みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは映画『WALKING MAN』。野村周平を主演に迎え、ラッパーも大勢出演しているANARCHYの初監督作品だ。
『WALKING MAN』ってどんな映画?
舞台は川崎の工業地帯。主人公アトムは極貧の母子家庭で育ち、吃音症(どもり)で人前でろくに喋られず妹のウランからもバカにされる始末。不用品回収のアルバイトで家計を助けるも、母親が事故で意識不明となり一気にどん底に突き落とされる。
貧困もなにもかも「自己責任」という、周りからの言葉に押しつぶされそうになるアトムだったが、ひょんなことからラップと出会い初めて夢を追いかけることに。MCバトルイベントを観に行ったアトムはそこでステージ上にあがることになったが…。
『WALKING MAN』を観るべき5つの理由
①ANARCHYの初監督作品
荒れた少年時代を過ごした後に、ラッパーとしてデビュー、シーンに登場するや異例のスピードでスターダムを駆け上がった、ANARCHY。絵を描いたりアパレルブランドとコラボしたりと、多方面で才能を開花させている彼が新たに取り組んだのが、長年、夢のひとつだった映画制作だった。
25歳の頃に「35歳になったら映画を作る」と決めていたANARCHYは、35歳になった2016年から映画作りのための行動を開始。漫画家の高橋ツトムに声をかけ、脚本の梶原阿貴と出会い、3年間の準備の経て2019年に映画が公開された。
ラッパーが作る映画といえば、自伝的映画を想像するが『WALKING MAN』はそうではない。ANARCHY自身の体験も盛り込まれているけど、自伝映画にしなかったのは誰にでも当てはまるものにしたかったから。
ラッパーとして、自分のメッセージを伝えることができるようになったANARCHYは「言いたいことが言えない」人に向けての映画を作ったという。ただのラッパー映画ではなく、ひとりの少年の成長物語として、観るものの心を打つ映画に仕上がっているよ。
②コンプレックスが武器になる、ラッパーのリアル
映画を通してANARCHYが伝えたかったのはコンプレックスが武器になり得るということ。
ラップはコンプレックスを武器にする表現方法のひとつ。過酷な家庭環境で育った人、人種差別と戦っている人、平凡な人生にコンプレックスを感じている人などなど、あらゆるマイナス要素をプラスに変えられるのが、ラップの持つすごい力。
主人公のアトムは貧困と吃音症というコンプレックスを抱えていた。言いたいことがあるのにうまく伝えられずに、言葉だけが頭の中に溜まっていく。そんな彼がラップという表現を得た時に放たれる数々の言葉は、重みをともなって人々に届けられる。
実はアトムと同じく吃音症を抱えるラッパーがいる。第13回高校生RAP選手権に出場して、NHKの『バリバラ』にも出演経験をもつ達磨だ。吃音症にはどもらずに言いやすい言葉があり、言葉の言い換えを積み重ねるうちに語彙が増えていき、それがラップに有利に働いているそう。
コンプレックスは見方を変えれば武器になる。そんなことを教えてくれる映画だ。
③映画の楽曲もANARCHYが制作
映画の要となる楽曲『なめんな』や『Promise』、さらに主題歌の『WALKING MAN』はANARCHYが制作。ラッパーとしての本領を発揮している。特に『Promise』は映画のアトム自身の物語が集約されていて、ラストを飾るにふさわしい楽曲になっている。
切ないバラード調に、自らの境遇をリリックとしてのせ、カタルシスをともなって心に響いてくるよ。『Promise』はAwichを客演に迎えて、ANARCHYによってリメイクもされているから聴いてみてね。
④人の縁がつながり作られた映画
2016年に映画作りのために動き出すも、実現までに3年ほどかかった『WALKING MAN』。はじめの1年間は漫画家の高橋ツトムと脚本の梶原阿貴と3人で構想を構想を練っていたとのこと。なかなか実現せずに頓挫するかと思いきや、フォトグラファーで映画監督の蜷川実花にavexのプロデューサーを紹介してもらうことに。いろんな人との縁が繋がり、制作に至った映画だ。
キャストでは、主演にANRCHYとかねてから親交があった野村周平を迎え、星田英利(元ほっしゃん。)や石橋蓮司などの個性派俳優が脇を固める。
映画のクランクインの挨拶では「この中で一番映画を知らない人間だから、みんなの力を借りて良い映画を作りたい」と、監督として挨拶したANRCHY。映画作りという全く違うフィールドながらも、そのカリスマ性で周りの人たちを巻き込んで映画を作っていったんだ。
⑤豪華ラッパーたちも共演
この映画には、たくさんのラッパーたちも出演している。アトムがラップをするきっかけを作ったラッパーを演じたのはユーモラスな楽曲が話題の十影。アトムのライバルを演じるのは第10回高校生ラップ選手権の優勝者でMCバトルで活躍しているラッパー、じょう。アトムの背中を押すのは、自身も川崎出身のT-Pablow。特にT-Pablowは、わずかな出演シーンの中で圧倒的な存在感を放っているよ。
他にもWILYWNKA、Leon Fanourakis、LETY、サイプレス上野、hMzといったラッパーたちが出演するから要チェック!
ただのラップ映画にとどまらない『WALKING MAN』、ぜひ観てみてね!
画像出典元:エイベックス・ピクチャーズ
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