あなたの人生は生まれや環境で決まらない!ヒップホップ好き僧侶・西田稔光が説く“諸行無常”の本当の意味

悩める現代人必見!仏教的メンタリティを伝授

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今回のゲストは、栃木県足利市在住の僧侶・西田稔光(にしだ しんこう)さん。最終回では、改めて自身のYoutubeチャンネル「僧侶しんこうのHIPHOP仏教」の活動についてお話しいただきます。稔光さんが考えるヒップホップと仏教の共通点とは!

前回の記事はこちら →  青い春から解き放たれて“禅の道場”へ。僧侶・西田稔光が振り返るハードな修行の日々

リリック考察動画を見た
ラッパーからのリアクション

レペゼン :
今、行われているYoutubeでの発信についても改めてお聞きしたいと思います。なぜ仏教視点からのリリック考察の動画配信を始められたんですか?

西田稔光 :
コロナ禍の影響が大きいですね。2020年頃、僕は仏教を伝えていくための勉強をする研修所にいたんです。人と会うことが難しい間、仲間たちとYouTubeでオンラインで仏教の話をしたり坐禅をしたりしてみようということになり、「禅活ちゃんねる」というグループを立ち上げました。その活動の中でラップを仏教の視点から考察して話してみると、見てくださる方がけっこう多くて。じゃあ個人でもチャンネルを持ってやってみようという形で、今の活動を始めました。

レペゼン :
今のチャンネルの前身となる活動母体があったんですね。

西田稔光 :
私は世代的にもSNSで顔を出すということに若干抵抗がありましたし、解釈が十分でないことに対する指摘もあるかなと思ったりもして、不安でしたけどね。

レペゼン :
実際の反響はいかがでしたか?

西田稔光 :
意外なことに、あまり否定的な意見はいただくことなく、けっこう受け入れてもらえたなっていう感触でした。仏教の方からは、「なんで僧侶の服をちゃんと着てやらないんだ?」っていう声もありました。でも、それだと見た目だけで説得力が出てしまう気がするから、普通の洋服を着て話したいというひねくれた考えがあったんです笑

レペゼン :
たしかに袈裟(けさ)を着て話していると、厳かな雰囲気になりますもんね笑
ヒップホップ業界からは何かリアクションはありましたか?

西田稔光 :
これも最初はめちゃくちゃ批判されるだろうなって思ったんですけど、ほとんどなかったですね。
僕がやっていることは仏教の視点からの考察なので、ラッパー本人の書かれた意思とは違うわけじゃないですか。だから「勝手に宗教と結びつけるな」って言われると思ったんですけど、実際は全然なくて。なんならわざわざ「よかったら曲聴いてください」と、DMで未発表の曲のデータを送ったりしてくださる方もいましたね。そうやって仏教とヒップホップを混ぜるということに対してハレーションが起こるかと思いきや、すごく寛容に受け入れてもらえています。

レペゼン :
おお!「考察してほしい」という声がラッパー側から届くこともあったんですね。

お釈迦様もライミングしていた!?
仏教とヒップホップの共通点

レペゼン :
そうやって「仏教×ヒップホップ」という発信を行われている稔光さんですが、両者の共通点はありますか?

西田稔光 :
もちろん相容れない部分はあると思うんです。いわゆる僧侶の立場からは肯定できないなっていう曲も存在はするので笑
でも、「人生は生まれや環境で決まらない」っていう立場をとっているのは、仏教もヒップホップも近いですね。

レペゼン :
面白いですね!詳しくお聞きしたいです。

西田稔光 :
自らの行いによって人生を正していき、良い方向に向けていくという精神の部分ですね。「スタート地点が悪かったから悪い人生だ」ではなく、自分の行いによって良い方向に向けていこうということは仏教でもヒップホップでも言われます。

レペゼン :
たしかに。ゲットー生まれのラッパーが成功するストーリーなんかはその典型ですし、聴いている側も勇気づけられますよね。

西田稔光 :
そうなんです。それにラッパーの方が、生き死にのことや自分の内面のことを突き詰めて言葉にした時に、こんなに仏教に近い発想になるのかということが多々あって驚きますね。我々が見習いたいくらい的確で端的に言葉にされていたりします。なので、精神性の部分とそれを巧みに表現する部分は、共通するものがあると思います。

レペゼン :
「言葉で的確に伝える」というところも、仏教とヒップホップで近いものがあるんですか?

西田稔光 :
はい。例えば仏教の表現方法で面白い話があって。昔、お釈迦様が一通り説法をした後に、みんなが内容を覚えておけるように、その場でちょっとした詩を歌ったそうなんです。そこで使われたのが、節回しと韻だと言われています。つまり、音の響きとリズムで言葉をより深く伝えていくっていうところに着目すると、ラップの作りとめちゃくちゃ似てるんです。これは仏教が中国に伝わってからは漢詩、日本では和歌という形で続きました。

レペゼン :
すごい!これはめちゃくちゃ面白いですね。

西田稔光 :
いわゆる韻とフロウっていうのは、人類に共通している思いを伝える手法なのかなと思ったりもします。

レペゼン :
ヒップホップでいうと、キャッチーなフレーズが流行りやすいじゃないですか。代表的なもので言うと「チーム友達」のように、リフレインしやすいフックがバズったり。ああいうのはまさに民衆に広まりやすい「南無阿弥陀仏」という念仏とリンクするんじゃないかなと思いました。

西田稔光 :
印象的なフレーズを作れるのは大切ですよね。今、僕も武蔵野大学で非常勤講師として授業を持ってるんですが、学生さんからの授業のフィードバックを見ていると、やっぱり印象的な言葉を投げかけているかはめちゃめちゃ重要なんだなって思います。そういうのを狙いすぎても良くないですが、「これだけは伝えたい」という時に、いわゆるパンチライン的なフレーズがあることは重要だと思います。

自分の行い1つで闇から光へ
進んでいける可能性がある

レペゼン :
現代にはさまざまな問題があり、さまざまな悩みを持たれている方がいらっしゃいます。何か「こういう考えを持っておくと良いよ」という仏教の考えはありますか?

