TOKONA-Xのリリックに感じたのは……短歌シーンとの共通点!?歌人・野口あや子の怒涛の大学時代

19歳で歌人デビューを果たし、注目が集まるなか進んだ大学時代の思い出をスローバック

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月のゲストはプロ歌人・野口あや子さん。若手歌人にとっての登竜門と言われる「短歌研究新人賞」を19歳という異例の若さで受賞した野口さん。大学時代に初めて出会ったのは、愛知のレジェンドラッパー・TOKONA-Xの名曲だった!

前回の記事はこちら→  とにかく文字に飢えていた。ヒップホップ好き歌人・野口あや子の波乱に満ちた10代

見た目は派手だが中身は歌人
文系の学部にやってきたギャル

レペゼン :
通信の高校を卒業された後は愛知淑徳(あいちしゅくとく)大学に進まれたそうですが、これはどういった経緯だったんですか?

野口 :
ほんとに学力が0に近かったんですけど、短歌研究新人賞を受賞したことでAO入試で確実に入れるということになって。愛知淑徳大学 には短歌ゼミがあって、島田修三先生という短歌の先生も在籍されていたに入りました。文化創造学部・表現文化専攻という、ざっくり言えば「文学とアートについてやります」というコースですね。当時は「文系の子たちの中にギャルがやってきた」みたいに言われていました笑

レペゼン :
ギャルだったんですか?

野口 :
服装はギャルでしたね。茶髪、つけまつげ、ホットパンツ、肩出しトップス、ニーハイブーツみたいな。

レペゼン :
でも文学に詳しく、歌人としてもバリバリ結果を出しているという。

野口 :
はい。口から出てくるのは『源氏物語』ですからね笑

レペゼン :
かっこいいギャップです笑

新進気鋭の若手歌人の
キャンパスライフ

レペゼン :
大学での勉強や研究はいかがでしたか?

野口 :
そうですね、短歌ゼミからは期待されていたみたいなんですが、小説ゼミに進みました。

レペゼン :
そうでしたか!短歌ゼミに進まなかったのは、何か理由があったんですか?

野口 :
プライベートで短歌をやっているから、せっかくなら他のことを学びたいと思って。でも卒業制作として私(わたくし)小説を書くという、ちょうど短歌と小説の合いの子みたいなことをやりました。

レペゼン :
それはそれで面白そうですね。友達と遊んだりといった、いわゆるキャンパスライフはいかがでしたか?

野口 :
初めての学生生活だったこともあってついて行くのに一杯いっぱいで、体力的にはしんどかったですね。周りとの仲良くなりかたもよく分からないし、友達に異常な幻想を抱いていたし……。辛かったけど楽しかったというのが正直なところです。

レペゼン :
なるほど。ちなみに大学時代は、まだ短歌で仕事をするという段階ではなかったんですか?

野口 :
そうですね。期間限定のカルチャーセンターとか短歌雑誌の仕事はありました。でも短歌雑誌の仕事も、どちらかというと「文化的な活動」という色が強く、主収入にはならなかったですね。でも大学に通いながら東京にも行ったりするようになるので、そういう世界で人に揉まれながら「自分はどういう歌人としてやっていきたいか」を考える時期だったなとは思います。

レペゼン :
経歴を拝見していると、その間も「現代歌人協会賞」を受賞されたりと素晴らしい活躍が続いていたことが分かります。

野口 :
そうでしたね。でもなんか怒涛すぎてあんまり覚えていないんですが笑

レペゼン :
そうなんですか笑

AIに食べさせてもらう日々!?
大学卒業後の予想外な進路

レペゼン :
大学卒業後はどういう道に進まれたんですか?

野口 :
卒業間際に結婚したい相手ができたので、その人と同棲しながらアルバイトしながら生活するみたいな感じでしたね。でもなかなか結婚に踏み切れず、長い間2人でぶらぶらしてたんです。その間はパートナーの収入と自分のアルバイト代でやりくりしていました。

レペゼン :
どういった段階を経て、短歌が本格的に仕事になっていったんですか?

