パンチラインで見る映画『ムーンライト』|ストリートヘッズのバイブル Vol.22

過酷な環境にいるゲイの少年が、自分を獲得していくまでの人生を描いた物語。

ライター:Lee

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きならマストチェックの映画を、作中に登場するパンチラインを通して紹介していくよ!

今回取り上げるのは、意欲的な作品を次々と送り出している新進気鋭の映画制作スタジオA24の『ムーンライト』。
麻薬中毒の母親を持ち、内気なため周りと馴染めずにいる主人公のシャロンが、心を通わす人たちとの交流を通して自分を見つけていく物語だ。幼少期/青年期/成人以降のシャロンの物語が3つのシークエンスで描かれている。

今回は『ムーンライト』から、君のマインドをインスパイアする“パンチライン”を見ていくよ!

『ムーンライト』ってどんな映画?

主人公のシャロンは内気で口下手な少年。まだ自分の性的指向への認識が曖昧な中、周りからは「オカマ」だといじめられていた。そんなシャロンにとって、心穏やかに過ごせる相手は麻薬ディーラーのフアンと恋人のテレサ、そして友達のケヴィンだけだった。

自分は一体どんな人間なのか。麻薬中毒の母親との暮らし、クライスメイトからの嫌がらせ、性に対するとまどいなど、過酷な環境の中にいるシャロンが他者をとおして自分を見つけていく過程を丁寧に描き出した映画だ。

『ムーンライト』のパンチライン

学校にも家にも居場所がないシャロンにいつも寄り添ってくれるフアンやケヴィンは、彼にとってかけがえのない存在だ。いつもシャロンと同じ目線にたち、言葉を投げかけてくれる。

そんなふたりのパンチラインを、シャロンの幼少期/青年期/成人以降にわけて3つ紹介していくよ!

①「自分の道は自分で決めろ」

学校帰りにクライスメイトに追いかけられ、廃墟に逃げ込んだ幼いシャロンは偶然フアンと出会う。麻薬がはびこる危険地帯にいたシャロンを家で保護したことをきっかけに、ふたりの交流がはじまっていく。

シャロンの母親は麻薬中毒のシングルマザー。我が子への愛情の与え方がわからず、シャロンに対してつらくあたることもしばしば。家に帰りたくないシャロンをいつもこころよく迎えてくれたフアンと恋人のテレサは、彼を自分たちの子供のように可愛がっていた。

ある日、シャロンはフアンに海に連れ出される。はじめての海にとまどいながらもフアンに泳ぎ方を教わり、ぐんぐん泳げるようになっていったシャロン。
ビーチでの語らいの中で、フアンはシャロンに人生において大切なことを教えてくれた。その時のパンチラインがこちら。

At some point you gotta decide

for yourself who you gonna be.

Can’t let nobody make

that decision for you.

いずれ自分の道は自分で決めろよ

他人に決めさせるな

人生の何十年もの先輩の言う言葉は、めちゃ刺さる…。
まだ幼いけど、ゲイであり麻薬中毒の母親を持つ内気なシャロンにとって、これから歩んでいく人生は決して易しいものではないことをフアンは見通していた。

広大な海を人生と見立てて、自分の力で泳げるようにと願っていたフアン。海に浮かぶシャロンに対して「いま地球の真ん中にいるぞ」と、世界の中心は自分だということを暗に伝えていた。

シャロンにとって、この言葉がずっとお守りになってるといいな。

②「この辺の連中は海で悲しみを紛らす」

高校生になったシャロンは相変わらず無口で内気。ゲイだという理由からクラスメイトに執拗な嫌がらせを受けていた。
そんなシャロンのたったひとりの友達がケヴィンだった。シャロンに対して偏見を持たずに彼自身と向き合ってくれるケヴィンに、彼は特別な感情を抱いていた。

いつものように母親からきつい仕打ちを受け、行くあてもなく彷徨い海辺にたどりついたシャロン。すると偶然そこにやってきたケヴィンと大麻を吸いながら静かに話をすることに。

海を見ながら「泣きすぎて水滴になりそうだ」と、シャロンは自分の気持ちを吐き出す。つらいことがあまりにも多すぎるからだ。そんなシャロンに対してケヴィンが返した詩的なパンチラインがこちら。

You just roll out into the water, right?

Roll out into the water like

all these other motherfuckers

around here trying to drown their sorrows.

海に飛び込みたいか?

この辺の連中は海で悲しみを紛らす

ケヴィンの言語センスよすぎんか?
心が通じ合っているかのように、シャロンが求めている言葉をくれるケヴィン。そんなケヴィンの存在に、シャロンはどれだけ救われたことか。

心の距離が一気に縮まったふたりは、どちらからともなくを重ねる。
特別な関係になったかと思ったふたりだったけど、次の日に高校である事件が起きて、なんと離れ離れになってしまった。

③「飯食ったら、ちゃんと話せ」

成人したシャロンに内気だった少年の頃の面影はなく、身体はムキムキに鍛えあげられ、フアンの道をたどるかのように麻薬ディーラーとなっていた。

ある日、久しぶりにケヴィンから電話がかかってきたシャロンは、彼が料理人として働いているという店を尋ねた。高校での事件以来の再会をふたりは喜び、シャロンはケヴィンがつくった料理を食べることに。

子供ができたと近況を話すケヴィンがシャロンに何をしているか質問するも、彼は口を濁す。麻薬ディーラーをやっていることに、後ろめたさを感じているからだ。はぐらかそうとするシャロンに、ケヴィンが言ったパンチラインがこちら。

I’ve been back there in that kitchen, man,

and cooked for your ass and everything, man.

Hey, these grandma rules, man.

You know the deal.

Your ass eat, your ass speak.

お前のために料理したんだ

おばあちゃんのルールだ

“飯食ったら、ちゃんと話せ”

それがフェアってもんだよね。
その人が自分のためにやってくれたことは、きちんとその人に返すべきだ。覚悟を決めたシャロンは、麻薬ディーラーであることを告白する。

物語の最後、シャロンはケヴィンの家を訪れ、そこでようやく自分の想いを伝えることができた。いかつい強面男の風貌へと変身を遂げたシャロンだったが、ケヴィンの肩に寄り添う彼は、あの日の少年に戻っていた。

画像出典元:PHANTOM FILM

配信先:U-next