みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。
今回取り上げるのは映画『NOPE/ノープ』。ホラー映画の鬼才ジョーダン・ピール監督によるホラー超大作だ。
『NOPE/ノープ』ってどんな映画?
飛行機の部品落下の事故により父親を亡くし、牧場を引き継いだ兄妹。しかし兄のOJは事故の際に謎の飛行物体を目撃していた。経営の危機に瀕していた牧場を立ち直らせるために、兄弟は謎の飛行物体UFOを撮影して一攫千金を狙うが、数々の恐ろしい怪奇現象が彼らを襲うことに…。
『NOPE/ノープ』を観るべき5つの理由
①人種問題に切り込むジョーダン・ピール監督の最新作
デビュー作の「ゲット・アウト」がアカデミー賞脚本賞を受賞、2作目の「アス」で映画監督の地位を確固たるものとしたジョーダン・ピール監督。そんな彼が大きな期待を受けながら発表したのが『NOPE/ノープ』だ。
ピール監督は黒人の父親と白人の母親のもとに生まれ、両親が離婚後に母親に育てられたため、黒人らしい生活様式に触れることがなかった。そのため、白人社会と黒人社会のどちらにも馴染むことができず、苦しんできた彼は「人種を抜きにして映画をつくることは不可能」と語っており、監督作品ではアフリカ系の俳優が主人公を演じ、人種問題をテーマに扱っている。
『NOPE/ノープ』は映画業界の人種問題に切り込みながらも、UFOを新たな視点から描いた意欲作になっている。
②映画史における黒人の復活
ハリウッドでは長らく黒人の存在が無視されてきた。それに疑問を投げかけるのがジョーダン・ピール監督だ。彼は監督をした作品以外でも、プロデューサーとして積極的に黒人俳優にチャンスを与えてきた。それは特別なことではなく、ただ普通に存在していた黒人たちに光をあてただけのこと。
『NOPE/ノープ』でも実在したひとりの黒人に光をあてている。それは世界初と言われている映画『動く馬』で、馬に乗った黒人騎士。『動く馬』を撮ったエドワード・マイブリッジは世界初の映画を撮った人物として歴史に名が刻まれているが、黒人騎士の名は知られていない。その事実を知ったピール監督が、その黒人のレガシーを取り戻そうとした思いが、映画全体に根付いている。主人公の兄妹は、ハリウッドで唯一黒人が経営する牧場を営んでおり、黒人騎士の子孫という設定だ。影からハリウッド映画を支えてきた一族の末裔である彼らが、UFOを写真に収めることで世界に歴史に名を刻もうと奮闘する。
映画誕生の起源から黒人がいたことを、映画を観た人が知れるだけでも、映画史における黒人の存在が認められることに貢献しているんだ。
③「見る」者に襲いかかる恐怖
SNSの発達によって、おもしろいものや刺激的なものをみんなが過剰に求め、バズる映像を撮るために迷惑行為を行う人も多い。事故が起きれば周りに人だかりができて、我先にと写真を撮ろうとする人で溢れる。二次被害が出るかもしれないのにだ。
『NOPE/ノープ』では、SNSでのバズのためにに行き過ぎた行動をしてしまう人たちへの警鐘を鳴らしている。UFOを撮ろうとする人たちはことごとくひどい目に遭ってしまうのだけど、それはピール監督が普段意識しているスマホ依存症たちへの痛烈なメタファーだ。
だからUFOを「見る」と襲われてしまう。そんなUFOにどう兄弟が立ち向かっていったのかは、ぜひ映画で確かめてほしい。
④見世物にされてきた者の反逆
UFOの存在に気づいた人たちは、UFOを撮って一攫千金を狙ったり、UFOを見世物にしたショーを企てたりと、自分の都合のいいように利用しようとして、ひどい目に遭ってしまう。そのUFOのメタファーとして登場するのが同じく見世物になっていたチンパンジーだ。
1998年のテレビ番組に出演していたチンパンジーが、ブチギレて出演者を襲った大惨事が描かれている。シットコムコメディで家族の一員だったチンパンジーは見世物としておもしろおかしく扱われ、ついにストレスが限界を超えてしまったために起こった痛ましい事件だった。
これらは人間がUFOや動物を「手なづけよう」としたために起こってしまった。人間の傲慢さと他の生き物に対しての敬意を欠いてしまったことが原因だ。なんでもコントロールしようとしてしまう、できると勘違いしてしまう人間の顛末が警告とともに描かれている。
⑤しっかりとキャラ立ちした役者たち
役者ひとりひとりの演技も際立っていた。主人公のダニエル・カルーヤは『ゲット・アウト』でもジョーダン・ピール監督とタッグを組んでいた俳優だ。ピール監督も一番好きな俳優だと公言している。パワフルな妹とは対照的に感情を抑えながらも、冷静に状況を判断する兄を演じていた。
元気いっぱいで魅力的な妹を演じたキキ・パーマーは、今後の映画業界でも欠かせない人物になるだろうし、テーマパークのオーナーを演じたスティーヴン・ユァンは過去のトラウマが原因で静かに狂気じみた役柄が印象的だった。
実は日本のアニメが好きなピール監督。不気味なUFOはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の使徒がモチーフだったり、映画『AKIRA』の有名なシーンがオマージュになっているシーンが出てきたりと、監督が影響を受けた作品が散りばめられている。いままでのUFO映画とは一味ちがったスペクタクル超大作を、ぜひ見てみてね!
画像出典元:ユニバーサル・ピクチャーズ
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