青い春から解き放たれて“禅の道場”へ。僧侶・西田稔光が振り返るハードな修行の日々

キャンパスライフから一変!由緒正しいお寺で始まった生活

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今回のゲストは、栃木県足利市在住の僧侶・西田稔光(にしだ しんこう)さん。今回は、本格的に僧侶の道に進むために門を叩いた曹洞宗の大本山・永平寺での修行期間の思い出を振り返っていただきます。テレビもラジオもスマホもない環境に身を置くなかで、稔光さんはどんな学びを得たのか!そしてヒップホップは、ここでも稔光さんの力になりえたのか!

前回の記事はこちら →  こちらから見りゃサイテーな人、だが……。僧侶・西田稔光をヒップホップの虜にしたRHYMESTERのパンチライン

栄養が足りず脚気寸前!?
修行僧の食生活

レペゼン :
大学卒業後は、本格的な修行に進まれたんですよね?

西田稔光 :
はい。福井県にある永平寺(えいへいじ)に行き、2年間修行を行いました。

レペゼン :
2年間ですか!修行というのは何をするんですか?

西田稔光 :
先ほどもお話ししたように「曹洞宗は生活の全てが修行」という考えなので、そこでの生活全てが修行という捉え方ですね。加えて、お寺全体を回していくのにいろんな役があるんです。例えば建物を案内する役とか、広報誌の編集をする役とか、受付役とか。そういうのを3ヶ月に1回くらいのペースで回しながら生活していきます。

レペゼン :
お寺の修行と聞くと、朝早くに起きてお寺の掃除をしたり、お経を読んだり、滝行をしたりというイメージがなんとなくあります。「生活が修行」とおっしゃいましたが、具体的にどんな生活なんですか?

西田稔光 :
前提として、曹洞宗というのは人と違うことをして何か特別な力を身につけるということではないので、滝行とか護摩焚きみたいなことはしないんです。ただ、今おっしゃっていたのは割と近いですね。だいたい朝4時くらいに起きて、まず最初に坐禅があります。その後、お経を読んだあと、食事をいただきます。

レペゼン :
まず坐禅から1日が始まるんですね!食事というと、野菜や豆を中心に食べる精進料理ですか?

西田稔光 :
そうですね。ただ厳密に「肉を食べてはいけない」っていうことは決まっていません。ただ、栄養を摂りすぎると精力がつきすぎてしまうので良くないとされているんです。なので日常的に出る食事の中には肉・魚は入っていません。でも、例えば雪かきなどの大変な作業がある日は、献立を考える方が豚汁を作ってくださったこともありました。

レペゼン :
じゃあそれ以外の日は、必要以上のカロリーは摂らないわけですね。

西田稔光 :
はい。なので学生時代の生活との違いが激しくて、めちゃくちゃ辛かったですね。しかも急に肉を絶つと、ビタミンが不足して脚気(かっけ)(*)になるんですよ。ご飯はおかわりできるので、炭水化物を摂りすぎて。足がむくんでトイレが近くなってという症状が出ることがあります。

※ … ビタミンB1が不足することで神経や心臓に障害が起きる病。全身のだるさや食欲不振から始まり、進行すると手足のしびれ、むくみ、動悸、歩行困難などを引き起こす。

レペゼン :
すごい世界ですね。献立は日によって変わるんですか?

西田稔光 :
変わりますね。僕は料理を作る役に当たったことがあったんですが、その時はなるべく外の世界の味に近づける工夫をしていました。そうするとやっぱり仲間に喜ばれるので笑

レペゼン :
他の方も外界の食習慣とのギャップに苦しんでいたんですね笑

修行が始まる日にかかってきた
親友からの一本の電話

レペゼン :
修行時代、一番大変だったことはなんですか?

西田稔光 :
人に会えないことですね。もちろん一緒に修行している仲間はいますが、学生時代の友達はお寺の子じゃなかったので修行では一緒ではなかったですし。「自分がいなくても友達の日常が進んでいってる」ということがショックでしたね。

レペゼン :
たしかに家族や友達に会えず、地元からも離れた環境ですもんね。SNSは見れたんですか?

西田稔光 :
いえ。携帯、パソコン、テレビがない状態なので何も見れないですね。もちろん音楽も聴けないですし。

レペゼン :
そうなんですか!完全に外界から隔離されているわけですか?

西田稔光 :
唯一、手紙だけが外とやりとりできる手段でした。あとは、僕の地元からは遠いですが、直接会いに来てくれれば面会することもできます。

レペゼン :
すごいです。失礼ですが、刑務所みたいな状態ですね……!

