WHAT’S UP, GUYS!
ヒップホップ好きイングリッシュティーチャー TAROが送る「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.175の今回は2000年代名盤特集。取り上げるのはJay-Z(ジェイ・Z)の「The Blueprint」。
ジェイ・Zのアルバムの中でも特に名盤と言われる「The Blueprint」は当時まだ若手だったJust Blaze(ジャスト・ブレイズ)やKanye West(カニエ・ウェスト)などのプロデューサーを起用したキャッチーかつメロウなサウンドと、ジェイ・Zのテクニカルなライミングが組み合わさったヒップホップヒストリーに残る1枚だ。
そんな「The Blueprint」からまず取り上げるのは、ヒップホップドリームを高らかに歌ったフッドのアンセム、「Izzo (H.O.V.A.)」!
「Izzo (H.O.V.A.)」
I was raised in the projects, roaches and rats
プロジェクトで育った、ローチとラッツ
Smokers out back sellin’ they mama’s sofa
スモーカーなら母親のソファーを売り捌く
Lookouts on the corner focused on the ave
街角の見張りは、アベニューに目を光らす
Ladies in the window focused on the kinfolk
窓際のレイディーたちは家族に想いを巡らす
Me under a lamppost, why I got my hand closed?
オレは街灯の下。なぜ手を閉じてるのかって?
Crack’s in my palm, watching the long arm of the law
手のひらで握りしめたクラック、司法の長い腕をじっと見てる
So you know I seen it all before
オレは全て見てきたんだ
I’ve seen hoop dreams deflate like a true fiend’s weight
バスケで成り上がる、そんな夢は本物のヤク中の体重みたくしぼんでいった
To try and to fail, the two things I hate
挑戦と失敗、オレが嫌いな2つのこと
Succeed and this rap game, the two things that’s great
成功とこのラップゲーム、最高な2つのこと。
カニエ・ウェストをプロデューサーに迎えた大ヒット曲。 ニューヨークで最も危険なプロジェクト(団地)の一つとされる“Marcy Projects(マーシー・プロジェクツ) ”で育ったジェイ・Zは常に “roaches and rats(ローチとラッツ)に囲まれて育った。
“roaches”とは、ゴギブリを意味する“cockroach”の略であると同時に、 「マリファナの吸殻」を意味するスラング。
そして“rats”は「ネズミ」の意味であると同時に、スラングで「裏切り者」を意味する。つまり“ I was raised in the projects, roaches and rats(プロジェクトで育った、ローチとラッツ)”のラインは、「ゴキブリとネズミだらけのプロジェクトで育った」という意味と、「マリファナの吸殻と裏切り者だらけのプロジェクトで育った」というダブル・ミーニングになっているんだ。
そして“Smokers out back sellin’ they mama’s sofa(スモーカーなら母親のソファーの売り捌く)が意味するのは、ドラッグ中毒の人間は薬を買う金のためなら、母親の大事な持ち物ですら売り捌くということ。そして自らもドラッグの売人だったジェイ・Zは“lamppost(街灯の柱)”の下で“crack(クラック)”を手に握りしめて立っている。“the long arm of the law(司法の長い腕)”とは、「警察」のこと。街灯の下で警察の動きに注意しているてことだ。
そんなハードな環境の中で生きてきたジェイが見てきたのは、ゲトーの残酷な現実。“I’ve seen hoop dreams deflate like a true fiend’s weight(バスケで成り上がる、そんな夢は本物のヤク中の体重みたくしぼんでいった)”が意味するのは、バスケットボール選手になりたいと願っても、犯罪や薬物の取引に巻き込まれ、夢を諦めてしまった多くのゲトーの子供たちのこと。そんな世界を見てきたジェイは“To try and to fail(挑戦と失敗)”という言葉が嫌いだ。なぜなら“fail(失敗)”という言葉は彼の辞書にはないから。彼はたとえ失敗したとしても、そこから学び必ずこのラップ・ゲームで “ succeed(成功)”を収めてきた。だからこそ彼は全てのゲトーキッズに夢に与える “Hova(神)” なんだ。
続いて紹介するのは、ジェイ・Zの楽曲を多く手がける名プロデューサー、Just Blaze(ジャスト・ブレイズ)が制作した1曲「Girls, Girls, Girls」!
