オールドスクールな知恵を生かした新たな手しごと。ヒップホップ好きな茅葺き職人・相良育弥とは

日本の原風景を守る一方で、茅葺きの新たな可能性を模索・発信するキーパーソン

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今回のゲストは、茅葺き(かやぶき)職人の相良育弥(さがらいくや)さん。
日本古来の茅葺き屋根の修繕という生業に加え、茅葺きを用いた什器や施設の内装、インスタレーションを手がけるなど、建築、アート、音楽など様々なシーンから注目を集めています。さらにヒップホップDJとして活動した経歴も持ち、今も1人のヘッズとしてヒップホップを愛聴しているそう!
伝統的な技術と知恵を受け継ぐ一方で新しい見せ方も追求する、そんな職人の仕事ぶりとヒップホップ愛に迫ります。

前回の記事はこちら → いつかDJとしてオリンピックや世界陸上に凱旋したい!オリンピック金メダリスト・野口みずきの終わらない夢

ヒップホップとの出会いは
BUDDHA BRAND「人間発電所」

レペゼン :
今日はお話を聞けることを楽しみにしていました!まずは自己紹介をお願いできますでしょうか?

相良育弥 :
よろしくお願いします。茅葺き職人の相良育弥と申します。 株式会社くさかんむりという名前の茅葺きの会社の代表取締役をしております。

レペゼン :
単刀直入に、茅葺き職人の仕事というのはどういったものなんですか?

相良育弥 :
いわゆる日本昔話に出てくるような伝統的な家屋の屋根の部分-草で葺(ふ)いた屋根-のことを「茅葺き」と言うんですが、その屋根の修繕がメインの仕事です。

レペゼン :
ありがとうございます。また相良さんはヒップホップ好きの一面もあり、しかもDJとして活動されていた時期もあったとか?

相良育弥 :
はい。職業的にDJをしていたわけじゃないんですけど、高校生の時に始めて、神戸、大阪、京都などで活動していました。

レペゼン :
今もヒップホップをよく聴かれるということですが、特に思い出深い曲やアーティストを教えていただけますか?

相良育弥 :
高校1年生の時にBUDDHA BRAND(ブッダブランド)に出会ったのが始まりなので、今でも好きですね。ちょうど彼らがニューヨークから帰国したぐらいの時なんですが、当時、友達が貸してくれた「人間発電所」のCDを聴いてはまったんです。

【 BUDDHA BRAND – 人間発電所 】

レペゼン :
あの鮮烈なデビュー作をリアルタイムで聴いていたんですね。

茅葺きの魅力を伝える
株式会社くさかんむり

photo : junpei iwamoto(DOR)

レペゼン :
株式会社くさかんむりについてもお聞きしたいです。 どういった会社なんでしょうか?

相良育弥 :
伝統的な茅葺き屋根修復の業務と、いわゆるコンテンポラリー(現代的)な茅の使い方を発信するという二軸と言えます。
実は神戸は茅葺きが残っている全国有数のエリアなんです。ただその茅葺き屋根も年々減りつつあるので、いわゆる伝統的な茅葺き屋根以外の「材料としての茅の使い方」っていう展開を十数年ぐらい前から積極的に行っています。

レペゼン :
新しい茅の使い方の取り組みというと、どんなものがあるんですか?

相良育弥 :
例えば、東京駅の南側に農機具メーカーであるYANMAR(ヤンマー)のビルがあるんですけど、そのギャラリーの内装をやらせていただきました。あと表参道の「GYRE(ジャイル)」というギャラリーで展示をやらせてもらったりとか。他にも、内装や什器、アートワークやインスタレーション、それからワークショップと、従来の茅葺き屋根以外の茅の使い方を模索して、チャンスや依頼があればとにかくやってみようと考えています。

レペゼン :
農村の古民家から表参道のギャラリーまで!めちゃくちゃ幅広いですね笑

a.k.a神戸のチベット!?
昔ながらの風景が残る淡河町

レペゼン :
くさかんむりの拠点である神戸の淡河(おうご)町はどんな場所なんですか?

相良育弥 :
六甲山の裏側に神戸市北区っていうエリアがあるんですが、“神戸市”とは名ばかりの田舎なんですよ。神戸市中央区の人には「神戸のチベット」って言われるほどです笑

レペゼン :
「神戸=都会」のイメージがありますが、北区はまた違った景色が広がっているんですね。

相良育弥 :
でも三宮(神戸の中心地街)まで、車で30分ぐらいなので、都会田舎(とかいなか)とも言われることもありますね。田舎も好きやけど街も好きな人にとっては、ちょうどいい場所だと思います。

レペゼン :
良いバランスですね。

相良育弥 :
この淡河町は、神戸市の中でも特に茅葺きが多いエリアなんです。僕もそこで生まれ育った……というか先祖代々住んでる場所でもあるんですよ。なのでこの仕事をしているのは、この土地に生まれ落ちた定めなのかもしれないです。

レペゼン :
そうなんですか。ちなみに茅葺き屋根が淡河町に多く残っているのは、何か原因があるんでしょうか?

