@渋谷・神南
昼の間、火照りきった空気を吐き出していた歩道は、夜気のおかげで落ち着いた表情を取り戻したようで、まばらになった通行人たちの足早な歩みを静かに受け入れている。
そのグロリアは歩道から見える道路脇に停められていた。
街灯に照らされて、美しい輝きを放つそのボディの中で、ぽっと小さな灯りが灯った。
Emmaのライターだ。
キャメル・クラフトに火をつけたEmmaは滑らかな煙とメンソールの涼感を喉に流し込みながら、コンビニに夕食を買いに行った彼氏を待っていた。キャメル特有のナッツ風味の香りが、ゆっくりと車の中に満ちる。
また少し人通りが増えてきた歩道で、グロリアから出た煙がいくあてもなく漂っていた。