「Girls, Girls, Girls」
I got this Spanish chica, she don’t like me to roam
スパニッシュのチカ、彼女はオレが出歩くのが嫌いみたい
So she call me cabron, plus maricon
だからオレをカブロンて呼ぶんだ、あとマリコンて
Said she likes to cook rice, so she likes me home
ライスを料理するのが好きだと言って、オレが家にいるのが好きなんだ
I’m like, “Un momento, mami, slow up your tempo”
オレは “ウン・モメント、マミ。ゆっくりのテンポでいこうぜ ”てな感じ
I got this Black chick, she don’t know how to act
ブラック・チック、彼女は振る舞い方を知らない
Always talkin’ out her neck, makin’ her fingers snap
いつも訳わからないことを言って、指を鳴らしてる
She like, “Listen, Jigga Man, I don’t care if you rap
彼女は言う。“聴きな、ジガ。私はあなたがラップしてようがどうでもいい
You better R-E-S-P-E-C-T me”
私をリスペクトしてほしいの”
まず登場するのは、スパニッシュ系の女の子。“chica”はスペイン語に由来するスラングで「女の子」という意味だ。彼女は束縛体質のようで、ジェイに家に居て欲しいみたい。
“ cabron ”は英語の“bastard(クソ野郎)”にあたるスペイン語のスラング。“maricon”は「ホモ野郎」という意味だ。彼女は家で料理したりゆっくり過ごすのが好きなのに、ジェイが自分の思うようならないので、怒ってるて感じだね。 続いて登場するのは、黒人の彼女。彼女がジェイに対してして欲しいことはとてもシンプル。
彼女を“R-E-S-P-E-C-T(リスペクト)”すること。モテ男、ジェイ・Zならではリリックだね。
「ラップで使われてるスラングの意味、ユナーミーン?」 Vol.177のラストを飾るのは、再びカニエ・ウェストのプロデュースによる1曲「Heart of the City (Ain’t No Love)」!
「Heart of the City (Ain’t No Love)」
Youngins ice-grillin’ me, oh, you not feelin’ me?
若い連中がグリルを見せてきやがる、オレだとわかってねぇのかな?
Fine, it cost you nothin’, pay me no mind
まぁいいさ。それでお前が失うものもないし。気にしなくて結構
Look, I’m on my grind, cousin, ain’t got time for frontin’
オレは努力してるんだよ、あんちゃん。見せびらかしてる暇なんてねぇんだよ
Sensitive thugs, y’all all need hugs
繊細なサグ達、お前らにはハグが必要だな。
サザン・ソウルを代表するシンガー、Bobby “Blue” Bland(ボビー・”ブルー”・ブランド)のクラシック・ソング “Ain’t no Love in the Heart of the City” をサンプリングしたこの曲でジェイが歌うのはラッパーとして成功したゆえに受ける嫉妬や妬みに対する彼のメッセージ。
まず“youngins(若い連中)”がジェイにグリルズを見せつけてきても、彼は気にしない。
“Fine, it cost you nothin’, pay me no mind. (まぁいいさ。それでお前が失うものもないし。気にしなくて結構。)” で歌われているように「オレはお前らなんて気にしないぜ」て感じだ。
ただ実はこの文にはもう1つの意味がある。“fine “ は「良い」という意味の他に「罰金」という意味があり、“ cost “ は「代価、(金額・費用)がかかる」、“ pay “ は「(金を)支払う」という意味だ。つまりこのリリックは「お金」関する単語でまとめられており、ジェイ・Z自身が億万長者であることを表していると読み取ることができるんだ。
だから若い連中がディスってきても気にもしないぜてわけだね。 ただジェイが億万長者であり続けられるのは“grind(努力)”し続けてるから。 だからこそちょっとしたグリルズなんかで威張ってる若い連中は眼中にないし、そんな“sensitive thugs(繊細なサグ達)”には、“hugs(優しいハグ)”が必要てわけだ。