映画 『それでも夜は明ける』を観るべき5つの理由|ストリートヘッズのバイブル Vol.32

奴隷制の真実を描いた第86回アカデミー作品賞受賞作

ライター:TARO

みんな文化ディグってる?
「ストリートヘッズのバイブル」ではヒップホップ好きにオススメの映画を紹介していくよ。

今回取り上げるのはアメリカの黒人奴隷制の真実を描いた映画『それでも夜は明ける』。

実際に奴隷として過酷な生活を強いられたアフリカン・アメリカンの男性の手記を元にしている映画であり、アカデミー賞で作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した作品だ。

『それでも夜は明ける』ってどんな映画?

12年間に渡って奴隷として生活したアフリカン・アメリカンのバイオリニスト、ソロモン・ノーサップ氏の手記「Twelve Years a Slave(12年、奴隷として)」を元にした伝記映画。

1841年、ニューヨークでバイオリニストとして働き、家族と共に幸せな生活を送っていたソロモンは白人の奴隷商人に誘拐され、南部に売り飛ばされる。そこで待ち受けていたのはあまりにも凄惨な黒人奴隷としての生活だった。

自由な一市民としての生活を送っていた男性が、突如として人間の尊厳を全て踏みにじられ、理不尽な差別と残酷な暴力に晒される中で、決して希望を失うことなく生き抜いた事実を映像化した映画史に残る作品だ。

『それでも夜は明ける』を観るべき5つの理由

①真実のストーリー

『それでも夜は明ける』が他の奴隷制を描いた映画と異なるのは、やはり実話を基にしているということ。原作の手記「Twelve Years a Slave(12年、奴隷として)」を記したソロモン・ノーサップ氏は1800年代のニューヨークで、自由証明書を持った“自由黒人(free black)”として生活していた実在の人物だ。

当時のアメリカ北部では奴隷という身分から解放されたアフリカン・アメリカンの人々もおり、そういった人々は白人と同等とはならないまでも、一市民として職に就き、家族を持つことができていた。

ソロモン氏もそういった自由黒人の一人であり、バイオリニストとして働き、一市民として生活していた男性だ。そんなソロモンはある日奴隷の密売を行う白人に拉致され、南部の農園に奴隷として売り飛ばされてしまう。その後約12年間に渡って、過酷な労働と暴力に耐えた後、奇跡的に解放され家族の元に戻ることになる。

その後彼が書いたのが自らの奴隷体験を記した手記「Twelve Years a Slave(12年、奴隷として)」だ。

この事実が重要なのは、当時、アメリカ南部で奴隷として働かされていた人々の多くは文字を書くことができなかった場合が多いということ。劣悪な環境下で労働を強いられ、暴力に晒される日々の中で読み書きを学ぶ時間も資源もないというはもちろんだけど、それ以上にひどいのは、1800年代のアメリカでは多くの州で黒人や有色人種に対する「読み書き禁止法」という法律が制定され、黒人の人々が文字を学ぶことを法律としても禁止していたということ。本当にありえない話だよね。

ノーサップ氏のように自分の体験を文字にして出版できる人は限られており、その意味でも原作である「Twelve Years a Slave」は黒人奴隷制がいかに残酷な制度だったかという事実を後世に伝えるのに、非常に大事な資料なんだ。

②奴隷制の現実

ソロモン氏の手記「Twelve Years a Slave(12年、奴隷として)」を映像化した本作で描かれる奴隷制の実態は目を背けたくなるほど残酷なものだ。

一市民として生活していたソロモンを薬で昏睡状態にし、拉致、そして徹底的に暴力で痛めつけることで服従させる過程、動物小屋のような場所で裸にされ、まるで荷物のように馬車に詰め込まれて連れて行かれた奴隷市場で売り捌かれた後に待ち受ける白人の農園主や奴隷の監督官からの残忍な暴力。

昨日まで一人の人間として暮らしていた男性が、あっという間に人として尊厳を全て奪われ、地獄という言葉ですら生ぬるい環境に突き落とされていく。

それがたった百数十年前のアメリカで当たり前のように起きていた現実だったんだ。

③黒人監督による映画

この映画を監督したのはイギリス人映画監督、スティーヴ・マックイーン。
彼自身カリブ海の国家グレナダ出身の母とトリニダード・トバゴ出身の父を持つBlack British(ブラック・ブリティッシュ)であり、本作以前に北アイルランドの刑務所で起きた抗議運動を題材にした『HUNGER/ハンガー』​​(イギリス人として初となるカンヌ国際映画祭カメラ・ドール受賞)や、セックス依存症に悩む男の悲哀を描いた『SHAME -シェイム-』(ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞ノミネート、英国アカデミー賞英国作品賞ノミネート)などで、世界的に高い評価を受けてきた監督だ。そんな彼が長編三作目にメガホンをとったのがこの『それでも夜は明ける』なんだ。

彼はnprのインタビューでこの映画についてこのように語っている。

「これが私が観たい映画だった。誰も作っていなかったので、これをやりたい、この映画を作りたいと思った。映画の基準の中に大きな穴が空いてるようなものだと感じたよ。歴史の一部であり、アメリカの歴史の大きな一部であるものがね。“これこそ私が伝えたい話だ” と思ったんだ。」

④役者たちの名演技

この映画を名作たらしてめているのは、監督は手腕はもちろんだが、やはり出演している役者たちの圧倒的な演技。

主役のソロモンを演じるのはイギリス映画界きっての実力派、キウェテル・イジョフォー、残酷な奴隷主の“エップス”は『HUNGER/ハンガー』​​、『SHAME -シェイム-』でもマックイーン監督とタッグを組んできた名優マイケル・ファスベンダー、温厚な奴隷主“フォード” にBBCの『SHERLOCK』シリーズでお馴染みの演技派俳優ベネディクト・カンバーバッチ、物語の終盤に重要な役割を果たすカナダ人大工“バス”にブラッド・ピットなど、主演から脇役まで実力派俳優を揃えた映画になっている。

またこの映画でエップスのプランテーションで働く奴隷を演じた、ケニアにルーツを持つ女優、ルピタ・ニョンゴ​​はその演技が絶賛され、アカデミー助演女優賞を受賞。その後『ブラックパンサー』など話題作に出演するなど一躍ハリウッドのトップ女優の仲間入りを果たしたんだ。

⑤現代の人種差別問題を考える

この映画を観て考えたいのは、人種差別や奴隷制という問題は決して過去のものではないということ。アメリカでも現在もアフリカ系の方や有色人種に対する差別は根強く残っているし、世界的にも人身売買や弱い立場の人種や民族からの搾取はいまだに至るところで行われている。僕たちが住む日本でも例外ではない。移民や弱い立場のマイノリティの人々の権利を身近な問題として捉えること。それがこの世界からいつか人種差別というものを失くすための第一歩だ。

画像出典元:ワーナー・ブラザーズ

配信先:Prime Video

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