超有名ギタリストたちが足繁く通うギターショップの1週間に密着した『カーマイン・ストリート・ギター』とは?

The Roots のメンバーも信頼を寄せるNYのギター職人とは?

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのは映画『カーマイン・ストリート・ギター』。ニューヨークで30年以上ギターを手作りしているギター職人の1週間に密着したドキュメンタリーだ。

『カーマイン・ストリート・ギター』ってどんな映画?

 

ニューヨークのグリニッジビレッジ地区に店を構えるギターショップ「カーマイン・ストリート・ギター」。ギター職人のリック・ケリーは、ニューヨークの伝説のホテルや最古のパブなどの古材から、素晴らしい音色を奏でるギターを作り出している。リックの店には毎日のようにギタリストたちが立ち寄り、音楽から人生の話までをギターを介して交わしてゆく。そんなリックをめぐる人々を映し出した1週間のドキュメンタリー映画だ。

『カーマイン・ストリート・ギター』を観るべき5つの理由

①真摯なものづくりとの向き合い

ルー・リード、ボブ・ディラン、パティ・スミスらなど、超大御所ギタリストも愛用していたリックのギター。いまでも多くの人が求め、予約は2年半先まで埋まっている。それほど彼のギターが愛されるのは、量産品ギターにはない、“音楽愛”と“ものづくりの哲学”が詰まっているからだ。

リックのギターの特徴は、ボディの素材に1800年代のニューヨークのホテルやパブなどの建築の廃材を使っていること。建物の柱や床だった木材は長い時間とともに完全に乾燥し、ギターの音色を響かせるのに最高な素材になる。「黄金のように貴重」だという木材を、1本1本丁寧にギターへと生まれ変わらせている。

木材についた酒の染みた跡や傷跡も、ギターのボディにありのまま残すのもリック流。「顔に刻まれたシワがその人の人生を語る」と語るように、彼のギターにはニューヨークの歴史が刻まれている、世界でひとつだけのギターなんだ。

大量生産・大量消費の時代に、自分のものづくり哲学に則って、時代に流されずギターを作り続けるリックから、創作に対する向き合い方を学ぶことができるよ。

②さまざまなアーティストたちの拠り所

どこか時代から取り残された佇まいのリックの店だが、それゆえに彼のお店は愛されている。彼と彼のギターを求めて、店には毎日さまざまなギタリストが訪れる。

例えば、ヒップホップグループ「ザ・ルーツ」のギタリストであるキャプテン・カークも常連客のひとり。ギターの制作秘話を聞いたり、有名ギタリストとの思い出を語ったりと、ギタリストたちはお店でリックや弟子のシンディと言葉を交わしては、ギターを演奏する。表舞台とは違う演奏姿を見れるだけでも、とても貴重な映像だ。

リックは誰に対しても態度を変えずにフラットに接しており、いつ行っても変わらない店とリックを、ギタリストたちは愛しているんだとひしひしと伝わってくる。ずっと変わらずあり続けることの偉大さを知ることができるよ。

③ポップカルチャーを愛するロン・マンが監督

本作の監督を務めたのは、ポップカルチャーに精通したロン・マン監督だ。アメリカ政府による60年のマリファナ撲滅戦争を公平な目で描いた『グラス―マリファナvsアメリカの60年』や、型破りなアメリカ・インディペンデント映画の父、ロバート・アルトマンに迫った『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』などのドキュメンタリーを数多く制作している。

彼が『カーマイン・ストリート・ギター』を撮ろうとしたのは、映画監督であり音楽ユニット「スクワール」のフロントマンである、ジム・ジャームッシュの紹介がきっかけだった。実はリックがニューヨークの建物の古材を使い始めたのは、ジムが彼に自分の住んでいるアパートの木材でギター制作を依頼したのがはじまりだった。ジムがふたりを繋げることで、この映画は生まれたんだ。

ロン・マンは「独特な空気が漂うユニークな店と、リックの禅のような哲学に魅了された」と語っている。本編も特別なドラマチックな出来事があるわけではないが、リックと店にやってくるギタリストたちの会話から、音楽に対する愛や人生哲学を受け取ることができる。観る人もそのお店にいるような感覚に陥るほど、リックの人柄と店の空気感を捉えているのは、ドキュメンタリーの名手ならでは。全編を通して、リックと音楽に対するリスペクトが溢れいているよ。

 

④技術とスピリットを受け継ぐ、ギター職人の師弟関係

リックとたった一人の弟子であるシンディとの関係も映画の見どころのひとつだ。この映画が公開されたのは2018年だが、リックは携帯も持っていなければ、ネットもやらない完全なアナログ人間だった。そんなリックをサポートするかのように、弟子のシンディはリックが制作したギターをインスタにあげたりと、もちつもたれつの関係。

弟子のシンディは技術と経験もないなか、リックのものづくりの姿勢に感銘を受けて、20歳でリックの店の門を叩いた。25歳のシンディは見た目こそ派手なものの、「古臭い工房みたいな店だけど、こんな作り方しかしたくない」と語り、制作にどっぷりつかれる環境のなかで幸せそうに働いている。

リックも「忘れ去られた技術を伝えられるのが嬉しい」と、自分の後継ぎとしてシンディを可愛がっている。年も離れているし、タイプも性格もまるっきり違うふたりだが、ものづくりの魂を共有している師弟関係に、胸が熱くなる場面がたくさんあるよ。

⑤会話から溢れる人生哲学

ポツポツと交わされるギタリストたちとリックの会話からは、音楽愛と人生哲学がにじみ出ている。その中でも特にリックの真髄が現れた言葉を紹介しよう。「ギター作りをいつまでやり続けるの?」と聞かれたときの答えだ。

「これからもずっとだよ。貯金もないしね。生業として続けるが、単なる仕事じゃない。人生そのものだ。ただ好きなんだ。やり足りなくて家でも作ってる。考えるとすてきじゃないか。建築を支えた古材をギターに変えて、新たな命を吹き込むなんて」

30年以上もギターを作り続けているリックだからこその重みを持った言葉だよね。繰り返し観るほどに味わい深くなる『カーマイン・ストリート・ギター』。ものづくりや音楽に携わる人は必見!

画像出典元:ビターズ・エンド

配信先:U-NEXT

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