品名。日本では「ファーファ」として知られているあれだ。続いて“ivory coas(アイボリー・コースト)”という聞きなれない言葉が出てくるけど、これはアフリカの国、コートジボワールの別称。奥さんとコートジボワール旅行について話してるのかな?て感じだけど、実はここにも言葉遊びが。“ivory”はベビー用品や洗濯用洗剤を扱うP&B社が生産しているせっけんのブランド名。
さらに“We gonna sail on the tide and get whisked away(オレ達は潮に乗って出航し、解き放たれる)”で使われてる“tide”は洗濯洗剤、また“whisk”も同音語の“Wisk”という商品名の洗剤があり、“dawn”は台所用洗剤、“bounce”は乾燥機用の柔軟シートだ。 つまりこのヴァースは全てアメリカ人ならわかる有名な洗剤の商品名を使って、書かれているんだ。タイトルである「Soda and Soap」の通り、1ヴァース目では“soda(ソーダ)”に関連した言葉を使い、2ヴァース目では“soap(せっけん)”に関連させたワードを使って、しっかりストーリーテリングができたラップをしてるてわけだ。
そんなハイパースキルフルなラップをかますエースの人生の楽しみはやはり“microphone(マイクロフォン)”。マイク片手に間違いないライムをスピットして、掴み取るのは“green”だ。“green”にはアメリカのお札が緑のインクで印刷されていることから「お金」のスラングとしても使われている。
つまりエースはラップという武器を使って“green(お金)”を“clean(クリーン、正しいやり方)に稼ごうとしてるわけだ。 いやはや、さすがヒップホップ黎明期から活動し続けるマスター・エース。ライミングのスキル、ストーリーテリング、聴き手の感情を揺さぶる抒情的な表現、全て超一級品です。