帽子を被った先のライフスタイルの豊かさを伝えたい。ハットメーカー・稲葉光亮が目指す境地

敬愛するラッパー・Shing02にもハットを作った驚きのエピソード

ライター:ほりさげ

ヒップホップ好きのスポーツ選手や文化人のキャリアについて全4回に渡ってインタビューしていく「あの人も実はヒップホップ」。今月のゲストはハットメーカーの稲葉 光亮(いなば こうすけ)さん。
最終回では、いよいよ職人として独立を決めた後のクラフトマンとしてのキャリアに迫ります。ハット作りにがむしゃらに向き合った稲葉さんを支えた曲とは!?そしてアメリカ各地のハットシーンを見てきた稲葉さんが目指すハット作りとは!?

前回の記事はこちら →  本場アメリカのレジェンドハット職人から託されたのは大量の……!?稲葉光亮がハットメーカーを志した日

地元で一からやり直す!
ハットメーカーの第一歩

レペゼン :
前回は、稲葉さんがハット職人としての独立を決めた日のことを振り返っていただきました。アメリカ・モンタナ州のレジェンド的なハットメーカーであるリッチ・ランドさんから木型をもらい受けたのが決め手になったんですよね。

稲葉 光亮 :
はい。正確には、もらい受けたというより購入したんですが、そこから帰国する時には「会社に辞めることを言うぞ」と思っていました。それが30歳のことです。

レペゼン :
30歳の節目にして人生の転換を迎えられたんですね!独立後は活動の拠点など含め、どう進めていったんですか?

稲葉 光亮 :
まずは作業する場所ですね。それまで使っていた高円寺のマンションの一室では狭すぎるので、一からやり直そうと思ったんです。そのタイミングで東京の家を引き払い、熊本に帰ってきました。

レペゼン :
そのタイミングで地元に帰られたんですね。

稲葉 光亮 :
はい。地元に帰ったあと、まずは設備を揃えて、作れる環境を整えるところから始めました。環境ができたら、ひたすら帽子を作ってSNSにアップしまくっていました。「ハット作ります」って言っても、作品例をいろんな人に見てもらわないといけないですからね。

レペゼン :
はじめは何がきっかけでオーダーメイドの依頼が来たんですか?

稲葉 光亮 :
ポップアップですね。当時はまだ今みたいなショールームもなかったので、ポップアップがメインで。一番はじめにちょっとしたカフェでポップアップをさせてもらった時にいろんな方が来てくださったんです。当時ちょっと真新しい感じというか「熊本でこういうことやってる人がいるんだ」と興味を持っていただけて、いくつかのオーダーをいただけました。

レペゼン :
ハットメーカーとしての収入だけでやっていけるようになるまでは、どれくらいかかったんですか?

稲葉 光亮 :
トータルで1年くらいかかったかもしれないです。作った帽子を被ってもらい、人伝いに広めてもらうという方法を取りながら、少しずつ熊本以外の地域でもポップアップをしながら徐々に間口を広げていきました。明確に「今月から食べていけるぞ」っていうのはなかったんですけど、徐々に「お客さんがついてきた」という感覚を持てるようになりました。

レペゼン :
地道にブランドの認知を広めていったんですね。

クオリティだけじゃなく
被った先のワクワクを届けたい

レペゼン :
ハットブランド・Kohsuke Inabaのコンセプト、あるいは目指されていることはなんですか?

稲葉 光亮 :
「このハットを被ってどこか非日常の場所へ行きたい」とか、そういうワクワクを感じてもらえる帽子を作っていきたいですね。日本のアパレル業界では商品のクオリティだったり素材の良さを説明することが多いんですが、海外のブランドから感じるのは、帽子単体のクオリティはもちろん、“帽子を被った先のライフスタイルの豊かさ”を提供しているということです。自分もそこに共感するので、そういう方向に持っていきたいと思っています。

レペゼン :
ハットを手にした後の経験にアプローチするわけですね。そうやってハット作りをするなかで、ヒップホップ的な価値観からインスパイアされたものはありますか?

稲葉 光亮 :
そうですね。「自分のスタイルとはなんなのか」という問いは、帽子を作りながらもよく考えます。ヒップホップでも、その人だけの表現やキャラクターが乗っかっているものに説得力を感じるじゃないですか。僕も帽子作りにおいて、「自分自身を表現するスタイルを作り上げる」ということは一番意識しています。

レペゼン :
なるほど。稲葉さんだけが生み出せるスタイルを目指されているんですね。

Shing02に学んだ
「リスペクトの本質」

レペゼン :
職人として独立する際に、奮い立たせてくれたラップソングはありますか?