相良育弥 :
淡河町の南には山があるので、鉄道を作るときにこの地域を避けるように線路を敷いたんです。だから公共の交通機関から距離ができたんですよね。もちろんかつてはどの地域にも茅葺きはあったんですけど、開発が進むと同時に徐々に減っていき、逆に開発されずに陸の孤島状態になったうちの地域に純粋な農村が残ったという言い方もできます。

レペゼン :
地理的な要素も関係してくるとは!めちゃくちゃ面白いです。

WHAT IS “茅” ?
HOW TO茅葺き ?

photo : junpei iwamoto(DOR)

レペゼン :
茅葺きという仕事には、具体的にどういう工程があるんですか?

相良育弥 :
僕らが扱う材料が茅なんですが、そもそも「茅(かや)」というのは植物の名前ではなく、屋根に使うことができる植物の総称なんですよ。 なので、ススキとか、お米の藁とか、湖に生えてるヨシとかアシとか、いろんな種類があります。

レペゼン :
なるほど!茅という植物があるわけではないんですね。

相良育弥 :
はい。その茅を大量に刈り取ったり仕入れたりします。そして屋根の下の方から順番に茅を並べて、全部を縄で縫い止めていく作業をします。最後は「屋根バサミ」という特注の大きいハサミでカットして綺麗に仕上げます。

レペゼン :
その作業を全て手がけられるわけですね。
現場の規模にもよると思いますが、何名ぐらいで作業されるんですか?

相良育弥 :
基本的に1人じゃどうしようもない作業が多いんです。とにかく茅の量が多いですし、足場の上に材料を上げるのも大変だったりするので。最低2名くらいですね。作業人数が多ければ多いほど楽しくなるというか、お祭りっぽくなってきます。

レペゼン :
巨大な茅葺き屋根になってくると、大勢で臨むんですね。いつか現場を拝見してみたいです。

黙々と作業する時に流す
90年代の日本語ラップ

レペゼン :
改めてヒップホップ好きな一面についてもお聞きしたいと思います。
さすがに茅葺きの現場ではヒップホップを流すことはないですよね?

相良育弥 :
そうですね。現場でヒップホップをガンガン流してると、おじいちゃんおばあちゃん達から怒られるでしょうね笑
でも、工房で作り物をしたりする時はヒップホップをかけることもあります。

レペゼン :
良いですね。どういった曲をかけられるんですか?

相良育弥 :
90年代の日本のヒップホップを聴いて育ったので、その時代のプレイリストみたいな感じでいろいろ聞きますね。 あの熱かった時代の日本語の曲を順番に聴いてる感じです。

レペゼン :
そうなんですね。例えばどういったアーティストがお好きですか?

相良育弥 :
SHAKKAZOMBIEとかキングギドラとかですね。さんぴんキャンプ(*)に参加してたアーティストはいまだに好きで、よく聴きます。

※ … 1996年7月7日に東京・日比谷野外音楽堂で開催された、日本初にして伝説的な大型ヒップホップイベント。提唱者のECDを始め、YOU THE ROCK★、LAMP EYE、ZEEBRA、RHYMESTER、DEV LARGE、SHAKKAZOMBIE、SOUL SCREAMなど、多数のヒップホップアーティストが参加した。

レペゼン :
日本のヒップホップシーン黎明期の曲が流れる工房……。めっちゃかっこいいです。

相良育弥 :
あと仕事柄、移動時間も長いんですが、1人で車を運転している時は、誰かと一緒に聞けない系の曲を聞いています。

レペゼン :
誰かと聴けない系……というと、どんなアーティストですか?

相良育弥 :
例えば、志人とかが好きですね。

【 志人 – 発酵人間 〜回帰〜 】

レペゼン :
たしかに!あの語りかけるようなフロウとシリアスなリリックは、1人で聴きたいかもしれないですね笑

次回は相良さんの学生時代の思い出、そしてヒップホップとの出会いにクローズアップ!レコードを買うために食費を削った結果、栄養失調に!? DJに熱中したエピソードも必見です。

プロフィール

  • 相良育弥(さがらいくや)

    相良育弥(さがらいくや)

    1980年生まれ。株式会社くさかんむり代表取締役。茅葺き職人。兵庫県神戸市北区淡河町を拠点に、空と大地、都市と農村、日本と海外、昔と今、百姓と職人のあいだを草であそびながら、茅葺きを今にフィットさせる活動を展開中。 平成27年度 神戸市文化奨励賞 第10回 地域再生大賞 優秀賞 ジャパンアウトドアリーダーズアワード2020 優秀賞 令和4年度 日本文化藝術財団 創造する伝統賞受賞 Loewe Craft Prize 2024 ファイナリスト