「ストリートヘッズのバイブル」では音楽や文化の知識を知ることができる映画や本を紹介していくよ!
今回取り上げるのは映画『デトロイト』(2017)。1967年の「デトロイト暴動」(*)の最中にとあるモーテルで起こった悲惨な事件と、それによってその後の人生が激変した人々の物語を描いた群像劇だ。
※…横暴な警察への不満が爆発した黒人によるアメリカ史上最大規模の暴動。暴徒化する黒人と、それを制圧する警官隊による衝突は、死者43名、負傷者1,100名超、逮捕者7,200人という事態にまで発展した。
『デトロイト』とは?
黒人青年たちと2人の白人女性が宿泊していた「アルジェ・モーテル」に警官隊と州兵が「銃を所持している者がいる」と突入し、理不尽で暴力的な尋問を始める。
若者たちは一切抵抗する素振りを見せなかったものの、警官側は根拠なく数名を射殺してしまう。暴行、殺人、職権濫用の罪で起訴されたその警官たちはまさかの無罪判決となり、さらに大きな波紋を呼び……。
今なお続く黒人差別や警察暴力という根深い問題に正面から切り込んだ衝撃作と言える。
『デトロイト』を観るべき5つの理由

①事件当事者も
制作に参加するこだわり
監督を務めたキャスリン・ビグローは、イラクを舞台とした米軍の爆弾処理班を描いた『ハート・ロッカー』や、ウサマ・ビン・ラディンの殺害計画の特殊部隊を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』 などの超センシティブな社会問題をテーマとして扱ってきた敏腕監督。
そんな彼女が挑んだのがアルジェ・モーテル事件。
リアリティを追求することにこだわったキャスリン監督は、多くの資料や証言に当たったほか、なんと実際にアルジェ・モーテルに居合わせた事件の被害者にもコンサルとして制作に携わってもらったんだ。
もちろんある程度の脚色も施されているので、作中の出来事やセリフ全てが史実通りなわけではない。それでも画面越しに伝わってくる緊迫感やむごさは、決して大袈裟ではないはずだ。
②モータウン繁栄の裏には…
今作のサントラには、マーヴィン・ゲイやブレンダ・ハロウェイなど、デトロイト発の名門レーベル「モータウン(*)」に所属していたアーティストの楽曲が多く使用されている。
※ … 1959年にデトロイトで発足したブラックミュージック(ソウル、R&B)専門のレコードレーベル。黒人アーティストによる音楽をポップなサウンドで白人層にも広め、マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーらを輩出した。後でも触れるが、「自動車産業の街(=モータータウン)」がレーベル名前の由来。
このモータウンというレーベルが繁栄した時代背景にも触れておこう。
1960〜70年代のディスコムーブのなかで急速に発展したモータウンだったが、当時彼らが主にターゲットにしていたのは白人マーケット。公民権運動が活発になるにつれて衝突も増えた時代における「黒人が歌い、白人が踊る」という構図は、なかなかに複雑だ。
『デトロイト』の主人公であり、ソウルコーラスグループ「ザ・ドラマティックス」のメンバーだったラリー・リードは、モーテルでの事件に巻き込まれた後、「自分が歌う音楽で白人たちが踊ることに納得できない」と、グループを脱退する(これは実話だ)。
残されたメンバーたちももちろん複雑な心境だったと思うけど、雇用の機会が極めて低く、仕事の選択肢もろくにないような黒人社会において、食べていくために音楽の道を選ばざるを得ないこともおおいに理解できるよね。
③デトロイトという町の実情
デトロイトは、先ほども触れた「モータウン」誕生の地としても知られるように、商業的に成功したアーティストが多い。時代が下ってからも、Jディラ、エミネム、ビッグショーンなど素晴らしいアーティストが登場してきた、音楽的に重要な都市だ。
しかし、「音楽シーンが盛り上がっている」という認識だけではデトロイトという町を捉え切れないとも思う。
1900〜1960年代までは、「フォード・モーター」や「GM(ゼネラルモーターズ)」に代表される自動車産業で栄華を極めたデトロイト市。しかしデトロイト暴動の後は、郊外への人口流出が急速に進み、一気に街が衰退していったんだ。住む人がいないと税収(=市の財政)が減る。税収が減ると荒れた街の再生ができない。荒れたままの街はまた人が離れる……という負の連鎖が完成してしまったわけだ。
実際につい数年前まで、ホラー映画の撮影に使われるほどゴーストタウン化していたそう。今でこそ再開発が進んでいるものの、まだまだ治安が良いとは言えないエリアも多い。
デトロイト産の素晴らしい音楽を聴く時、その音楽がどんな環境で生み出されたのかを知ることもまた、ヘッズとしてのあるべき姿かもしれない。
④憎悪の中でこそ…
作中で特に印象的なセリフを紹介しよう。
主人公のラリーが、偶然泊まることになったアルジェ・モーテルの部屋から彼女に電話をかけておしゃべりしているシーン。「外では暴動が起きているけど、帰ってこなくて大丈夫なの?」と心配する彼女を安心させるためにラリーが発したのが
「憎悪の中でこそ愛を大事にしなきゃ!」
という一言。そしてあろうことか、その数分後に警察がモーテルに突入することに…….。
まさに憎悪の連鎖を生んでしまうような事件の直前にこのセリフを入れたのは、明らかに脚本家や監督の意図がありそうだ。これを皮肉ととるべきか、言葉通りの前向きなメッセージとるべきか……。あなたはどう思う?
⑤The Rootsによる
エンディングも必聴!
エンディングに用いられた曲は、元祖生音ヒップホップバンド・The Rootsによる「It ain’t fair」。
【The Roots – It Ain’t Fair (feat. Bilal) 】
序盤の哀愁漂うゴスペルから一転、バースに移ると、聴き手1人ひとりに切実に語りかけるようなラップが展開される。リリックの内容は、もちろんこのデトロイト暴動や、2010年代に展開されるブラックライブズマターに関連するもの。まるで当事者たちの怒り・悲しみを代弁しているようだ。ラップ部分の歌詞を一部見てみよう。
Every day I wear a mask like an umpire.
(私は毎日野球の審判のようなマスクをつけている)
Guess a n*** gotta laugh to keep from crying.
(黒人は泣かないように笑うしかないんだろう)
Tonight another friend passed on the young side
(今夜また1人若い友人が亡くなった)
映画『デトロイト』は、1967年のデトロイト暴動から50年の節目に公開された。つまり、来年2027年は暴動から60年。デトロイト市は再開発に力を入れ、街並みもかなり整ってきているようだけど、人種差別の問題は果たして良い方向に進んでいるんだろうか?
少しでも気になった方はぜひ観てみて!
出展元:映画『デトロイト』公式サイト
配信先:U-NEXT
