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「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!今回はラッパー、Lil Baby(リル・ベイビー)の幼少期からの軌跡を追ったドキュメンタリー映画『アントラップ ~リル・ベイビーの軌跡~』。
『アントラップ ~リル・ベイビーの軌跡~』とは?
アトランタを代表するラップスター、リル・ベイビーがストリートのドラッグの売人から世界的なアーティストになっていくまでを追ったドキュメンタリー作品。
①史上最高のトラップ・スター、
リル・ベイビー
言わずと知れたトラップシーンのスーパースター、リル・ベイビー。卓越したフロー、ストリートのハードさと悲哀にメッセージ性を両立させたリリシズム、そして圧倒的なカリスマ性で世界中から絶大な支持を得るアーティストだ。『アントラップ ~リル・ベイビーの軌跡~』では彼の幼少期やドラッグの売人時代のエピソード、そしてラッパーとして急成長していく過程、また優しい父親としての姿や地元地域への慈善活動など、ここでしか知ることができないリル・ベイビーの素顔や活動に迫っているんだ。
② 幼少期や青年時代の貴重なエピソード
アトランタ・ウェストエンド地区で育ったリル・ベイビーこと、ドミニク・アルマーニ・ジョーンズ。家は貧しく、彼が子供時代には家賃を払えず、何度も住居を追い出されたことがあったそうだ。そして貧困からドミニクは次第にストリートライフに身を置き、高校を中退、ドラッグディーラーとして稼ぐようになる。このドキュメンタリーでは母親のラショーン・ジョーンズ、そして少年時代からの友人であるヤング・サグや彼のメンター的存在である所属レーベル「クオリティ・コントロール」の代表 ケヴィン” コーチ・K ” リー、ピエール “ P ” トーマスらへのインタビューを通し、アトランタの貧しい家庭に生まれた少年ドミニクが、どうやって世界的ラッパー、リル・ベイビーになっていったのかという道のりを辿っているよ。
③アトランタの人種差別。
覆い隠された不都合な真実とは?
このドキュメンタリーの見どころはリル・ベイビーが育ったアトランタの歴史的背景について専門家からも意見を聞いているところ。作品内で登場するジョージア州立大学の歴史学者、モーリス・ホブソン氏が語る近代アトランタ史は超貴重だ。アトランタは1996年のオリンピック開催地だったのだけど、オリンピックで現地を訪れる観光客やメディアに街を良く見せるため、行政当局は貧困街をターゲットにした浄化作戦を実施。貧困層向けの住宅資金援助が75%削られ、多くの貧しい人々が自分の家を追い出されることに。その政策によるダメージが直撃したのが黒人貧困層であり、またリル・ベイビーが育ったウェストエンド地域だったんだ。ホブソン氏は「アトランタで貧しい家庭に生まれた子供は、多くの場合、一生貧しいままだ」と話しており、そんな状況の中で、アトランタの貧困街から成り上がり、スーパースターになったリル・ベイビーがいかに偉大な存在か改めて認識することができる。
④ 意外な下積み時代も!?売れるまでの苦労
デビュー当初から順風満帆なキャリアを歩んでいるように見えるリル・ベイビーだが、キャリア初期は苦労していた時期も。元々ストリートでドラッグ・ディーラーとして大金を稼いでいた彼はラップには興味がなく、彼のカリスマ性に可能性を見出した「クオリティ・コントロール」の代表たちにスカウトされ、ラップを始めたという経緯があり、当初はラッパーとしてやっていくことにあまり乗り気ではなかったんだ。またSNSやインタビューが極度に嫌いであり、キャリア初期の記録映像からはレーベル側が彼のマインドを変えるのにかなり苦労している様子が伺える。曲も全く聞かれず、ライブの観客も少人数だった時代もあったのだが、次第にリル・ベイビー自身もラップに本気になり、やがて大ヒットソング「MY DAWG」のリリースにつながっていく。今では世界的なスーパースターになったリル・ベイビーにもやはりしっかりとした下積み時代があったんだ。
⑤ ヒップホップとは?
2020年6月、リル・ベイビーは「The Bigger Picture」という曲をリリースする。同年5月に警察官の暴行によってアフリカン・アメリカンの男性、ジョージ・フロイド氏が死亡した痛ましい事件を受けて作られた曲だ。この曲の中でリル・ベイビーは、
You can’t fight fire with fire
I know, but at least we can turn up the flames some
Every colored person ain’t dumb and all whites not racist
I be judging by the mind and heart, I ain’t really into faces火で火には勝てないさ
わかってる、でも少なくとも、炎をあげることはできるだろ
全ての有色人種はバカじゃないし、全ての白人は差別主義者じゃない
オレは思考と心で判断しているし、顔にはマジで興味がないんだ
と歌っている。「ブラック・ライヴズ・マター」運動が起こり、アメリカ全土でデモや暴動が毎日のように起きていた時期にリル・ベイビーは警察の暴力やアメリカ社会での人種差別に怒りを示しながらも、肌の色でいがみあうのではなく、常に“ mind and heart (思考と心)”で相手を理解することの大切さを発信したんだ。つい一方の立場に寄ってしまいそうになる混乱の期間にこういったメッセージをすぐに発信できるのは、その勇気や覚悟も含めてなかなかできるものじゃないよね。
この曲は第63回グラミー賞で最優秀ラップ・パフォーマンス賞と最優秀ラップ・ソング賞の2部門にノミネートされるなど高い評価を受け、彼の音楽キャリアにおける大きなターニングポイントにもなった一曲なんだ。このドキュメンタリーでは彼のグラミー賞でのパフォーマンスの裏側なども収録されているよ。
ヒップホップはブラック・ミュージックであり、その根底にはアメリカの人種差別、そして貧困問題がある。リル・ベイビーはラッパーとして成功して以降、地域への貢献活動も積極的に行っており、その姿は地域の子供達の模範として大きな希望を与えているんだ。リル・ベイビーという人間の偉大さはもちろん、ヒップホップという文化、そしてラップミュージックというものの背景や存在意義を考えさせるドキュメンタリー『アントラップ ~リル・ベイビーの軌跡~』。ぜひこの機会にチェックしてみて欲しい。
画像出展元: Amazon Studios
配信先:Amazon Prime