西田稔光 :
改めて「諸行無常」っていう言葉を紹介したいです。この言葉はなんとなく平家物語での「諸行無常の響きあり」のイメージから、元気だったものが元気じゃなくなるみたいなイメージで捉えている方が多いと思うんですが、仏教で言う「諸行無常」は、ただただ変化をするということだけなんです。その変化に対してネガティブもポジティブもないんです。

レペゼン :
そうなんですか!その後の「盛者必衰の理を…….」に引っ張られていました笑

西田稔光 :
また、自分のYoutubeでもお話しているんですが、お釈迦様が「人には4種類ある」という話をしています。

1, 光から光へ向かう人
2, 光から闇へ向かう人
3, 闇から光へ向かう人
4, 闇から闇へ向かう人

の4つですね。諸行無常なんだから、どれかから抜け出せないわけではないって言うんですね。「今、自分は闇から闇へ進んでいる」と思っていても、次の行い1つで光の方へ向かっていけるかもしれない。なぜなら諸行無常であるからなんですね。つまり自分の次の何気ない行い1つが、物事を良い方向に向けていく可能性になりうるわけです。

レペゼン :
絶え間なく流れているからこそ、マイナスからプラスにも変わる余地が常にあるということですね。

西田稔光 :
はい。その流れていく時間の中で「自分はどう在るか?」かを問われるのが仏教なんです。一神教の場合は、「これをやりなさい、これはしてはいけません」っていう神との契約になるんですが、仏教は「こうやると悪い方向にいくけど、あなたはどうすんの?」って聞かれる宗教なんです。なのである意味スパルタなんですよね。

レペゼン :
なるほど。「こっちこっち!」と導いてもらうのではなく、「あっちもこっちもあるけど、どうしますか?」と選択が委ねられているわけですね。

土壇場で人を救うのは
理屈抜きの“気持ち”かもしれない

レペゼン :
では最後に、悩んでいる方に向けておすすめできる、心が楽になるラップソングを教えていただけますか?

西田稔光 :
僕、正直死にたいと思ったことがないんです。死ぬのが怖いという気持ちはあるんですけど。だから希死念慮(自らの命を絶つことについての考え)がある人や、身内が自死してしまった方との接し方って本当に分からなかったんですけど。ZORNさんの「いたいのとんでけ」はご紹介したいですね。

【 ZORN – いたいのとんでけ 】

レペゼン :
特定の誰かに語りかけるようなリリックが印象的ですが、特におすすめしたいポイントはありますか?

西田稔光 :
この曲はバースが3つあって、それぞれ誰が死にたいと思ってるのかの視点が違うんです。1バース目はZORNさん自身の希死念慮で、2バース目はZORNさんが目の前にした人、3バース目が友達でDJだった人なんです。その中で

命ってかお前が大切

とか

一個だけわがままを言っていいんならまた会おう

というリリックがあります。僕はどうしても「僧侶としてこの人を助けなきゃ」と考えていたところがあって。でもこの曲を聴いて、理屈ばかりが人を納得させるものではなくて、時には主観的な気持ちが原動力であってもいいんだ思ったんです。

レペゼン :
たしかに。本当に苦しんでいる人に届くのは、結局、切実でまっすぐな気持ちなのかもしれませんね。

西田稔光 :
はい。個人的に、ZORNさんは痛みから立ち上がった、あるいは痛みとともにありながら前に進んでいく姿をずっと見せてくれていると思うので。いろんな種類の痛みに対する言葉をくれるなって思います。「家庭の事情」では子どもの頃の辛い環境を歌っているし、「Lost」ではラッパーとして成功した後の苦悩を歌っているし。人生のいろんなステージで抱えてきた痛みに対して向き合ってきた人なので、いろんな痛みに届く曲があるんだと思います。

レペゼン :
その通りですね。
今回は、稔光さんの活動内容から派生して、仏教視点からプッシュできる曲、大切な仏教の教えなど、たっぷりお話いただきました。ありがとうございました!

西田稔光 :
ありがとうございました。

プロフィール

  • 西田 稔光(にしだ しんこう)

    西田 稔光(にしだ しんこう)

    栃木県足利市・明林寺の副住職。 駒澤大学仏教学部を卒業した後、曹洞宗大本山永平寺で2年間修行し、さらに曹洞宗総合研究センターで布教について学ぶ。コロナ禍に同期の僧侶とYouTubeでの発信を始め、後にヒップホップカルチャーを仏教の視点から考察するYouTubeチャンネル『僧侶しんこうのHIPHOP仏教』を開設。仏教の視点のおもしろさと人生に活きる仏教を発信するために活動中。その他、都内にて坐禅会や食事作法のワークショップ等も開催。

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