稲葉 光亮 :
Nujabes – Luv(sic) feat.Shing02 のpart2も好きで、聴いていましたね。

【 Nujabes – Luv(sic) part2 feat.Shing02】

レペゼン :
前回は「part3」をピックアップされましたが、「part2」もお好きなんですね。この曲は、いわゆる「俺は成り上がってやる!」みたいなアティテュードの曲ではないと思うんですが、どういった部分に背中を押されたんですか?

稲葉 光亮 :
何かこう足取りが軽くなるというか、前向きになって、どこへでも行きたくなるような曲なんですよ。すごくポジティブな方向にマインドを持っていかれる感じがするんです。モヤモヤした時に聴くと視界がクリアになる感じがして。

レペゼン :
良いですね。今回は何度かShing02さんの曲が紹介されましたが、なんとご本人に帽子を作る機会もあったとお聞きしました。

稲葉 光亮 :
そうなんです。以前、妻とハワイを訪れた際に、Shing02さんにカカアコ(*)というエリアを案内していただいたことがあって。

※ … ホノルルのダウンタウンとアラモアナの間に位置するエリア。かつての倉庫街を活かしたカラフルなウォールアートと多彩なフードシーンが注目を集めている。

レペゼン :
すごいですね!その前から交流があったんですか?

稲葉 光亮 :
いや、共通の友人が一人いただけで、ほぼ初対面だったんです。でも、一緒に街を歩きながらいろいろな場所を丁寧に紹介してくれて。

レペゼン :
親切な方だ……。

稲葉 光亮 :
すごいですよね。その時、「どうしてここまでしてくれるんですか?」と聞いたら「友達の友達は友達でしょう」と自然に言ってくれたんです。自分が最も敬愛するShing02さんのその言葉に、ヒップホップにおける“リスペクト”の本質を感じました。音楽だけではなく、人との向き合い方や距離感といったものも含めてヒップホップなんだと実感しましたね。そのご縁もあって、Shing02さんにハットを作らせていただいたんです。

完成したハットを被るShing02さん

レペゼン :
本当に素晴らしいお話です。きっと稲葉さん自身のリスペクトの気持ちもShing02さんに伝わったんでしょうね。

アメリカ各地に色があるように
「熊本ならでは」があるはず!

レペゼン :
今後、稲葉さんが挑戦してみたいことは何ですか?

稲葉 光亮 :
日本を飛び出して海外でポップアップをしてみたいですね。やっぱりアメリカからインスパイアされた帽子を作ってはいますが、そこに加えて、日本人ならではのエッセンスを表現できるようになりたいです。

レペゼン :
なるほど。Kohsuke Inabaならではの“節”が逆にアメリカの職人たちに刺さるかもしれませんね!

稲葉 光亮 :
はい。あとはアメリカに行くと、各地のハットメイカーでスタイルがあることが分かるんですよ。LAとか、南国とか、モンタナのカウボーイとか。はたまた、ニューヨークにはニューヨークのハットスタイルがあったりするんですよね。

レペゼン :
とても興味深いです。街によってヒップホップのスタイルが変わるように、ハットひとつとっても地域性が出るんですね。

稲葉 光亮 :
そうなんです。だから、そういう意味で「熊本ならではのスタイルは何か」ということを考えています。それも「自分のスタイルとは」という話と繋がってくると思うんですけど。ハットを通して自分自身を“レペゼン”できるようになりたいです。

レペゼン :
このメディアのインタビューの締めくくりとして最高の回答をいただけました笑
Kohsuke Inabaでは、地元熊本だけでなく、各地でのハットのポップアップも続いているということで、読者の皆さんもチェックしていただきたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

稲葉 光亮 :
ありがとうございました。

プロフィール

  • 稲葉 光亮(いなば こうすけ)

    稲葉 光亮(いなば こうすけ)

    ハットメーカー。単身アメリカに渡り、そこで得たヴィンテージツールや技術を
基に、2017年、熊本県を拠点にしたビスポークのハットメーカー「Kohsuke Inaba」を設立。
伝統的製法で古典的スタイルのハットをモダンに提案している。
アトリエにてオーダーメイドを請けながら、
アパレルブランドやショップからの受注生産も請け負う。

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