@渋谷
フロアに少しづつ人が満ち始めた時間。
夏でも秋でもない半端な風が、同じようにどっちつかずの格好をした客たちと共にクラブの中に流れていった。分厚い壁に囲まれた薄暗い箱の中にも、四季はあるのかもしれない。
歓談と音楽が熱を帯びる現場を抜け出てきたDJのSHUNSUKEは、愛煙するマールボロ·ゴールドに火をつけた。
雑味のないスムースな煙がパッケージの控えめな金色に似つかわしい上品さを感じさせる一服は、出番前の感覚を優しく解きほぐしてくれる頼もしい相方だ。
金マルの煙の動きを追いながら、この瞬間も刻々と変わるフロアの温度のことを考える。
「今日のセットにはあの曲を足してみようか」
そんなことを考えながら、灰皿でタバコの火を消す。
いつも満杯の灰皿は素直に新しい吸い殻を受け入れてくれず、今日も積み重なった先客たちの一服の上にそっと吸い終わった金マルを置いた。