最先端か、オールドスクールか。永野が考える音楽とお笑いに共通するアンテナの張り方

ラッセンのネタで大ブレイク。忙しさの中で仕事をやり抜くパワーを与えてくれたラップソングとは?

ライター:TARO

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人にインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月は芸人界随一の音楽通であり、音楽とカルチャー愛を語りまくる『オルタナティブ – 落ちこぼれ芸人・永野に寄り添った人、音楽、映画たち』を出版されたお笑い芸人・永野さんに4回に渡ってお話を伺います。強烈なインパクトで知られる永野さんの芸風を作り上げた、“オルタナティヴ”な音楽たちとは?

前回の記事はこちら→芸人・永野を覚醒させたエミネムの革新性。スリム・シェイディから始まった永野伝説とは?

多忙な時期を支えてくれたラップソングとは?

レペゼン:
永野さんは2016年頃にラッセンのネタで大ブレイクされたと思うのですが、その当時ってどんな音楽を聴いていたんですか?

永野:
売れるちょっと前の時期の話からすると、もう30代半ばになってロックに飽きてたんですよ。

レペゼン:
聴きすぎてって感じですか?

永野:
そうすね。ただヒップホップもEminem(エミネム)とかBlack Eyed Peas​​(ブラック・アイド・ピーズ)くらいしか知らなくて。そんな時にネットかなんかでPublic Enemy(パブリック・エナミー)の「Fear Of A Black Planet」を知ったんすよ。ジャケットの80年代、90年代くらいの感じが懐かしくて、これは聴かねばと思って、ブックオフで500円ぐらいで買ったんです。で聴いてみたら、ロックファンの自分でもめっちゃ楽しめたんすよ。

Fear Of A Black Planet】

レペゼン:
どのあたりが楽しかったんですか?

永野:
音もどんどん変わっていって、後の音もガチャガチャしてるし、Chuck D(チャックD)と Flavor Flav​​(フレイヴァー・フレイヴ)の声の違いもめっちゃわかりやすくて。これはすごいわと思って、聴ける限り全部聴いてハマったすね。

レペゼン:
確かに2人のキャラがすごく立ってますよね!

永野:
で、その後2016年くらいから忙しくなって、イケイケでいくしかないじゃないですか。その時期、特にパブリック・エネミー聴いてましたね。エミネムじゃちょっと内省的すぎたんですよ。

レペゼン:
確かに。

永野:
もちろん内省的なテンションもあるんですよ。ただ当時はめちゃくちゃ忙しくて、パワーが欲しい時だとパブリック・エナミーぐらい聴いとかないと、死んじゃうみたいな。僕いまだにウォークマン使ってるんですけど、移動中の車で「Fight The Power」をウォークマンでめっちゃ聴いてましたね。

レペゼン:
確かに気持ちを鼓舞してくれる曲ですよね!

永野:
ネタをやってやれ!みたいなときのパワーっていうのは、本当にロックはあんま効果ねーなと思って。パブリック・エナミーからは結構もらってましたね。

最先端か、オールドスクールか。お笑いとヒップホップに共通するアンテナの張り方

レペゼン:
永野さんはどちらかというと80〜90年代頃のヒップホップを中心に聴かれるんですか?

永野:
僕、昔のやつを掘り出していくタイプで最新のやつはあまり聴かないんですよ。
すごい人いるかもしれないけど、今のは音が生じゃないのが多いし。

レペゼン:
好みは分かれる気がします。
80年代〜90年代の音作りと今の音作りは全く違いますし。

永野:
僕は最新のものを追えなくて、自分の原体験の80年代90年代をディグってるだけなんすよ。
でもそれはBeastie Boys(ビースティ・ボーイズ)も言ってて。インタビューで「最近どうすか?」って聞かれて、「最近のはわからない」って言ってて。「昔のレゲエを追っかけるのが楽しくて、それで精一杯」って。

レペゼン:
確かに昔の音楽をディグるのもやること多いですからね。

永野:
20代の時はずっと最新の曲を追って行くって思ってたんですけど、やっぱり年取ると頭打ちになってもう自分の好きなのしか聴かなくなる。

レペゼン:
すごくわかります。
実際自分が10代や20代の頃に好きになった音楽ってその後もずっと好きなことが多いですし。

永野:
そうなんです。結構これお笑いにも通じるところで。

レペゼン:
というと?

永野:
僕、売れた時に同期のお笑い芸人が出てる番組とか見れなくなったんですよ。お笑いって内々の影響だと、パクリになるんで。ある程度玄人が見たらわかるみたいな。別にそれで売れりゃいいんだけど。自分はそれが嫌で。

レペゼン:
なるほど。やっぱり無意識で影響って受けちゃいますもんね。

永野:
そうなんです。逆に映画とか音楽のカルチャーから自分の笑いを作れないかと思ってて。自分はずるいというか、純粋じゃないんですよね。

プロフィール

  • 永野(ながの)

    永野(ながの)

    お笑い芸人。音楽や洋画に造詣が深く、特に10代から聴き始めたロック音楽に関しては芸能界随一の知識を持つ。2014年に「ゴッホより、普通に、ラッセンが好き」というフレーズを叫びながらダンスするという強烈なインパクトのネタでブレイクし、全国区に。また芸人としての活動の傍ら、清水康彦、斎藤工、金子ノブアキらと共に映像制作プロジェクト「チーム万力」を結成し、長編作品「MANRIKI」を発表。2017年からはももいろクローバーZの高城れにとのツーマンライブ「エキセントリックコミックショー 永野と高城。」を開催している。近年はYouTubeチャンネル「永野CHANNEL」にてロックやヒップホップ、そして洋画についてのトークを発信し、今年は音楽や映画に対する熱い想いを綴った書籍「オルタナティブ(リットーミュージック)」を出版するなど多方面で活動の幅を広げている。