みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きならマストチェックの映画や本を、作中に登場するパンチラインを通して紹介していくよ!
今回取り上げるのは、鬼才ポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』。
地球が凍りすべてが滅んだ世界で、唯一の生存者たちが暮らす列車が舞台。その列車の最後尾には貧困層が閉じ込められていて、主人公であるカーティスがそこから抜け出し革命を起こすために戦っていく物語だ。
アカデミー賞で作品賞をはじめ6冠をかっさらった『パラサイト』とおなじく、貧困格差を徹底的に描いている。
今回は『スノーピアサー』から、君のマインドをインスパイアする“パンチライン”を見ていくよ!
『スノーピアサー』ってどんな映画?
人類の過ちによって氷河期を迎え、生物が絶滅したディストピア世界。この世界で唯一生存している人間たちは、永遠に走り続ける列車の中で生活している。
列車の中は格差社会そのもの。前方車両には富裕層、後方車両には貧困層が暮らしている。最後尾の人たちはひとつの車両にぎゅうぎゅうに詰め込まれ、刑務所よりもひどい最底辺の暮らしを強いられている。食事も謎のプロテインバーが支給されるだけ。自由もクソもない。こんな現状を打破しようと立ち上がったのが、主人公であるカーティスだった。
この歪な世界をつくりあげた列車の創設者であるウィルフォードは先頭車両にいる。列車の生命線であるエンジンも。決められた階級を覆すために、カーティスたちは先頭車両を目指して戦っていく。
『スノーピアサー』のパンチライン
世界の縮図のような列車の中の格差社会で、虐げられ、多くを失った人たちの言葉は真に迫ってくる。
その中でも特にしびれたパンチラインを3つ紹介していくよ!
①「吸わせてほしいか? この味はアホには分かるまいがな」
列車の先頭まで行くためには、車両ごとにある扉を突破しなければいけない。その強い味方になるのが、『パラサイト』での怪演が記憶に新しいソン・ガンホ演じるナムだ。列車のセキュリティを担当していたという凄腕のエンジニアだけど、クロノールという薬物依存症で投獄されている。ナムを仲間にするために、最後尾を抜け出したカーティスたちは監獄エリアまでやってきた。
眠っているナムを起こすが、薬がキマっているせいか何の反応もない。「扉をひとつあけるごとに、クロノールをひとつやる」とカーティスが交渉すると、ナムは10年前にすでに地球上から消えていたはずのたばこを、おもむろに靴下から取り出した。そしてたっぷり間を置き、うまそうに煙をくゆらせながら言ったパンチラインがこちら。
너도 한 빨아보고 싶냐?
하긴 너같은 개싸가지가 담배맛을 알겠냐봐?
吸わせてほしいか? この味はアホには分かるまいがな
いきなり眠りから起こしておきながら、クロノールを餌にして舐めんじゃねえよって感じだ。あまりにもナムがうまそうにたばこを吸うもんだから、最後尾の人たちはナムが吐き出す副流煙を吸い込もうと必死。言動ひとつで一気に主導権をにぎるナムがかっこよすぎる。そして隣で眠っていた娘のヨナを起こし、交渉成立とばかりに「扉ひとつごとにクロノールふたつだ」と、カーティスに付け加える。抜け目がないね!
あとね、たばこを吸ってるナムのたたずまいがとにかく色気があってかっこいいんよ。『パラサイト〜半地下の家族』でのダメなお父さんというソン・ガンホのイメージがガラリと変わるから、このシーンだけでもぜひ見てほしい!
②「女を抱きしめるためには両腕のほうがずっといい」
最後尾の人たちの中には片腕だけの人が何人かいる。上層部に反抗して腕をつぶされた人、ひもじい人に食べさせるために自分の腕を与えた人など、片腕であることはひとつの勲章になっていた。最後尾の村長的存在である老人のギリアムもそのひとり。
列車の要となる給水セクションまでやってきたカーティスたちだが、手前での乱闘であまりにも多くの犠牲を出してしまった。カーティスをずっと慕っていたエドガーをも失ってしまう。落ち込むカーティスに対して、ギリアムはそろそろリーダーとしての自覚を持つように諭す。でもカーティスは「俺には両腕があるのに?」と、リーダーになる資格はないと反論。
そんなカーティスに対して、片腕のギリアムが伝えたパンチラインがこちら。
Better to have both arms…
You can’t do a lot with one, you know?
Especially when you hold a woman.
両腕あるほうがいい
片腕ではなにかと不便だ
特に女を抱きしめるためには両腕のほうがずっといい
片腕を失っているギリアムだからこその、重みのある言葉。戦うためにも両腕は必要だし、仲間を守るためにも両腕はあった方がいい。傷は男の勲章とよく言うけど、健康体で生きていければそれに越したことはない。
それにもうその両腕には、最後尾の人たちみんなの想いが乗っかってるんよ。。。
かつてのリーダーから今のリーダーへのエールに、静かに闘志を燃やしていくカーティス。ここまでやってきたからには、後ろを振り返らずに前へ前へと進むしかないのだ。
③「一番いい場所にいる者の戯言(たわごと)だ」
ついに先頭までやってきたカーティスは、列車をつくったこの世界の頂点に君臨するウィルフォードと対峙する。ボロボロのカーティスに対し、優雅にステーキを焼くウィルフォードは、よくたどりついたなと余裕の賞賛。そして世間話をするかのようにカーティスに説く。列車内の秩序を保つためには階級が必要であり、みんな決められた持ち場にいる、ごねるのは君だけだと。
そんな舐めた態度のウィルフォードにカーティスが言ったパンチラインがこちら。
That’s what people in the best place say to the people in the worst place.
一番いい場所にいる者の戯言(たわごと)だ。
マジでそれな!!最後尾での地獄のような生活を知らないくせに、知ったような口をきくウィルフォードに胸糞。でも、高みの見物を決め込んでいる人には、何を言っても届かない。
自由というのは、選択肢が多いことだと思う。なんの選択肢も持てずに最後尾にいるのか、選択肢を与えられたうえで最後尾にいるのかでは大違いだ。自分の未来を自分で選びとるために、カーティスは先頭まできたんだ。
ここから物語は急展開を迎え、怒涛のラストへ。カーティスが掴み取った未来はなんだったのか、ぜひ見届けてほしい。
画像出典元:ビターズ・エンド
配信先:Amazon