西田稔光 :
そうですよね。修行中にB.I.G. JOEさんの『監獄ラッパー』(*)を読んだ時に「僕らよりちょっと良い生活してる!」って思いました笑

※ … 札幌出身のラッパーB.I.G. JOEが、ヘロイン密輸容疑でオーストラリアの刑務所に服役した6年間を綴った手記。

レペゼン :
辞めたいと思うことはなかったんですか?

西田稔光 :
辛くても諦めなかったのは、仲間やお檀家さんや家族から「頑張っておいで」と送り出してもらったのが大きかったです。特に、永平寺に着く直前に、かかってきた親友からの電話はめちゃくちゃ支えられましたね。「俺、就職決まったから、お前が帰ってきたら飯を奢ってやるから頑張ってこい」って言われたんです。そうなると「辛かったからもう辞めてきた」と帰ることはできないじゃないですか笑
なので、送り出してくれた人の存在が挫けない理由になりましたね。そして、その人たちの役に立ちたいという気持ちが根本にあるからこそ、今のような活動を行っています。

レペゼン :
仲間や家族のためにタフに生きる……。これもどこかヒップホップと似たものを感じます。

当たり前なものはない。
身をもって学んだ教え

レペゼン :
修行時代に学ばれたことの中でも、特に印象的なことはなんでしたか?

西田稔光 :
「当たり前なものなんて一つもない」ということです。ここに気づけたことはめちゃくちゃ大きかったですね。全てのものが因縁仮和合(いんねんけわごう)だということを、身をもって体感しました

レペゼン :
因縁仮和合……。聞き馴染みのない言葉ですが、どういう意味ですか?

西田稔光 :
この世のあらゆるものは因(原因)と縁(はたらき)が一時的に和合したものであり、存在が保証されているものはない、ということですね。

レペゼン :
なるほど。あって当たり前だと思っているものは実はそうではなく、いわば仮止めされたような状態であるということを、ご自身の経験からも学ばれたんですね。

西田稔光 :
そうです。「有難い」というのは「そこに有るのが難しい」と書くので、そういうことなんだなって思いました。

レペゼン :
素晴らしいです。もう今のお話を、そのまま曲にできそうですね!

坐禅中に脳内でループ!?
現実に向き合う為の思い出の1曲

レペゼン :
修行時代に励まされた曲を教えていただきたいところですが、ヒップホップは聴けなかったということですよね?

西田稔光 :
はい。でも、ひたすら頭の中で繰り返し思い返していました笑
修行が始まってすぐの頃なんかは、頭の中でずっとKICK THE CAN CREWの「アンバランス」を歌っていましたね。

【 KICK THE CAN CREW – アンバランス】

レペゼン :
ここでもKREVAさんが登場ですね!
なぜこの曲だったんですか?

西田稔光 :
まず、丸暗記してる曲って限られてるじゃないですか笑
この曲は、学生時代にカラオケで散々歌って覚えていたというのが1つと、あとはリリックの中で

しのごの言いたがんじゃねぇ
知ってるさ俺らはピーターパンじゃねえ
ジタバタしても時は流れる
青い春から解き放たれる

っていう一節があります。「現実を分かってはいるけど揺れ動く」というメッセージが、修行をしている自分の境遇と重なり、代弁してもらえているような気持ちになりましたね。なので、「自分はもう学生じゃなくなったんだな」っていうのを噛み締めながら坐禅中にリピートしていました笑
自分なりに現実を受け入れようとしている時間だったのだと思います。

レペゼン :
坐禅しながら脳内でKICK THE CAN CREWを流していた僧侶は、きっと稔光さんだけでしょうね!笑

次回はいよいよ最終回。Youtubeにて「仏教視点を取り入れたリリック考察」を行っている稔光さん。そんな独自な活動を行う彼のもとには、仏教シーン、ヒップホップシーン、それぞれの世界からどんなリアクションが返ってきたのか!?お楽しみに!

プロフィール

  • 西田 稔光(にしだ しんこう)

    西田 稔光(にしだ しんこう)

    栃木県足利市・明林寺の副住職。 駒澤大学仏教学部を卒業した後、曹洞宗大本山永平寺で2年間修行し、さらに曹洞宗総合研究センターで布教について学ぶ。コロナ禍に同期の僧侶とYouTubeでの発信を始め、後にヒップホップカルチャーを仏教の視点から考察するYouTubeチャンネル『僧侶しんこうのHIPHOP仏教』を開設。仏教の視点のおもしろさと人生に活きる仏教を発信するために活動中。その他、都内にて坐禅会や食事作法のワークショップ等も開催。

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