@新大久保
店々のネオンが灯り、街が火照り始める頃、仕込みを終えたTakayukiは厨房で一人マルボロを楽しんでいた。店の前を行き交う賑やかな笑い声は、すでにいくらかアルコールの瀞みを含んでいて、路地の空気を艶やかに湿らせている。
次第に熱気を高めていく人々の往来を眺めながら、仕込み後の疲れをマルボロの甘酸っぱい煙でぼかすのがTakayukiのルーティーンだ。
往来の中からすでに出来上がった風の一組のカップルが足を止めて、品定めする様子で店頭の看板を読み始めた。女の方はやや赤らんだ顔で、少し早口で男に話しかけている。
「今日は少し忙しくなるかもな」
赤マルの火を無造作に消したTakayukiは、今夜の初客を迎えに店先に向かった。