ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。
今回のゲストは茅葺き職人の相良育弥(さがらいくや)さん。最終回となる今回は、ついに1人の職人として独立した後のお話に。茅葺き業界を盛り上げる独自の発想力やその活動内容は、ヒップホップから学んだ三大原則に大きな影響を受けていると話す相良さん。これから目指す理想のあり方に迫ります。
前回の記事はこちら → 目指すは100個の生き抜くスキルを持つ“百姓”!相良育弥が茅葺きの世界に足を踏み入れたワケ
安心して門を叩ける場所へ。
株式会社くさかんむりの誕生

レペゼン :
修行が終わってからは、いよいよ独立されたんですか?
相良育弥 :
そうですね。修行期間が終わることを「年季明け」っていうんですけど、その後、31歳で独立して地元に戻りました。
でもすぐに仕事が来るわけではないので、独立後3年間ぐらいは、お世話になった親方たちの現場に応援に行きながら食いつないでいました。そのなかで徐々に地元で仕事がつながってきて、3年目からはもうずっと途切れずに仕事が続いて、今に至るという状態です。
レペゼン :
素晴らしいですね。代表を務められている茅葺きの会社・「くさかんむり」は、いつ立ち上げられたんですか?
相良育弥 :
一番はじめは市民団体として2008年に立ち上げて、令和元年に法人化しました。
レペゼン :
民間組織として走り出したあと、10年近く経ってから法人化したのは何かきっかけがあったんですか?
相良育弥 :
くさかんむりを立ち上げた大きなテーマは、茅葺きの保存活用だったんです。
なので、神戸市からの応援も受けながら、茅葺き民家を使ったイベントや材料の茅をみんなで刈り取るイベントをしてきました。
でも、代表である僕は個人事業主なわけですが、途中から弟子ができ始めるんです。つまり弟子も僕と同じく個人事業主なわけですよ。最初に弟子入りした世代は荒くれ者たちだったので「全然良いっすよ!」と、気にしなかったんですが、次第に「大学で茅葺きを研究した結果、職人を目指したくなりました」と言ってくれる子も現れ出したんです。そうなるとそのご家族から「ここは、ちゃんとした会社なんでしょうか?」っていう疑問が生まれるんですよ。
レペゼン :
なるほど。職場として安心できる環境なのかという指摘ですよね。
相良育弥 :
そうです。市民団体のままだと、お子さんが「茅葺き職人に弟子入りする」って言ってても、家族からしたら不安じゃないですか。なので、そういう子たちが安心して入ってこれる状況を作ってあげたいなと考えて法人化したんです。ちゃんと「世間一般の企業と同じですよ」と言えるように。
レペゼン :
素晴らしい功績がある相良さんですが、くさかんむりのプロップスを、社会的にも確かなものにしたわけですね。
メタ認知とDJ的発想を
茅葺きに当てはめてみる
photo : junpei iwamoto(DOR)
レペゼン :
くさかんむりでは、伝統的な茅葺き屋根の修繕に加えて、現代的な茅葺きの活用も行なっているというお話がありました。茅葺きシーンの中では異色とも言えると思うのですが、なぜこの活動を行うに至ったんですか?
相良育弥 :
僕が弟子入りした頃って、みんな中学、高校、大学を卒業した後、まっすぐ茅葺き業界に入ってるんですよ。他の社会を見ずに入っているから、見ている世界が茅だけなんですね。僕は幸い、DJやアルバイトをフラフラ経験してから茅葺きに入ったんで、もうちょっと広い視野で茅葺き業界を見ることができたんです。
そんな中で、茅葺きのことを面白がってくれている音楽とかアート業界の人と「何かやりたいね」と話して、茅葺きでフェスのステージを作ったり、インスタレーションをやったりみたいな、屋根の修繕以外のことをやりだしたんです。
レペゼン :
柔軟に捉えてらっしゃるからこそ、新しいことにも挑戦しやすかったんですね。
相良育弥 :
やっぱり修繕だけではどうしても先細りなので、今ある茅葺きを守りつつ、世代を若返らせることをしたいですね。
あとうちは弟子が半分女性なんです。
レペゼン :
そうなんですか!めちゃめちゃ素敵ですね。
相良育弥 :
やっぱり男女比も社会に近づけようと思ったんです。男女に同じ人数、所属してもらうことで風通しをよくして、そのうえでシーンを盛り上げていけたら良いですね。
レペゼン :
そうやって、茅葺きに新しいアイデアやシステムを取り入れるというその視野の広さは、どこからきているんですか?
相良育弥 :
自分で分析すると、喘息持ちで体育の授業をよく見学してたのが原体験かもしれません。端っこで体育座りして見学ばっかりしてたんですが、そのうちに見学してる自分を引いて見る状態になったりして、そこである種のメタ認知を獲得したんです。そうやって大局を引いて見る癖がついたのかなと思います。
レペゼン :
小学生にして既にその才覚が!とても大人ですね。
相良育弥 :
あともう一個はDJですね。 やっぱりDJプレイって、取り合わせの妙じゃないですか。「この曲とこの曲をこうつなげた結果、こういう聴こえ方になるぞ」とかね。なんかそういうコラージュの妙みたいなのは多分DJの時に身についたと思います。
レペゼン :
面白いですね。DJの経験も茅葺きに生きているとは。
Back to the Basic!
百姓の強さに立ち返る