野口 :
30歳くらいにその相手と別れた時に、NHKの『人間ってナンだ?超AI入門』(*)という番組に出演したんですが、その時のテーマが「恋愛する」で。そこで「AIにも短歌が作れたら面白いですね」って言ったら、そこに出ていたシステムエンジニアの方から「じゃあアドバイザーやりません?」って言われたんです。そこからAIを育てる仕事を始めます。

※ … 人工知能技術の最前線に迫り、同時に人間の思考を模倣した機械のありようを考えることで、「人間とは何か」について再考することを目指したエンタメ番組。

レペゼン :
AIを育てる歌人ですか!これまた独自の活動ですね。

野口 :
はい。なので食い繋ぐ生活の軸が、夫からAIに変わったんです笑

レペゼン :
劇的な変化……!笑

野口 :
そのプロジェクトも2年くらいで終わるんですけど、その後も割と良い風が吹いて「ギリギリ生きていけるぞ」という状態になっていきました。

レペゼン :
そこから現在行われている講師や書き物などのお仕事に繋がっていったんですね。

“フィットする言葉”を探しに…
言葉を紡ぐときの独自の感覚

レペゼン :
野口さんは、短歌を詠むうえで大切にしている感覚や言葉選びの基準みたいなものはありますか?

野口 :
そうですね。「言葉を選ぶ」というより「合わない言葉を選ばない」という感覚があります。

レペゼン :
興味深いですね。「合わない言葉を選ばない」というのは、どういうことでしょう?

野口 :
例えると洋服みたいな感覚ですね。肌に合わない服を着ているとチクチクして居心地が悪いように、読んでいて文脈に合わない言葉に会うとなんか違和感を感じるような、「言葉=身体」みたいな感覚があって。

レペゼン :
めちゃくちゃ面白いです!合わない言葉は肌感として「しっくりこない」ってなるんですね。

野口 :
はい。なので「フィットする言葉を探しに行く」という感覚かもしれません。

レペゼン :
すごいです。きっと幼少期からずっと文学、文芸に触れてきたからこその境地なんでしょうね。

「知らざあ言って聞かせやshow」の
パンチラインに受けた衝撃

レペゼン :
怒涛のうちに過ぎ去った大学時代ということですが、その時期はラップは聴いていましたか?

野口 :
『現代詩手帖』で都築響一(*)さんが紹介されていた「知らざあ言って聞かせやshow」を聴いて、どハマりしていましたね。

※ … 日本を代表する編集者、写真家、ジャーナリスト。『POPEYE』『BRUTUS』誌などを経た後、独自の視点で日本社会のリアルを捉えた書籍を多数発表。

【TOKONA-X – 知らざあ言って聞かせやshow】

レペゼン :
おお!愛知のレジェンドことTOKONA-Xさんですね。

野口 :
はい。私も結社の雑誌に引用しちゃうほど影響を受けました。

レペゼン :
TOKONA-Xも、まさか自分の曲が短歌の世界にサンプリングされるとは思わなかったでしょうね笑
めちゃくちゃアグレッシブなことで有名なこちらの曲ですが、当時、特にどの辺が衝撃でしたか?

野口 :
歌っている内容がけっこう短歌シーンに似てるなと思ったんです。

レペゼン :
え。そうなんですか!?どういうリリックにそれを感じましたか?

野口 :

曲書いて歌っとるだけでええやろ

とか

なら銭置いて帰れー言うの?
女用意して帰れー言うの?
こっちゃ死ぬ気でやっとる 知っとる?

というリリックですね。当時の自分のメンタリティとも合って「ほんと言う通りです」ってなって笑

レペゼン :
そうでしたか。短歌シーンについてのお話もぜひ詳しくお聞きしたいところですが、それはまた別の機会ですね笑

次回はいよいよ野口さんへのインタビュー最終回。3月に発売されたばかりの自身初のエッセイ『天才歌人、ラップ沼で溺れ死ぬ』の内容も一部紹介!そしてラップをすることによって野口さんの短歌に現れた変化とは!?

プロフィール

  • 野口 あや子(のぐち あやこ)

    野口 あや子(のぐち あやこ)

    1987年岐阜生まれ、名古屋在住の歌人。名古屋芸術大学非常勤講師。 2006年、「カシスドロップ」にて短歌研究新人賞受賞。2010年、第一歌集『くびすじの欠片』にて現代歌人協会賞を最年少受賞。ほか歌集『夏にふれる』『かなしき玩具譚』『眠れる海』。岐阜新聞にて月一エッセイ「身にあまるものたちへ」連載中。 近年はラッパーとして、サイファーやラップバトルへの参加も積極的に行うほか、2026年3月にはラップに傾倒するきっかけや活動内容、姿勢、さらに書き下ろしの短歌と歌詞を記した著書『天才歌人、ラップ沼で溺れ死ぬ』を発売。短歌とラップを扱う新しい表現の担い手として注目を集めている。