レペゼン :
これから特に力を入れていきたいことはありますか?
相良育弥 :
去年、働きすぎた結果、倒れてしまい、半年ぐらい休んでたんですよ。その期間に「いろいろやってきたよなぁ」とこれまでを振り返るうちに、ぐるっと巡って、「やっぱ基本がめちゃめちゃかっこいいよな」と思ってきたんです。
例えばどこかから持ってきてもらうんじゃなく、身近にある草を自分たちで刈り取って茅葺きを作るとか、そうやって昔の人がかつてやってたようなことをもう一回やってみるのってクールだなと思ってきました。なので最近はお米作りを再開したりもしています。
レペゼン :
おお!きっと、いろいろやり続けられたからこそ見える景色かもしれませんね。
相良育弥 :
そうですね。「百姓」の話に戻るんですけど、自分の生活が自活してる状態というか、これからまた災害が起きた時でも困らないくらいの状態に持っていって、さらに余った時間で経済活動したらいいかなって感じですね。今は茅葺きを専業でやってますけど、やっぱりまだ自活まではできてないんです。家族や弟子たちを飯食わしてあげれるぐらいの状態にしてから経済活動してる方がいいんじゃないかなって。最近、台風とか地震も多いじゃないですか。そういう時に「助けて」っていうんじゃなく、誰か他の人を助けに行ける人間を目指したいですね。 モトクロスバイク乗って「大丈夫かー!」って言いに行きたいです笑
レペゼン :
かっこいい!笑
それがまさに生きる力と言えますね。
相良育弥 :
はい。これからはオフライン時の強さみたいなのが大事なんでしょうし、それができてるのがかっこいいなと思ってるので、そういう意味では、「茅葺き職人」というよりも 「百姓」に戻っていってる感覚ですかね。
レペゼン :
なるほど。原点回帰ですね。
先人と伝統に敬意を払いつつ……。
ヒップホップから学んだ三原則

photo : junpei iwamoto(DOR)
レペゼン :
相良さんにとって、ヒップホップと茅葺きの共通点は何かありますか?
相良育弥 :
“オールドスクール・リスペクト・フレッシュ”の3つが、僕が1番ヒップホップから学んだことであり三原則と言えます。なので茅葺きとの共通点というよりも、「この三原則をもって茅葺きに関わるとこうなった」と言えますね。
レペゼン :
なるほど。ヒップホップシーンでも常に重視されているアティテュードですよね。
相良育弥 :
基本的に茅葺きの業界はオールドスクールなんですよ。しかもGrandmaster Flash(グランドマスター・フラッシュ)的な凄腕の職人がいっぱいいるわけで笑
僕も修業時代に、そういった茅葺き職人や茅葺き屋根の家に住んでる人たちに、昔の知恵をたくさん教わったんです。そしてそれに対してちゃんとリスペクトを持ったうえで、それをいかにフレッシュに出せるかどうかを考えていました。
レペゼン :
これまでもヒップホップ好きの職人さんや様々な職業の方にインタビューしてきましたが、多くの方に当てはまることかもしれません。
相良育弥 :
ヒップホップにおけるサンプリングも、古い技術とか考え方を応用して、何かに置き換えて発表するっていう行為じゃないですか。でもサンプリングするからには、そのオリジナルソースにリスペクトを持ってやろうという。そういうヒップホップのプレイヤーの方がやってるスタンスのまま、茅葺きをやってますね。別に毎日ガンガンヒップホップを聴いてるわけでもないし、そういう服装をしてるわけでもないですけど、マインドはそこを持ち続けているんです。
レペゼン :
めっちゃかっこいいです。きっと、この記事を読んだ多くの職種の方にとってのヒントになると思います。
“自分の人生”で何をする?
NakamuraEmiのパンチライン
レペゼン :
最後に。株式会社くさかんむりのテーマソングを選ぶとしたら、どんな曲があげられますか?
相良育弥 :
シンガーのNakamuraEmiさんとMummy-Dさんが一緒にやってる「祭」っていう曲が好きですね。
【 NakamuraEmi – 祭(feat. Mummy-D) 】
レペゼン :
異色な組み合わせですね!特に好きなリリックはありますか?
相良育弥 :
サビがめっちゃ好きなんですけど、サビ前から良くて、
私の世界のバイブルは あなたの世界じゃタブー
文句を言うのは簡単で 褒めるのはむずかしいのさ
っていうとこから始まって、サビが
それぞれのビートを
それぞれのハートを
それぞれのアートを生きていけばいいさ
という歌詞ですね。
レペゼン :
おお!シンプルに詩としてもグッときますね。
相良育弥 :
しかもこれ、Dさんのラップじゃなく、NakamuraEmiさんが歌ってるんです。
レペゼン :
え、そうなんですか!それも含め良いですね。
相良育弥 :
茅葺き業界は超縦社会なので「先輩を崇める」価値観が根強いんです。それももちろん大事なんですが、崇めすぎた結果、しんどくなってしまう子もいるので……。
やっぱり敬意と反発を同じ量持ってないとダメだと思うんです。オールドスクールをしっかり学びつつ、とはいえ、あなたの人生なんだから最終的には「あなたの音」を出して欲しいなと思っていて。僕も弟子たちにそういうことを感じていたので、この歌には深く共感するものがあります。
レペゼン :
求められるのは“それぞれの茅葺きの表現”ですよね。相良さんの教えを受けて、今度はお弟子さんたちがフレッシュな茅葺きの道を切り開かれるのが楽しみです。
というわけで、今回は相良さんの半生から、「音を奏でない」というディープな境地、そしてもちろんヒップホップヘッズとしての側面まで、たっぷりお話いただき、本当にありがとうございました!
相良育弥 :
ありがとうございました!


